連載 Talent Management 優秀な人材が離れない! ~人を育てる魅力ある企業へ~ 第8 回 タレントマネジメントの実現 その6 プロジェクトを成功させる3 つの鉄則
企業の持つマンパワー(人材力)を最大化し最適配置するためには、「人を管理するのではなく、人が持つ能力(タレント)を管理する」というタレントマネジメントの考え方が非常に重要となる。この実現には、①全従業員が同じ方向を向いて仕事をする ②優秀な人材が離れない評価制度 ③モチベーションの底上げのための教育 ④適切な人材を適切に配置する組織マネジメント――の4 本の柱を組み合わせた人事戦略が必要となる。今月号では、具体的にタレントマネジメントの制度設計に取り組む際の進め方、計画方法と効果の測定方法について解説したい。
成功するプロジェクト 失敗するプロジェクト
タレントマネジメントでは、基本となる4つの柱である能力管理、評価制度、教育制度、情報分析を一つの人事制度としてまとめ、効率的に運用するためのIT の仕組みの構築を行っていく。こういったプロジェクトを開始する時に、私が顧客から伺う最も多いご意見は「われわれは過去にも同じようなプロジェクトを行っているが、頓挫してしまったり、せっかく完成したものが使われなかったりしている。これを繰り返さないようにするためにはどうすればよいのか」というものである。確かに、これは現実である。私も自分の顧客の中で、使われなくなった分厚い能力定義書や、誰も更新せず形骸化してしまっているスキル検索システム、さらには統計的に活用されずただ蓄積されているだけの評価情報や教育履歴といったものを多く目の当たりにしてきた。こうしたことを繰り返さないために、タレントマネジメントの概念を正しく理解することで現実的に活用され続ける人材育成のフレームワークをつくることができるわけだが、実際にプロジェクトとなると、やはり成功させるためにいくつか気をつけなければいけないポイントというものがある。今号では、私の今までの経験から、タレントマネジメントのプロジェクトを成功させるためのいくつかの注意点について解説していきたい。
成功のための3 つの鉄則
タレントマネジメントのプロジェクトを開始する際に、私が顧客にお話することは、次のようなことである。
「これから少なくとも5 年の間に、使われなくなったり、要件の変化についてこれずメンテナンスできないような制度、仕組みは絶対に作ってはいけません。必ず業務として運用し続けられる制度にしましょう」
これからの人材育成は、「やってみたものの使えない」といった悠長なことは言っておられず、失敗すれば多くの人材と能力が流出し、それは二度と返らぬ資産となり社外にでてしまう。よって、タレントマネジメントの本質をよく見極めたうえで、業務として現実的に運用し続けるられる仕組みを構築しなければならない。この時、プロジェクトが失敗しないための注意点として、3つの鉄則というものがある。この3つの鉄則を守ることで、プロジェクトの品質は大きく変わってくる。
第1の鉄則
1 つ目の鉄則は「目的は能力を伸ばすことであり把握することではない」ということだ。タレントマネジメントの一つのゴールは人材ポートフォリオを作成するということだ(図表1)。
これにより、どのような人材がどれくらいいるかを把握できるわけだが、この把握することはあくまで状態把握であって、作成することそのものにはそれほど大きな意味はない。ポートフォリオの本質的な意義は、区分された人材セグメントごとに適用人事施策を変えて、よりニーズや状況にマッチした育成を行うことである(図表2)。