ケース1 富士ゼロックス 50 代社員に多様な働き方を提供する 「New Work 支援プログラム」を導入

富士ゼロックスでは2003 年7 月、50 代の社員を対象に、多様な働き方・選択肢を提供する「New Work 支援プログラム」を導入した。このプログラムは、社員の自己実現の支援、さらには社員の流動化・活性化を図る「New Work支援制度」と呼ばれる6 種類の人事制度と、それらを支える仕組みから構成されている。そして、このテーマに取り組むに際して、専門組織「New Work開発センター」を2002 年10 月に発足させた。
New Work 支援プログラムがもたらしたもの
昨今、団塊の世代を中心とした50 代の中高年に対し、早期退職など用いて、退職勧告を迫る企業がある。確かにそうせざるを得ない事情もある。しかし、そのようなことをしては、後々大きな「損失」を被るということを忘れてはならない。
富士ゼロックスでは、50 代の社員をいかに活性化するかという大きな課題に対し、専門組織「New Work 開発センター」を2002 年10 月に立ち上げ、社内外で流動化を進めていくという、実に対照的な施策を打ち出している。
「今回導人した『New Work 支援プログラム』は、50 代社員にさまざまなメリットを生み出しました。まず、いろいろな自己実現のための選択肢が増えたこと。その結果、定年まで会社に縛られることなく、これまでのキャリアを活かした仕事にチャレンジしやすい環境が整ったということです。考えてみて下さい。人生80 年ということで、定年退職してからも、まだまだ長い人生が続くのです。生涯現役というキーワードは非常に大切だと思います。会社がこういう環境を整えるということは、50 代社員にとって非常に良かったことだと思います」と語るのが、NewWork 開発センター・センター長の大久保孝子氏である。
大久保氏はさらに続ける。「元社員がロイヤルティーを持ち続けるということは、会社にとってかけがえのない財産ではないでしょうか。たとえ辞めた後でも、自分は富士ゼロックスの社員であったということを、いつまでも誇りに思ってもらえる。こうした信頼関係を長く構築していくことで、個人が活き活きし、会社も活き活きしてくるのです。ここでは、相互に“Win-Win”の関係が形成されています」。
ところで、同社が1988 年に「NewWork Way」という新しい働き方を提案したことを記憶している読者もいるだろう。元来、1人の人間は「企業人」である一方で「市民」であり「家庭大」でもある。
こうした多様な顔に対応すべく、個人の生活/社会面を支援する制度を設けていった。例えば、「家族介護休職制度」「ソーシャルサービス制度」等々oただこの時は、働き方そのものの新しいスタイルを、特にプログラムに入れたわけではなかった。個人が一市民であり一家庭大であることを尊重し、「生活面」を充実させるための制度導入だったのである。
2003 年になって、この「New Work Way」をより進化させ、今日的な新しい働き方を提唱しようということで、New Work 支援プログラムが導入された。
New Work 開発センター設立の背景
同社は、2001 年に発表した「人事戦略」のなかで、「活力ある人材・組織の実現」をうたっている。例えば、人材の流動化、適材適所の実現、多様な価値観に対応した選択肢の拡大、人材ミスマッチへの対応など。そして、それらを実現するためには、何より社員に多様な選択肢を提供することで、自己実現を支援する「機能」というものが不可欠であるとの思いに至った。
これを受けて、New Work 開発センターが2002 年10 月に設立された。同センターのミッションには、社員1人ひとりの仕事ニーズ(= キャリアの選択肢) をつくり出し、キャリア自律を通じた社員の自己実現を支援していくことが記されている。それによって社員を活性化し、満足度の向上を目指していく。そして、個と組織が"Win-Win”の関係を構築していく。こうしたことに貢献するために、同センターが設立されたのだ。
同センターが目指す姿としては、いろいろな選択肢を提供しようということがある。「ですから、社内で働き続けるための支援だけでなく、社外で自己実現するための支援もあります。実際、個人の価値観は多岐にわたっているので、数多くの選択肢があっていいと。そして、それに応えていけるイメージを考えています」(大久保氏)。
より具体的に言うと、社内で社員として働くことはもちろんのこと、社員ではない身分で仕事をすることが考えられる。
例えば「のれん分け」のように、ある仕事を切り離して、社員ではない身分で仕事をしてもらう。それを段階的に他社の仕事を引き受けるようにしていき、徐々に自律していく、そういう働き方があっていいと。また、社員ではない身分で、「外」で仕事をするということもある。この「外」で仕事をするということは、「個人事業主」のように独立して仕事をするというイメージである。
「実際にそういう経験のある人の話を聞くと、孤立することで情報を得られなくなくなってしまうことが少なくないようです。そこで、独立した方々を組合組織としてまとめ、情報やナレツジをシェアしたり、さらにはワークシェアをすることなども検討しています」(大久保氏)
たとえ身分は富士ゼロックスを離れても、今後とも何かしら同社に絡むような仕事をしてもらうことで、“緩やかな関係”を保ち、企業力をアップしていく。漠としたイメージながらも、そこでいろいろな選択肢をつくり出そうと考えているのである。
同センターは「キャリア相談室」と「New Work 開発グループ」から構成されている。キャリア相談室では、社員1 人ひとりが自律するための相談を行っている。基本的には同センターは全社員を対象としているが、NewWork 開発グループに関する部分については、当面は50 代社員を対象とのことだ。
このNew Work 開発グループは何をしているのかというと、50 代社員の仕事の捐り起こしをしたり、今回のNew Work 支援プログラムを利用した人の夢が実現するよう支援し、安心して働けるための仕組みづくりである。こうした機能を、他部門や人事セクションからのバックアップの下、推進している。
社員の高齢化が進んだ「待つたなし」の状態
ところで、同社社員の年代別推移を見ると、2002年度末の段階では50 歳代が全社員数の25 %を占めており、5年後の2007 年度は35 %、10 年後の2012年度では40 %を占めることになる。極端に言えば、2人に1人が50 代という時代が、すぐそこまで迫りつつある。