おわりに より良い人生にするため改めて考えたい「主体的に生きる」ということ
2024年に注目すべきHRトレンドについて、本特集では「学びとスキル」「キャリアと生き方」「組織づくり」というくくりで、8つのキーワードを紹介した。順に概要を振り返ってみよう。
「より良く生きる」につながる学びとスキルとは
まず、変化が激しい現代に求められる能力として、重要性が増しているのが「非認知能力」だ。広く“人間性”とよばれる個人の内面や特性を意味しており、具体的には「目標を達成する力」「他者と協働する力」「感情のコントロール」で構成される「社会情動的スキル」を指すと岡山大学准教授の中山芳一氏は説明した。子どもの教育の領域で使われることが多いが、自身を客観視し、身につけようと意識することで、大人になってからでも成長が見込める能力であるというから、ぜひ注目していきたい。
非認知能力と関連していると考えられるのが「人間知性(HI)」だ。AIに対して、HI(Human Intelligence)の重要性を説いたグレートジャーニー合同会社代表の安川新一郎氏によると、Intelligenceは「知能」と「知性」の意味を持つが、特に人間の「知性」の部分に目を向け、鍛えていくことが大切だという。人間知性とは「問いのない答えを考えること」。「人はなぜ生きるのか」「人としてどう良く生きるか」「社会をどう良くしていくか」―― 。そんな正解のない問いを考えることこそが人間知性であり、人間に残された役割だと、安川氏は捉えている。
もちろんHIだけが重視されるものでもない。AIとHIは共存し、場面に応じて両立していく必要があるが、それに通じるのが「パラドックス・マインドセット」の考え方である。これは、一見すると両立するのが難しい課題を同時に追求していくマインドセットを指す。正解が見えない複雑な現代の社会状況や、ダイバーシティを重視していくうえでは特に、「両方追求すること」が必要になる。「両者を同時に追求してみることで、イノベーティブな解決策を見いだすことにつながることもある。二兎を追うものは二兎を得る」と京都大学経営管理大学院の関口倫紀氏は語ってくれた。