人材教育最前線 プロフェッショナル編 「教育を受ける機会は均一に、教え方は個別に」を実践する
一人ひとりと向き合い、個々の適性に合った教育を与える――。ヤマト運輸 人事総務部課長の江原 美江氏が何より大切にしていることである。社員を会社の財産=「人財」と考え、「人を尊重」することを基本精神の1つとするヤマト運輸。そんな中で江原氏は、“日本各地に点在するどの営業所に配属されても教育を受ける機会は等しく、しかし、育て方は一人ひとり異なる”体系づくりをめざしてきた。「一律では育てたくない」。取り組んできた全ての施策には、江原氏のこの想いが生きている。
パート社員時代に正社員の教育を担当
人事総務部課長の江原美江氏がヤマト運輸に入社したのは1983年。パート社員での中途採用だった。ヤマト運輸には、集配を担当するセールスドライバーの拠点としてお客様からの電話対応や荷受け業務などを担当する「センター」が全国に約6300ある。そのセンターを束ねるのが「支店」であり、さらに支店を束ねる主管支店、その上に支社、本社と組織されている。江原氏は入社すると、北九州主管支店で人事と経理を管轄する管理課に配属された。そこで4年間、新入社員教育に携わり、OJTや受付業務の指導などを中心に上長の支援業務を担当した。「パート社員である私が正社員を教えることに正直不安はありましたが、“任されている”という気持ちもあったため自分の役割は大切にしていました。新入社員数が少なかったこともあって“、3カ月で一人前にする”という目標を立てて、一人ひとり個別に教育スケジュールを組み、それぞれのペースに合わせて指導を行いました」その後、江原氏は正社員に登用され、センターへ異動。事務スタッフの教育を任された。そこで主管支店時代と同様、6名いたスタッフ一人ひとりに3カ月分のOJTのプログラムをつくった。「実は、一律な教育で同じ対応をした時にスタッフの1人は伸びたのですが、もう1人はモチベーションを大きく落としたことがありました。この時、一人ひとりに合わせた教育の大切さを実感しました。この人はどう言われれば前に進んでいけるか。褒められて伸びる人と、叱られて悔しいと思ってやる人と、1人ずつ変えることが必要なのです」さらにこのセンター時代に、もう1つ印象に残る出来事があった。江原氏が別のセンターへ異動すると、最初のセンターで実践していた指導法が、引き継がれることなく消えてしまった。「仕組みとして残せなかったことが何より残念でした。ですから2店目では自分が持っていた知識やスキルを全部出すようにしました。1カ月後、3カ月後の目標を明確にするスキルマップシートを作成したり、上長との面接のタイミングなども全て紙ベースで残し、見える化しました」スタッフそれぞれの個性や特徴、適性を見ながらの教育と仕組みづくり、そして責任者としての苦労もあったが、江原氏は「ここでの経験が一番勉強になり、私の教育のベースができた時期」と当時を振り返る。