連載Talent Management 優秀な人材が離れない! ~人を育てる魅力ある企業へ~ 第7 回 タレントマネジメントを成功させる 新たなアプローチ
対談 インストラクショナル・デザインの活用
タレントマネジメントを効果的かつ効率的に行うためのポイントは、教育や学習の仕組みをどのように構築し、組み込んでいくかにある。そこで、今号ではタレントマネジメントへの活用を前提に、教育や学習の仕組みづくりで最近注目を集めているインストラクショナル・デザインに注目してみたい。
タレントマネジメントを効果的なものにするために
4 月よりタレントマネジメントのフレームワークについて解説を重ねてきたが、タレントマネジメントを構成する4つの柱である、スキル管理、評価、教育、分析の中でも、現在さまざまな企業で、取り組み方に最も大きな変化が見受けられるのが「教育」である。私の顧客からも、「企業内教育の効率化」や、「より効果的に行うための取り組み」といったご相談をよく承る。
教育は、提供すればそれで終わりというものではなく、学びたいという状況の中で学習させ、学んだことを業務に生かして、成果を評価するというサイクルを管理しなければならない。では、どのようにして効率的かつ効果的な教育を組むかということを具体的な方法論として考えるため、今回から2 回にわたり、インストラクショナル・デザインという教育のフレームワークをご紹介したい。日本でもまだ数少ない、インストラクショナル・デザイナーである寺田佳子氏との対談を通じ、今後の人材教育の進め方、そしてタレントマネジメントを成功させるための企業内教育のあり方について明らかにしていきたい。
インストラクショナル・デザインとは何か
南
タレントマネジメントとは、これまで本連載でお話してきたとおり、人ではなく、人の能力(タレント)を管理することです。タレントマネジメントでは、①組織の中の人間が同じ方向を向いて仕事をしていくためのキャリアパスの構築、②能力評価、③能力開発のための教育、④能力を活用するための組織マネジメント――の4つを上手に回していく仕組みをつくりあげることを目的にしております。
さて、今回はこの4つのフェーズのうち、③能力開発のための教育に注目してみたいと考えています。企業内教育あるいは学習の仕組みをつくり運用していく中で、大きな課題となるのは、学習効果が受け手の感覚、ニーズ、モチベーションなどさまざまな要因によって異なってくるということです。効率的にかつ適切に学習効果を上げていくためには、学びのプロセスをどのように設計していくかということが重要になります。ここで大きな示唆を与えてくれるのがインストラクショナル・デザインの考え方やその手法だろうと思います。まず、寺田さんからインストラクショナル・デザインとは何かについて、お話いただければと思います。
寺田
インストラクショナル・デザインとは、学習ニーズ、学習者、学習テーマの分析などに基づいて、学習者の特性や自己管理能力に基づいて高い学習効果が得られるようなシステマティックな教育・学習プロセスの設計を行うことをいいます。日本においては、eラーニング導入期に、その考え方が本格的に紹介された経緯もあって、eラーニング用のマルチメディア・コンテンツ(教材)を設計することと解釈されることが多いようですが、欧米ではeラーニングに限らず、さまざまなメディアの教育・学習プログラムに導入されているものです。
インストラクショナル・デザインが目指すものは、情報を受け取る側(学習者)が理解しやすく、記憶しやすく、知識が必要とされる実践の場でその知識を思い出して活用することができるような効果的な学習プログラムを実現することです。
そのため、①費用対効果を含めて効率的で、より大きな学習効果が期待できる教育コース開発のプロセスを確立すること、②目標設定、評価の仕組み、コンテンツ(教材)のストーリー設計などを開発し、学習者にとってより魅力的な学習環境を構築すること――という2つのアプローチでインストラクショナル・デザインが行われております。
南
確かに、インストラクショナル・デザインは、一般にはe ラーニングコンテンツのデザインという受け止め方がなされることが多いですね。
寺田
日本において、インストラクショナル・デザインの考え方が紹介されたのは1990年代半ばごろですが、アメリカでは既に30~40年の歴史があり、学校教育、企業内教育を含めさまざまな分野で、インストラクショナル・デザインをベースにした教育コースやコンテンツの開発が行われてきました。
現在、e ラーニングやマルチメディアの活用やネットワークインフラの整備が進む中で、インストラクショナル・デザインの分野では、ナレッジマネジメントを視野に入れた教育設計やワークプレース・ラーニング環境(学ぶことがイベントではなく仕事をするうえでのプロセスになる仕事・学習環境)を実現することも、インストラクショナル・デザイン上の重要な課題になり始めていますね。
技術・技能伝承に向けたインストラクショナル・デザインの取り組み
南
企業内研修は大きく分けると2つあります。一つは人材部門が主導して全社的に実施される研修です。もう一つは、現場が現場のニーズにしたがってテーマを決定し主導していくような研修です。最近の傾向を見ると、後者の現場主導の研修がどんどん増えてきています。多くの企業では、この現場主導の研修をどのように充実させていくかが、より優先度の高い課題になってなってきていると感じています。こうした企業内ニーズについて、寺田さんはどのようにお感じになっていますか。
寺田
私は、製薬、化学工業、製鉄など、どちらかといえば製造業関連のコンサルティングを行うことが多いのですが、最近話題になっている2007年問題を含め、現場力の低下をどのように防ぐかということが大きな関心事になっています。
南
技術や技能スキルの継承の問題でしょうか。
寺田
その通りです。何度かの不況期に採用をぐっと絞った時期があって、製造現場の人材の年代構成がゆがんだものになっているわけです。技術や技能スキルを次に受け継ぐべき世代が少ないということが、おっしゃる通り、スムーズな技術や技能スキルの継承の大きな足かせになり始めています。
もう一つは、その谷間の時期にIT化が加速し、生産現場はアナログからデジタルへと大きな転換を遂げました。アナログ世代の方々の知恵や技能をデジタル化した環境の中でどのように受け継ぎ、活用していくかということも、世代間継承の問題と同時に発生しているようです。デジタル化したことによって、ツールも違えば、仕事のやり方も異なるわけです。そうした中で、有用な過去の技術資産をどのように伝え、生かしていくかということも大問題なのです。