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OPINION3 カギは内発的動機づけと環境づくり 感性を磨く“実践”のために 必要なこと
変化が激しく先行きが不透明な現代だからこそ、価値を生み出す源となる「感性」が必要だ―。
そう話すのは、オラクルひと・しくみ研究所代表の小阪裕司氏である。
人の感性と行動に焦点を当てた研究とビジネスでの現場実践を続ける小阪氏が考える、「感性を磨くためにできること」とは。
また、組織で感性を磨く難しさについて、話を聞いた。
なぜ感性が重要なのか
現代は、オリジナルな価値を創造できなければ、顧客の支持を得ることができない時代である。昔は、ヒットした製品やサービスを真似れば“、二番煎じ”や“三番煎じ”くらいまでなら、ある程度成功できたが、もはやそれは通用しない。スピーディーな変化に対応し、柔軟な発想で常に新しいものを取り入れ、オリジナルな“価値”を生み出していかなければならない時代なのだ。
この価値を生み出す源となるのが、“感性”である。私が所属する日本感性工学会では、感性を「脳の高次機能」と定義し、人の高度な営みを支え、つかさどるものだと捉えている。したがって「美しい」と感じたりする機能ばかりでなく、何か人を喜ばせるようなアイデアを思いつくという創造性も感性には含まれている。
価値を生み出すためには、創造性に加え、顧客に寄り添う感受性や共感性も必要になる。さらに価値を伝える力も求められる。このような力が全て、感性という言葉で表されると考えれば、現代人、特にビジネスパーソンにとって、感性が重要であるということは疑う余地もない。
“実践”が感性を磨く
感性には、持って生まれた生得的なものと経験で得られる後天的なものがあると考えられる。この感性を磨く最高の方法は“実践”を続けることである。実践すればするほど、脳の回路が書き換わり進化していくことは、科学的にも明らかになってきた自然の摂理である。専門的にいえば、脳内に新しいシナプス(神経細胞間の接合構造)がどれだけできたかという話であり、それは感受性についても、創造性でも、表現力でも同じだ。
それはつまり、実践することで、誰でも必ず感性を磨けるということでもある。実践する内容は、仕事であれば、自分の現場でできることから始めればよいだろう。例えば、今行っている仕事の仕方を少し変えてみる。新しいアイデアを考え、試してみる。思いつかないのであれば、先輩のやり方を真似てみる。発想できないからといって何も実行しなければ、そこから進むことはできない。何でもいいから、今と違うことを見つけて試してみるのだ。
そうすると、自分自身や自分を取り巻く状況、環境に変化が現れるはずだ。まずこの“変化”に気づくことが大切だ。最初は難しいかもしれないが、意識的に小さな変化に目を向け、違いに敏感になることも感性を磨く要素である。そうして気づきを得て、さらにどうしたらいいかとアイデアを考え、また実践する。このように気づきと実践を繰り返すことで感性は磨かれていくのである。
■実践のカギ① “ワクワク”すること
そこで考えたいのは、人はどうすれば「自ら実践したい」と思うのかだ。
プロフィール

小阪裕司(こさか ゆうじ)氏
オラクルひと・しくみ研究所 代表/日本感性工学会 理事
山口大学人文学部卒業。大手小売業にて実務を経験後、広告代理店を経て1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の感性と行動を軸にビジネスを組み立てる理論を体系化し、2011 年には博士号(情報学)を取得。これまでに4000 社を越える企業をサポートする。著書に『価値創造の思考法』(東洋経済新報社)、『「感性」のマーケティング 心と行動を読み解き、顧客をつかむ』(PHP研究所)など多数。
[取材・文]=汐見 忍 [写真]=オラクルひと・しくみ研究所提供