連載 現場支援のe-HRM 2nd Stage 人材情報マネジメントの変化を読む 第1 回 パフォーマンスを引き出す人材育成のあり方
かつては年功序列に基づく一律的な人事システムが主流であった人材マネジメント。しかし、成果主義の浸透や中途採用・派遣社員の増加など、人事管理システムや雇用形態の多様化が進む現在では、人事に求められる役割も変わりつつある。一方で、情報技術の進展により、人材情報の一元的管理に加え、個別管理が可能となっているいま、人材をいかに採用・登用し、活かしていくかは、現場のマネジャーが鍵を握るといっても過言ではない。
このような「人材マネジメント」「情報技術」の二つの変化に合わせて、「人材情報マネジメント」はどのように変わっていくべきなのか。「現場支援のe-HRM」第2 ステージでは、HRM の変化の潮流から、人材情報マネジメントの変化をより深く掘り下げていく。
第二フェーズに入った人材育成
「人材育成」は、いつの時代でも、企業における最重要課題の一つとしてあげられる“古くて新しい”テーマ。しかし、昨今の状況を見てみると、企業の「人材育成」への取り組み方には明らかに質的な変化が見られ、「人材育成」は第二フェーズに入ったという感がある。
例えば、自他ともに認める某人材育成企業においては、これまでは人事上の課題という域を出なかった「人材育成」を、昨年より経営課題の一つとして中期経営計画のなかに盛り込んでいるのである。これは、経営が主体性を持って人材を育成していくという決意表明であり、「人材育成」が人事マターから経営マターへと格上げされたことを意味する。さて、その背景には、どのような事情があるのだろうか。
その第一の要因として、近年多くの企業において導入が進んでいる「成果主義」があげられる。成果主義において、一人ひとりの貢献度を厳しく見ていくことになった場合、それができるのは唯一、各現場におけるラインマネジャーである。しかし、多くの調査データから見て取れる通り、評価の運用がうまくいかず、それゆえに成果主義が失敗している、という例が後を絶たない。
つまり、ラインマネジャー一人ひとりを十分に育成しなければ、成果主義は完了しないのだ。こうした事情から、いま企業は、プロフェッショナルマネジャーの育成に向け本腰を入れて取り組んでいかざるをえない状況に置かれている。
また、非正規社員の増加といった事情もある。これまで正社員が担っていた役割を、契約社員や派遣社員、パートなどに置き換える場合、品質やサービスレベルの低下が生じる。特に、顧客との接点であるフロントエンドにおけるサービスレベルの低下は、企業にとって致命傷になりかねない。そのため、正社員のみならず、非正規社員に対しても人材育成投資をする傾向が年々強まっている。「企業の人事戦略と労働者の就業意識に関する調査」の結果によれば、全体の4分の1強の企業が、非正社員を含む従業員全般を育成の対象としており、非正社員比率が20%以上の企業では、その割合は30%を超えている(図表1)。
さらに、企業の戦略的な見地から見れば、高度情報化が進む現代では、戦略や技術はすぐに模倣される状況にある。それに比べて、人材の保有する能力や組織風土は模倣されにくく、それゆえ、人材と組織風土こそが差別化の要因であり、競争力の源泉であるという認識が高まっている。そうした意味において、現代における企業間競争は、人材の価値を高める競争ともいえるであろう。
労働市場を見れば、人材の流動化はますます進んでおり、人材育成に熱心でない会社からは、自らの価値を高めようとする優秀な人材が流出する事態が起こり始めている。人材育成企業のみが生き残る、という状況がますます現実味を帯びてきているのである。