座談会 「働きがいのある会社」を目指し て元気のいい会社3 社が語る、 それぞれのGPTW

日本を代表する食品メーカーである味の素、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、IT 業界の老舗シーエーシー。3社に共通するのはバブル崩壊後いち早く体勢を立て直し、業績を伸ばしてきた企業であるということ。業態も規模も異なる3社に、社員のモチベーションを維持し、パフォーマンスを高めるそれぞれの施策について語っていただいた。
オフィス統合をきっかけに職場環境の改善を図る
斎藤
日本企業の多くで、社員の元気がなくなったといわれています。ギャラップが実施した国際調査では、日本企業は「会社への帰属意識と仕事に対する熱意」が調査した13カ国のなかで最低クラスでした。この結果はかなり深刻な状況であると言わざるをえません。会社という組織は多くの従業員によって構成されています。多くの人たちが活き活きと働いてこそ、会社が活性化して、高いパフォーマンスを生み出すことができます。
その意味でGreat Place to Work(以下GPTW)の視点は、今後企業が進むべき方向性を示し得るものだと思います。味の素、オリエンタルランド、シーエーシーは、苦戦する企業も多いなか、元気がいい企業、伸びている企業だと感じますが、従業員のモチベーションアップや帰属意識向上のためにどんな取り組みをしていらっしゃるのでしょうか。シーエーシーで「GPTW推進室」を立ち上げたと伺いましたが、立ち上げの経緯を教えていただけますか。
酒匂
当社はいわゆるシステム・インテグレーターといわれる業種に属しています。IT、IE産業といわれる業界です。この業界の特徴は産業としては未成熟であり、競争過多であるということです。特に上場企業間の競争は非常に厳しいものがあります。その結果、他業種に比べ人材の流動性が高いのは皆さんもご存知の通りです。
当社の大きな課題の一つも、若干ではありますが、やはり人材の流出です。業界内では転職率はかなり低いほうですが、中核人材、ゆくゆくは社を背負っていくような人材は、やはり長くいてもらいたいものです。
人材流出のほかにもいくつかの課題がありますが、こうした課題を「働きやすい環境」を整えることで改善していこうと、GPTW推進室を立ち上げました。きっかけとなったのは、オフィス統合移転です。当社は従業員数1,400人ですが、本社は一ツ橋、システム開発は飯田橋、運用部隊は茅場町、そのほかお客様に応じて10 人から20 人程度の部隊と、事業部ごとにオフィスがバラバラでした。建物が別れていることが明らかに事業部間の壁となっており、コミュニケーションを阻害していました。そこで、これらを1カ所に集めて事業部間の連携をよくしようと、2005 年11 月末から06 年のゴールデンウィークにかけてオフィス統合することが決まったのです。オフィス統合に当たって単に移動するだけではなく、職場環境に関する課題を改善・解決しようということになりました。そこでGPTW推進室を立ち上げたのです。
斎藤
具体的にはどんな改善がなされるのですか。
酒匂
新しいビルは17階建てです。このうち11階フロアをフリースペースとして利用することにしました。一角に喫煙室をつくり、建物内での喫煙場所を限定したほか、男子禁制の女性リラックススペースをつくり、できればマッサージチェアを数機設置する予定です。ミーティングスペース、リラックスチェアのあるリラックススペースも確保しました。また、すぐにインターネットにつなげて仕事ができる約100台分のデスクスペースも設けました。これは常時400 人ほどいる出向者のためのスペースです。彼らはこれまで社内に自分の机がなく、帰ってきてもいる場所がなかったのです。これでは帰属意識がなくなるのも仕方ありません。そこで彼らが気持ちよく座っていられるスペースを確保したのです。
斎藤
そういったニーズはどのように吸い上げたのですか。
酒匂
GPTW推進室でアンケートを行いました。そこで出てきた声のなかで、オフィスレイアウトで解決できるような要望は、この際できるだけ解決しようと思ったのです。各フロアの中央にミーティングスペースを確保したのも、そういった要望に応えたものです。
コミュニケーションを円滑にすることで、当社の課題の一つである事業部間の仕事のスムーズな引き継ぎも可能になるのではないかと思っています。本来なら開発部門が引き継いだシステムを運用部門が運用していくのが業務の流れからしても無駄がないのですが、これまでは開発したらそれで終わり、運用部門が運用しているのは他社のシステムといったことがかなりありました。同じ建物に入って「お前のところどうなってる」といった話が簡単にできるような環境が整ってくれば、この辺りのことも自ずと変わってくるのではないかと期待しています。
当社のGPTW に関する取り組みは、まずハード的な部分での環境整備を行っている最中です。オフィス統合によって事業部間、社員間のコミュニケーションの問題や社員満足度の向上に大きく踏み込めると思っています。
制度と風土で社員のモチベーション向上
斎藤
「働きやすい環境」をつくるという意味で、味の素、オリエンタルランドではどのような取り組みがありますか。
尾道
シーエーシーさんとは異なりハード的なものではありませんが、味の素でもいくつかの施策を行っています。例えば「スーパースペシャリスト制度」です。これは主に研究者を対象にしたもので、研究テーマを公募し、チャレンジングでよいテーマだと認められた人は2~3年間その研究に没頭してもらうというものです。失敗したからといって降格や減給などはしませんし、この期間は年俸が15%アップします。継続してよいテーマを創出していけば、継続再認定もあります。また、いわゆる部長、課長といった通常の管理職の役職からいったん離れてもらい、さまざまな雑務もできるだけ軽減するよう配慮します。大きな成果が得られれば特別付加金が出ます。毎年5人から10人がこの制度の適用を受けています。
現在応募できるのは管理職以上だけですが、今後は一般社員にも枠を広げるつもりです。20代、30代の若い研究者がノーベル賞を取ることも多いように、研究はやはり若い時のひらめきも大事。若手からも要望が多いのでいま実施に向けて検討している最中です。