ATDの風 HR Global Wind from ATD <第6回>今、リーダーに求められる意識、行動を探る
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
年1回のATD国際会議の基調講演は、ATDの最重要メッセージのひとつであり、ワールドワイドのオピニオンリーダー、有識者、経営者が登壇する。そのテーマに、2016 年、17 年と続けて、リーダーシップが取り上げられた。この2年間の基調講演の内容を振り返ることで、リーダーに求められる意識や行動の在り方に関する潮流を浮き彫りにしたい。
■リーダーが築くべき信頼関係
2016 年、17年の基調講演のテーマ及びスピーカーを図に掲げた。16 年の講演内容からは、「メンバー個人に焦点を当て、リーダーが彼らと信頼関係を築き、エンゲージメントを高めることが組織成果の向上につながる」という共通の論調がうかがえる。先頭に立って組織を引っ張るリーダーより、メンバーとの信頼関係を高め、彼らの成長を促し、意欲を高め、組織の力を引き上げるリーダーが求められているといえよう。
ベストセラー『リーダーは最後に食べなさい!』の著者で、思想家のサイモン・シネック氏は、メンバーのパフォーマンス発揮、エンゲージメント向上には、信頼や支え合いを感じさせる環境が必要だと訴えた。メンバーは、上司や同僚との対立、過酷な労働環境、不安定な雇用等から生じるストレス、不安といった「組織内の脅威」と日々戦っている。安心を感じる職場をつくり出せば、メンバーは組織内で自分を守ることから解放され、仕事に専念できる。
世界的に有名なトレンド調査サイト、TrendHunter.comの創設者でCEOのジェレミー・グーチェ氏も、目標達成の主役はメンバーだ、と唱える。イノベーションは、壮大な発見というよりは、個々のメンバーの日々の小さな創意工夫の積み重ねだ。そのため、メンバーが日々新しいチャンスを熱心に探し、現状の延長線上にない挑戦が行えるような組織づくりが大切だと強く訴えかけていた。
■リーダーに求められる資質
リーダーには、「誠実さ、人間らしさ、自分と向き合う勇気」が求められる。前述のシネック氏によると、メンバーは、自分たちを危機から守ってくれることをリーダーに期待している。つまり、リーダーシップとは「他者の人生を守ること」であり、リーダーには自己犠牲が求められる。例えば経営者が、解雇や減給を社員に強いて、自身は高額のボーナスを受け取れば、メンバーの信頼は失せ、心は組織から離れていくだろう。
一般的に、メンバーを守るリーダーと聞くと、強い精神を持ち、優秀で頼もしい人物像を想像する。しかし、勇気、ヴァルネラビリティ(心の脆さ、傷つきやすさ)を研究するブレネー・ブラウン氏は、リーダーが勇気を出して弱い自分をさらけ出し、周囲に助けを求めることが、メンバーとの信頼関係を高めると唱える。リーダーが弱い自分を見せることは、メンバーへの信頼の証だからだ。リーダーの信頼を自覚したメンバーは、仕事への主体的な関与度を高め、パフォーマンスを発揮する。