連載 はじめに夢ありき 第6 回 世界企業ではなく、 「世界に在る企業」を目指せ ~人事に求められる5 つの戦略~
バブル崩壊によっていったんはストップしたかに見えたグローバル化が、いま再び企業にとっての重要なキーワードとなっている。しかし1990 年代初めまでのグローバル化と、現在のグローバル化では目指すべきところが少し異なっている。
2000 年の日本企業が迎えたグローバル化の段階とは
1970 年代から80 年代にかけて、日本企業にとって「国際化」が大きなキーワードであった。国際化の段階が進むにつれ、80年代に入ると海外現地法人の設立ラッシュが続き、そこでの活動をより活発に展開する「現地化」の段階に入った。この時「ローカライゼーション」が1つのキーワードとして浮上した。
90年代に入るとアメリカ発の「グローバル化」という言葉が盛んに使われるようになった。では2000 年代の現在、一体どんな言葉がキーワードだと言えるだろうか。
このことを考えるには、現在の日本の国際化の段階を振り返る必要がある。改めて言うまでもないが、80年代に大きく進展した日本の国際化は、90年代のバブル崩壊によってストップした。全体的にみれば、約10年の間、きちんと収益が出せる基盤の立て直し、「選択と集中」への体質転換が中心課題であったといえよう。つまり、「再構築」こそが、この10年間のキーワードだったのだ。
またもう1つ言えば、90年代初めのグローバル化とは、アメリカ型のグローバリゼーションだったといえる。当時、アメリカこそ「グローバルスタンダード」であり、それはアメリカンスタンダードで世界を席巻する、いわば株主第一主義的な支配的なグローバリゼーションであった。
それから10年。バブル崩壊のショックから立ち直り、現在では多くの日本企業が改めて「グローバル化」に注目している。この10年の経験を踏まえたうえでの国際化の展開とは、一体どんなものだろうか。
マグルーは1992年に発行された著書のなかで、グローバリゼーションを次のように定義している。
「今日においては、商品、資本、人材、知識、イメージ、犯罪、汚染物質、麻薬、ファッション、信仰などといったものがみな、容易に地域の境界線を越えて流れている。グローバリゼーションとは、単にグローバルな相互結合性の強化を意味するに過ぎない」
これを企業活動の視点からかみ砕けば、「国境を越えてヒト、モノ、カネなどの経営資源を流通させ、新たな価値を生み出す世界規模の経営活動」というように理解することができる。
ここで重要なことは、どのような考え方・やり方で、どのような新たな価値を、どこで生み出すかである。
アメリカ型の株主主体の支配的グローバリゼーションの展開を見てきた日本企業にとって、必ずしもアメリカ型グローバリゼーションは、グローバル化の最適解ではないというのが一般的見解だろう。事実、キヤノンやトヨタ、ホンダ、YKK などは独自のグローバル化の考えを持って、世界各地で事業活動を先進的に展開している。
「国境を越えて経営資源を流通させ、各地域で新たな価値を生み出す」ことを目指す時、しばしば耳にするのが日本企業の強みを生かしたグローバル化だ。日本企業の強みとはすなわち、ボトムアップの全員参加経営、現場主義、現場力、安定雇用、顧客・従業員主体などであり、アメリカ型グローバリゼーションを進めることは、かえって日本企業の強みを損なうとの意見も多い。