連載 誌上コンサルティング 第49 回(最終回) 男性社員のワーク・ライフ・バランス 実現に向けて「気づき」を自然に 促進するには?

Q.
企業戦略としてワーク・ライフ・バランスの推進に数年来取り組んでいます。これまで、トップからのメッセージ発信、ワーキンググループ活動による制度の拡充などさまざまなな取り組みを行ってきました。効果は徐々に表れてきていると感じていますが、最近実施した調査で、特に男性のワーク・ライフ・バランス実現が本人の希望に反し実現できていないケースが多いことがわかりました。マネジャー層を始めとする社員へ向けて、意識啓発活動の必要性を感じています。
組織運営に支障が出るというミクロ的な視点から、企業が社会と歩調を合わせ発展していくために必要なのだというマクロ的視点での問題認識が必要なことを理解していただくために、研修の実施や、ポスターの制作などを検討しています。しかしこうした性質の問題は本人の「気づき」が何よりも大切であると感じており、押しつけがましいものにはしたくありません。どのような手法が効果的でしょうか。
(日用品メーカー・人事部)
A.
まず最初に、ワーク・ライフ・バランスについて人事部門および経営層が正しく理解する必要がある。日本ではよく見られる誤解だが、ワーク・ライフ・バランスの目的は、単に家庭と仕事の両立を図ることではない。その核心は「働き方の変革」だ。
ワーク・ライフ・バランスのアプローチそのものは、例えば独身者や子供のいないカップルにも重要な意味を持つ。個人が市場価値を高め、自分の望むキャリアを形成していくうえで、ワーク・ライフ・バランスは有効なのだ。これは企業にとっても、大きなメリットをもたらすアプローチである。特に日本やアメリカなどの高賃金国では、知識労働の重要度が大幅に増し、より高いパフォーマンスを社員に求めざるを得ない。社員個人にとってはより良いパフォーマーであり続けるため、企業にとっては社員の高いパフォーマンスを維持し生産性を高めていくため、ワーク・ライフ・バランスが果たす役割は大きい。
わかりやすい例として健康の問題を考えてみよう。例えばワーク・ライフ・バランスを崩した働き方を続けて、メンタルヘルスがおろそかになってしまったとする。すると必ず肉体に問題が出てくる。目がかすむ、お腹が痛い、食欲不振、睡眠障害……そんな状態で仕事における生産性、集中力、創造性を高めることができるだろうか。いまやどんな仕事においても、管理部門においてさえもクリエイティビティーが求められる時代である。クリエイティビティーは幅広い知識や教養、経験によって高めることができるが、その研鑚(けんさん)を怠ればどんどん陳腐化する。つまり「仕事だけ」をしていると、かえって仕事の質は下がるのだ。特に頭脳労働においてそれは顕著であり、ワーカー個人にとってこのことは、自身の市場価値の低下を意味する。