重重無尽 知ったかぶりをせず“地芸”を身につけよう
国立劇場では昭和45年から伝統芸能の継承者の養成事業をはじめ、歌舞伎や文楽、能楽三役など、多岐にわたる分野で養成を行っています。
私自身は直接教えていませんが、演出家として何を求めるかというと、まず礼儀です。どんな時でも、礼に始まり、礼に終わるのが基本です。これは親子、兄弟でも同じです。あくまでも先輩は先輩。師匠は師匠。舞台に出る前には「お願いします」、終われば「ありがとうございました」と言わなければいけません。外ではどうだろうと、舞台では厳しく言います。また、そこを厳しくしなければ芸の継承はできません。
歌舞伎には礼儀だけでなく、楽屋に入ったときから、「定式(じょうしき)」というものもあります。それが身についていなければ、どんなに演技が上手くても、一流にはなれません。たとえば、殿様、奥方、その家来、お姫様が舞台に出ているとします。そのとき、家来が殿様より前にいたらおかしいでしょう?これを舞台の上の「居所」といいます。演じる役々で、居所が決まっているのです。