ケース4 吉野家ティー・アンド・シー 標準化された仕事をいかに 高品質に実践するかが 店長職のミッション

アメリカ産牛肉の輸入禁止で揺れた吉野家だが、同社の「うまい、やすい、はやい」を実践する現場力の中心となっているのが店舗を統率する店長であり、店長を支えるパート・アルバイトたちである。同社では、店長職が人材育成の“義務教育”になっているところに大きな特徴がある。
店長職は人材育成の義務教育

アメリカ産牛肉の輸入禁止によって牛丼の販売中止に揺れた吉野家だが、全国に点在する約980 の店舗で培ってきた「うまい、やすい、はやい」を支える健全で強い吉野家文化を武器にしながら、未曾有の危機に立ち向かっている。その現場力の中心となっているのが店舗を統率する店長であり、店長を支えるパート・アルバイトのスタッフ(社内的にはキャストと呼ぶ。以下、キャスト)たちだ。
ただし、店長とキャストという二分法的な職務区分では、吉野家の現場力を正しく表現することができない。なぜなら約980 人の店長のうち約100 人は〈キャスト店長〉だからである。
人材開発部教育・研修担当部長、篠原啓三氏が概説する。
「まず吉野家における社員の職務等級を説明しますと、職務等級としてJからM G まで大きく4区分で構成されています。スタートのJ職というのは、いわゆる定型的な業務を担当する大たちで、今回のテーマの中心になる店長はJ職に所属しています。さらにs職はJ職を監督するエリアマネージャーたちであり、M 職は担当職(課長職)、M G職は同じく部室長職となっています」(図表)
この職務区分で明確に理解できる通り、吉野家の店長職は、「定型的な職務の完璧な遂行を求められるJ職の社員及びキャスト」ということになる。
そして、篠原氏が続けた。
「新しく入社した社員はすべてアシスタントマネージャーとして店舗に配属されます。店舗に配属された新入社員はその後、初級研修ⅠとⅡ、店長資格試験、中級研修工とH、スペシャリスト資格といった研修カリキュラムに沿ってスキルアップを図っていくことになり、必ず店長職を経験してもらうことになっています。新入社員にとって店長経験は、人材育成の“義務教育”といった位置づけになっているのです」
吉野家の人材育成は、「店長職が義務教育」になっているところに大きな特徴がある。店舗を統率する店長を経験しない社員は、職務等級のJ職から昇格することができないことになり、S職から先に続く経営幹部への昇格も不可能になる。まずは店舗という現場で吉野家ビジネスを体得し、キャストといった店舗スタッフを対象にマネジメントの基本をしっかり学び取ることが、店長職に求められている。
一方、前述したようにキャストの身分のまま店長職を遂行するスタッフもいるほか、キャストから社員になって店長職に上がっていくスタッフもいる。
「キャストには、社員とは別にランクアップコースが設定されていますので、店長代行業務を経た後、キャスト店長になる人たちがいます。また、キャストランクの“休日代行”以上の人たちは、社員に登用する適性検査と面接試験を受ける資格を得ますので、キャストを経て社員になっているケースも多数あります」(篠原氏)
では、もう少し詳しく店長職を分析してみよう。