連載 起業するイノベーターたち 【第7回】 新素材開発で市場を創造
中小・ベンチャー企業の創業者、後継者の実話から変革への要点を探る
もしも水や熱に強く、半永久的に持つ紙があれば、もっと幅広く利用できるのに――。紙とガラスを融合させた、いま話題の新素材「超越紙」は、岩宮陽子社長の執念が実って誕生したものだ。何しろ、特性に優れた環境適応型の新素材として、多方面からラブコールが殺到。一主婦から出発し正月飾りの会社経営を経て、いまや素材メーカーとして大きな飛躍を遂げようとしている。
飾一誕生の意外な経緯
今日、女性起業家の草分けとして知られる岩宮陽子飾一(かざりいち)社長。もっとも、岩宮氏の起業は意外なことがきっかけとなった。
岩宮氏は大学卒業後、横浜市鶴見区で建築業を営む旧家に嫁いだ。結婚してから7年後、築140 年の家が建て替えられた。その年の暮のことである。玄関が引き戸からドアになったため、引き戸用につくられた正月飾りが付けられない。あちこち探し回ってみたものの、ドアに付けられる正月飾りはとこにも売っていなかった。
「それならば自分で作ろう」と思い、若松の枝3 本に白い紙の扇と梅のひと枝をあしらって正月飾りを作った。それを見た岩宮氏のご主人は「特許を出願したらどうか」と勧めた。恐る恐る特許庁に行くと、今度は窓口の人から「早くお売りなさい」と勧められ、意を強く持つたという。しかも、伊勢佐木町にあった野津屋で売ってもらえることになった。
ある時、店頭に立った岩宮氏は、顧客の1人から「去年、あなたの飾りを買ったら、何もかもうまくいった。だから今年も買いに来たんだよ」と声をかけられた。
岩宮氏はその時、ふと気づいた。「飾りは、幸せになりたいという1 年間の思いを込めた文化の姿だ。その文化を担って、日本中の人にこれを売って幸せになってもらおう。そして飾りで日本一になるんだ] と。社名の「飾一」はその時の気持ちを率直に表しかものだという。
その後、飾一の正月飾りは、全国の多くの百貨店で販売されるようになった。しかし、岩宮氏はそれに満足せず、「商品を差別化するためにも、これまでにないものを作ろう」と知恵を絞り続けた。図書館に行って「歳時記」から「古事記」「日本書紀」など片っ端から書物を読み漁った。そんな中から、「水引」というものが1400 年の歴史を持つ日本独自の文化であることを学ぶ。そこで、わらに代わるものとして、飾りに水引を採用すると、特許も取れ、売り上げは大きく拡大していったのである。