連載 起業するイノベーターたち 第23回(最終回) 一万人の女性の声を商品開発に活かす
女性が身に着ける下着には、普通の下着のほかに、補整下着というボディーメータを目的とした下着がある。補整下着は肌触りの良さやフィット感など、普通の下着以上に微妙な着心地が商品購入の決め手になるが、顧客の意見に耳を傾けることは商品開発の効率を損なうことにもなる。そんななか、徹底した顧客本位のモノづくりで急成長を遂げているのが、桂実妙社長率いるラピアンズだ。社員の大半は元顧客。「社員の個性を伸ばすことが、顧客の個性を引き出すことにつながる」と桂氏は言う。
試作段階で顧客の声を徹底的に聞く
補整下着は英語ではファンデーションと言い、“基礎” や”土台”を意味する。「土台がしっかりしていなければ、そのうえにどんなに立派なものをまとっても、美しくは見えないのは当然でしょう」と桂実妙社長は補整下着の意義を優しく丁寧な口調で説明する。
同社の下着は、試作品を顧客に試着してもらうところから始まる。
「当社がモットーとするのは、お客さまの声を商品づくりに反映させること。したがってパターンをつくる時は、それこそミリ単位のところまでこだわります。例えば、M サイズのパターンが大きさを変えただけでS やLLサイズの人に合うかというと、そうではありません。スリムな女性なら少しでもバストを大きく、ふくよかな女性はその逆というように、求めるものも違ってくるので、試作段階で多数の女性に身に着けていただき、一人ひとりの意見をお聞きするのです」(桂氏)
桂氏が起業を決意したのは22 歳の時だった。補整下着メーカーで代理店開拓を担当し、トップセールスとして活躍していた。全国に300 店舗余りの代理店を開拓し、会社の売り上げが順調に伸びて約5 億円になったころ、「顧客の声を商品開発に取り入れたらどうか」とトップに進言した。しかし、期待に反して「売り上げが10 億円に達したら前向きに考えてもいい」という返事しか得られなかった。
「企業というのは、売り上げが2 倍になれば責任も2倍になるものです。それが顧客に対しての当然の義務だと考えていたのですが、当時のトップには私の言うことが理解できなかったようなのです。愕然として数[]間落ち込んでいましたが、やがて『何だ、悩むより自分で会社を興せばいいじゃないか』と吹っ切れたのです」と桂氏は振り返る。
片っ端から試着を頼み、試作品の完成度を上げる
1989 年12 月、ラピアンズの前身、有限会社ボーテ企画を設立。小さなオフィスを借りて事業を始めたが、工場も資金もなくなかなかモノづくりができない。そこで何社もの下着メーカーの社長あてに協力要請の手紙を送った。大半の企業からは返事すらなかったが、幸いにも一社が桂氏の熱意を汲み取り、協力を約束してくれたのである。