SDGsへの取り組みは、人と組織が成長する機会です。社員一人ひとりの自分ごと化が進むことで、意識や行動が大きく変わった企業を取り上げます。
近年、食料問題解決の一つとして、昆虫食が世界で注目を集めている。今回紹介するエコロギーは、食用コオロギの生産に取り組む企業だ。同社の特徴は、生産に留まらず、発展途上国であるカンボジアのフードロス削減、健康課題の改善、雇用創出といった様々な社会課題解決に寄与している点にある。その取り組みの詳細と、社会課題に挑むリーダーとしてのビジョンやリーダーシップについて、同社代表の葦苅晟矢氏に聞いた。
SDGsの取り組みのなかでも、人の生活の根幹にかかわるものが3番「すべての人に健康と福祉を」だ。あらゆる社会生活や企業活動も、健康と福祉の実現から始まる。発展途上国における国際保健分野に挑む若きリーダーを日本国内で発掘し、その取り組みを支援・応援するプロジェクト――Vision Hacker Awards 2021 for SDGs3で、シード賞を受賞したエコロギー代表の葦苅晟矢氏も、この目標に挑む次世代リーダーだ。同社は早稲田大学発のベンチャー企業として、コオロギ食を活用し、カンボジアでの課題解決に取り組んでいる。
「FAO(国連食糧農業機関)が昆虫食を推奨するレポートを発表※したり、無印良品がコオロギせんべいを販売するなど、昆虫食はいま、世間から注目を集めています。食品会社は、タンパク質の代替素材を求めていたこともあり、当社にとっても良い潮流を感じています」(葦苅氏、以下同)
※2013年 “Edible insects: Future prospects for food and feed security”
コオロギは、豊富なタンパク質の他、ビタミンやミネラル(鉄分、亜鉛)など、多くの栄養素を含んでいる。一見すると食用に抵抗があるかもしれないが、コオロギ食の健康への貢献は大きい。
「原料を輸入して食料品を作っている企業は他にもありますが、当社は原料であるコオロギの生産から行うことをこだわりとしています。この生産過程においてポイントとなるのが『循環』と『分散』です。
まず循環ですが、当社はエコロギーという社名の通り、コオロギを軸に世界でもっともエコな食料生産の仕組みをつくりたいと考えています。そこで注目したのが、食品工場や農作物の残渣を引き取り、コオロギの餌にするという資源の循環のサイクルです」
残渣とは、食品を作るときに発生する不要物だ。日本ではそうした産業廃棄物を回収する業者が存在するが、カンボジアではまだ整っておらず、焼却処分となっている。その残渣を買い取りコオロギの餌にすることで、焼却に必要なエネルギーを抑えるというのが循環的な生産である。
「次に、分散について。私たちは、たとえば大きな工場を造り一極集中で生産するといったことは行っていません。カンボジアの中でも田舎の村に赴き、農家の方に生産を委託する形を取っています。これは、リスクの分散と同時に、現地の人々にとっての副業創出というねらいもあるのです。いつでもどこでも食料が作れるという状態を目指したいと考えています」
カンボジアは一次農業が主幹となっており、特に稲作が盛んだ。しかし農業だけでは災害などの天候リスクに弱い。また、米は年に2度しか収穫ができないため、収入が不安定になりがちという問題もあった。一方で、コオロギは45日で収穫が可能だ。収穫されるたびに買い取れば、農家にとっても安定的な収入の仕組みをつくることができる。
「最初は、コオロギの生産に着手してもらうことに苦労しました。なにせ、現地の人々にとって、私たちは“よくわからない日本人がやってきた”という状態ですから。信用のないよそ者なんですよね。根気強く、コオロギ育成のノウハウを伝え、必ず買い取るということを続けることで、少しずつ信頼関係を構築していきました。こうして生まれた関係を農家同士でも繋いで、日本の農協のような組織もつくれたら面白いのではないかと考えています」
フードロス削減と、発展途上国の副業創出。同社の包括的な取り組みは、これだけに留まらない。他にも、現地の日系病院と提携し、妊婦への栄養補助食材としての活用を進めるなど、コオロギ食を通じて様々な課題に取り組んでいる。
「今後は妊婦だけではなく、アスリートの健康課題や、高齢者の骨粗しょう症への健康改善など、子どもから高齢者まで、すべてのライフステージで栄養サポートができるようにしていきたいですね」
葦苅 晟矢(あしかり せいや)
氏
株式会社エコロギー CEO
1993年生まれ。早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院先進理工学研究科一貫博士課程に進学後、早稲田大学朝日研究室にて昆虫コオロギの資源化、利活用に関する研究に取り組む。この研究成果をもとに2017年に株式会社エコロギーを設立。現在はカンボジアを拠点に事業開発に携わる。2016年文部科学大臣賞受賞。2019年Forbes 30 Under 30 Japan選出。
[取材・文]=長岡萌以
産業廃棄物の再資源化に取り組む石坂産業。現在では減量化・再資源化率98%を誇り、循環型社会の実現を牽引する。今でこそ事業は社会的に価値が認められているが、かつては誇りをもてず、悔しい思いをする時期もあった。なぜ会社は変わり、地域や社会を巻き込む様々な取り組みを行えるようになったのか。専務取締役の石坂知子氏に聞いた。
ビジネス環境変化への柔軟な対応やイノベーション創出が求められる現代において、多様な人材の価値や発想を活かそうという「ダイバーシティ」の重要性はますます高まっている。しかし、ダイバーシティへの意識が十分に浸透しているとは言いがたいのが現状だ。 ダイバーシティの本質とは何か。SDGsとどのようにつながっているのか。ダイバーシティの第一人者であるイー・ウーマン代表の佐々木かをり氏に聞いた。
創業時より、食品会社として事業を通じた社会貢献を目指してきた江崎グリコ。2019年より取り組む「Co育てPROJECT」(読み:こそだてぷろじぇくと)は、子育てに関する社会課題を解決するプロジェクトである一方で、多様な人材が活躍できる風土の醸成も目的の1つだ。これはSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に深く関わる。関連する社内制度の設計と運用を担うグループ労政部の齋藤尚美氏に話を聞いた。
近年、食料問題解決の一つとして、昆虫食が世界で注目を集めている。今回紹介するエコロギーは、食用コオロギの生産に取り組む企業だ。同社の特徴は、生産に留まらず、発展途上国であるカンボジアのフードロス削減、健康課題の改善、雇用創出といった様々な社会課題解決に寄与している点にある。その取り組みの詳細と、社会課題に挑むリーダーとしてのビジョンやリーダーシップについて、同社代表の葦苅晟矢氏に聞いた。
「人を、場を、世界を、笑顔に。オリオングループ」をミッションに、1957年の創業以来、地元の沖縄はもとより、全国にも根強いファンを持つオリオンビール。SDGsへの取り組みに併せて、企業理念『ORION WAY(オリオンウェイ)』の策定をはじめ、人事制度全体も見直したという。その意図は何か。オリオンビールの人事総務本部に詳しく話を聞いた。