連載 人事制度解体新書 第16 回 テレマーケティングジャパン 正社員と非正社員の「垣根」をなくし、 オペレーターの生産性アップと 離職率低下を目指す

コールセンターでは、オペレーターのパフォーマンスが生産性を大きく左右する。問題は、オペレーターの多くが正社員ではなく、契約社員・アルバイトなど非正社員であることだ。コールセンター大手のテレマーケティングジャパン(TMJ)では、オペレーターである非正社員について、正社員との処遇に対する垣根を解消させ、同一職務にアルバイト、契約社員、正社員が“混在”する状況をつくり出した。その結果、非正社員のパフォーマンス、そしてモチベーションの向上を図ることに成功している。 2003 年に導入した多様な人材を活かすこの新人事制度のポイントについて、責任者に話を伺った。
「進研ゼミ」のノウハウを活かしたビジネスモデル
双方向メデイアを介して、企業と消費者との接点の活性化を実現する「テレマーケテイング」は、IT の発展や企業の積極的な参入により、大きな成長を遂げている。さらに今後についても、音声のみならず映像やウェブの活用なども加わり、その活用領域は拡大の一途をたどり、これからの社会においてその果たす役割はますます重要になってくる。まさに、将来にわたって成長が期待できる分野の一つであることに異論を挟む余地はないだろう。
今回紹介するテレマーケティングジャパン(TMJ)だが、前身は1975 年に発足した福武書店(現、ベネッセコーポレーション) の「進研ゼミ」会員を対象としたコールセンター部門である。そこで培ってきたテレマーケティングに関する独自のノウハウを、より広い領域で活用することを目指して、1992年に分社独立したものである。
以来、TMJはCRM (コンティニュアス・リレーションシップ・マーケティング)のパートナーとして、より効果的なマーケティング活動を実現するために、マーケティング先進国アメリカの最新理論を吸収するとともに、個々のニーズに対して最適なマーケティングシステムを提供し続けている。実際、売上高はここ10 年にわたって連続2ケタの伸びを実現しており、同業界のなかでも特に成長著しいコールセンターのアウトソーサーの一つに数えられる。
そのサービスの概要を説明すると、全国6ヵ所にあるコールセンターの下、コールセンターの企画・運営を核にして、昨今の社会が求めている多様化、高度化するニーズに応えるためにマーケティング活動の川上機能であるCRM 戦略の立案・実践から、コンサルティングやフルフィルメント(商品を販売する際の管理業務の総称) までのフルサポートを行う。さらには、モバイル、ウェブなどの新しいマーケティングチャネルにも対応しており、チャネルインテグレーションによる新しいマーケティングを提案・実践しているのが特徴といえるだろう(図表1 )。
確かにこうしたビジネスモデルの優位性はもちろんであるが、何といってもTMJの強みというのは、多様な人材を活用する“術” にあるように思う。

どうすればやりがいを持って働いてもらえるか
TMJにおける「非正社員」とは、大きく分けて二つある。一つはアルバイト層で、職種としてはTSR(テレフォンサービス・レプレゼンテティブ) と呼ばれる電話を受けたり掛けたりするオペレーターを主に担当している。もう一つは、有期雇用の契約社員である。
非正社員はこれまで、コールセンター全体の責任者であるCCM (コンタクトセンター・マネージャー) といった管理職になることができなかった。それを、コールセンター全体の9割強を占める非正社員にも門戸を開くとともに、キャリアパスを明示することで、彼らのパフォーマンスとモチベーションの向上を図ろうとしたのである。
「2003 年12 月に全面導人した新人事制度の背景として、非正社員が、全社員に占める人数の多さ、という部分がありました。何より、当社の売り上げを直接上げるのは6,200 人余りに及ぶTSRなのです。このTSR にいかに高いモチベーションを持って生産性を上げてもらうかが、テレマーケティング事業の成長に大きくかかわってくるからです」と語るのは、人材本部本部長の大倉園子氏である。
その傍らで、管理本部広報室室長の山本耕三氏が、「そもそも今回の制度の目的とは、個人の能力を最大限に生かすことで、コールセンターとしてのパフォーマンスを向上させ、会社の競争力を高めることにあります」と付け加えた。
どうすれば非正社員にやりがいを持って働いてもらうことができるか。もちろん会社に対するコミットメントの違いはある。そのうえで、評価基準を同じくし、正社員と非正社員の「垣根」をなくしていくことで、同一職務にアルバイト、契約社員、正社員が混在する新人事制度の導入は十分可能だと判断したわけだ。
TSRを支援する人事制度
成長著しいテレマーケティング業界だが、コールセンターに対するクライアントの要求水準も高くなってきている。実際問題として、クライアントのビジネスゴール達成に向けての貢献が求められる機運が高まるなか、TMJでは2001 年度から成果主義を機軸とした人事制度への刷新に向け検討を開始。まずは2002 年度に正社員に対して適用し、そして2003 年度からは契約社員、アルバイトにまでその適用を拡大していったのだ。
この間、わずか2~ 3年ということで、非常にスピーディーな対応であると感心していたところ、「テレマーケティングという業態自体が新しく、業界におけるニーズの変化も激しくなっています。そうした状況にスピーディーに対応していくためには、変化に即対応できるフレキシビリティーが欠かせません。だからこそ、今回の人事制度の変更にも柔軟に対処することができたわけで、またそれがTMJの社風でもあると思います」と大倉氏が即答してくれた。
コールセンターの収益の源となるTSR の能力を高め、いかにパフォーマンスを上げていくかが早急の課題だったことは先に述べた通りだ。
「そこでポイントとなったのは、彼らに長く働いてもらうためにはどうすべきか、そして個人の能力を正しく評価するにはどうすべきか、といった視点です」(山本氏)
チャンスを与えることで、本人が前向きの姿勢を持つ
実は、TSR を指導・管理するSV は、その総数543 人のうち、半分近い約240人が契約社員である。また、管理職(課長レベル)であるCCM も、契約社員でもなれる。