連載 人事制度解体新書 第15 回 「職務」を重視した複線型人事制度を導入。 メリハリのある処遇で、「専門家集団」を目指す
スーパーマーケットの仕事は、3K型の力仕事と思っている人が少なくない。しかし、お客さまの立場に立って品質の高い商品を提供し続けるためには、現場の仕事自体が「知識集約型」である必要がある。つまり、いわゆる「専門家」がどれだけいるかで、実は店舗の成績に大きな差が出てくるのだ。そして、それを実現しているのが、消費不況のなかにあって、好業績を上げているクイーンズ伊勢丹である。このような「専門家」を育てるべく、「職務」に機軸を置いた「新・人事制度」導入の任に当たった取締役人事部長・小倉昌則氏に、その内実について詳しく話を伺った。
「専門家」を育てたい。だから、「職務」にこだわる人事制度を導入
どの業種・業態でもそうだが、特にスーパーマーケットのような流通業界では、お客さまの潜在ニーズをいち早くキャッチし、それを具現化し、提案していくことが求められているように思う。これは、「マニュアル」に基づいたオペレーションでは実現できない。実現するには、半歩先を読む知識や技術を持った人材が不可欠となる。
こうした点から、職務における「専門性」をいかに高めるか、またこれを人事制度としてどう実現していくかが、さらなる店舗展開を行い、常に変化し続けることを願うクイーンズ伊勢丹には、強く求められていた。
同社では創業以降、いわゆる「職能等級資格制度」による人事制度を基に部分的な改定を行いながら人事制度の運用を行ってきた。しかしここ数年、事業が拡大していくなかで、能力認定と職務との整合性が取れていない、あるいは評価と処遇が現実的な処遇に適さないといった課題が表面化してきた。そこで、これらの問題を解決するために2001 年10 月、新たな「新・人事制度」の導入に踏み切ったのである。
「新しい人事制度では、入社以降、一定のキャリアを積んできた過程である段階に来た時に、これまでを振り返ると同時に、今後の自分の人生や仕事の方向性を考え直し、“岐路”に分けるということを考えました。1つはスペシャリストコース(管理職層)、もう1つはエキスパートコース(技能職層)です」と制度導入の狙いを語るのが、取締役人事部長の小倉昌則氏である。
その際、[職務]を重視した評価を行うことを考えたという。というのも、同社は数あるスーパーのなかでも、その目指す姿を「ハイクオリティー・スーパー」に置いているからだ。一般的なスーパーであれば、それなりの「モノ」を並べるだけで何とかなる部分があるかもしれない。それに対して、同社は扱う商品の種類が多く、かつ高級なイメージがあるのは、読者でもご存じの方は多いのではないだろうか。
ゆえに商品に対する「専門性」というものがより求められてくる。例えば、顧客が商品の由来や特色について質問してきた場合、「専門家」ならばそれに対してわかりやすく丁寧に答えていかなければならない。そのためには、会社として専門家を大事にしていくという姿勢を明確にしなければならないはず。それと同時にそれは従業員も「専門家」になってもらわなくてはならないことを意味している。だから、「職務」重視としたわけである。
「スペシャリストコース」か「エキスパートコース」かの進路決定
「このような考え方の下、管理職を目指すスペシャリストコース、技能職を目指すエキスパートコースの2つに分けていきました。そして職能等級ごとに標準的な職務レベルの定義を行い、かつ、職務にウエートを置いた賃金としていったわけです。いわば、職能等級資格制度と職務型の賃金を複合したような賃金体系、と言うことができます」(小倉氏)
同社では一般的な格付けとしては、1級から8級までになる「職能等級資格」がある。そして、昇級していくなか「5級」になったところで、自分の進路を見直す。ここで、「スペシャリストコース」か「エキスパートコース」のどちらかに進路を決めることになる。
一方で、職能資格等級に期待される標準的な「職務区分」を定義していった。この職務区分には、スペシャリストコースの場合、工から瑁まで8つの区分を設けている。なお、職能資格と職務区分かリンクしない職務への異動は原則として行わないが、図表1 も見てもわかるように、「抜擢人事」が可能なマトリックスとなっていることが、一目瞭然である。この狙いについては後述する(エキスパートコースに関しては5区分)。
また、職務区分は「役職」へとつながっている。「営業部門」とバックヤードを務める「後方部門」に分かれており、その詳細は図表2に示す。同業他社と比べ、かなり詳細な区分となっているように思う。
なお、図表2中の「QC 」はクイーンズシェフの略で、鮮魚・青果・グロッサリーなど伊勢丹百貨店へ食品展開している事業部のことである。また、「sM」はスーパーマーケット、「MD」はマーチャンダイジングの略である。
代表的な職務で言うと、営業部門ではいわゆる店長は職務vI 、バイヤーが職務v、店次長が職務Ⅳ、各店舗のチーフが職務Ⅲに該当する。そして担当は職務Ⅰ、ということになる。
「職務区分」によって大きく差の付く賃金体系
賃金に関して言うと、本給は等級別に決められているが、職務給の部分が職務区分によってかなり大きく差が付く仕組みとなっている。また、賞与に関してはよりメリハリを付けた。