今週の“読まぬは損”

第190回『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

経済データを定点観測することの重要性とは

「ビジネス情報収集・活用手法」について、顧客に長年伝えてきたイチ講師として、定期的にウオッチしている情報源が数多く存在している。

自分の思考の軸を形成するうえで、こうした情報源には日々本当に助けられている。
・この官公庁の特定のサイトには毎週、毎月といった頻度で必ず目を通す
・この経済データは発刊され次第、アップデート材料として頭に叩き込む
・このビジネス誌は毎週(あるいは毎月)必ず見る。どんなにバタバタしていても、この特集だけは即日目を通す
・このアメリカのランキングデータは毎年8月に発表されるので即チェックする

といった具合に、自分のスケジュール帳にも、「この日は何を見る」ということを実は記入している(そうしないと忘れてしまうというのが正直なところなのだが……)。

定点で情報を観測していると、最初はピンとこなくても、続けていくことで変化・変容が段々と読み解けるようになっていく。

特に、国内外の重要な「経済データ」に目を通すことは非常に重要である。
経済データに目を通すことで、未来のビジネスのみならず、ライフスタイルにも役立つ「兆し」を感じ取ることができるようになる。
経営者から新人に至るまで、自社ビジネスに影響のある経済データはぜひ把握し、定点観測を続けていただきたいと願っている。

ただ1つ難点がある。
それは、経済データは非常に数が多いということだ。
政府関連の統計だけでも膨大な数が存在し、以下サイトでは680もの統計が検索の対象となっている。
「政府統計の総合窓口」

そこで、今回ご紹介したい1冊は、コンサルタントとして長年ご活躍されており、数多くのビジネス書著者(ベストセラー多数)としても著名な小宮一慶氏による最新刊である。

その名も『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』。

プロの視点で、ビジネスパーソンにとって有益な統計を30に絞って紹介してくれていることがありがたい(本書の巻末に一覧表の掲載あり)。

小宮氏は今回の書籍において、以下のようなコメントを出されている。
「私はもう何十年もの間、経済に関する記事や経済指標を毎日チェックし、それぞれを関連づけて読む作業を続けてきました。今ではこれが自分の仕事に大変役に立っています。本職である経営コンサルタントとして、経済や会計の読み方にも強くなりました。数字と現象を見るという点では経済も会計も同じで、どちらも継続的な訓練でその能力は格段に高まります」

本書の構成

本書は、全5章で構成されている。

第1章:経済の本質が見える

この章では、経済指標のなかでも、最初に理解しておくべき特に重要な数字・指標にフォーカスを当てて経済データが紹介されている。
米国の雇用統計における注目指標の紹介を皮切りに、GDPや為替レート、貿易収支等、日本との比較の考え方も紹介されていてわかりやすい。

第2章:景気の先行きを読む

日本ではこれから石破茂首相による新政権が誕生し、アメリカにおいても大統領選挙が11月に迫っている。景気の波も、誰が当選するかによって大きく変わってくる。

「日銀短観」「景気動向指数」「鉱工業指数」「消費者物価指数」といった景気の先行きを読むために役立つ重要統計がここでも多く登場する(米国統計にも注目)。
私は内閣府「景気ウォッチャー調査」の先行きコメントに前々から注目しており、自分の感じている景況感との違和感をキャッチアップするために、全国各エリアのデータを定点観測している。

第3章:個別業種から見る経済の流れ

ここでは、「旅行」「百貨店」「住宅」「半導体」「鉄鋼」「自動車」といった個別業種に伴う経済データとその読み解き方が紹介されている。

もちろん、最も関心の高い業界のデータを見ておくことはもちろんだが、これからの時代は少しずつ、産業間の垣根が消失していく時代になると思うので、他業界の経済データを学ぶ観点から、直接は今の仕事から遠いと思しきデータも見ておくとよいと思う。

第4章:お金の動きを見る金融の指標

第5章:株式投資に役立つ指標

この両章では、金利関連のデータをはじめ、金融にフォーカスした重要指標が多数紹介されている。
金融は「経済の血液」である。金融指標を理解しておくことで、経済の流れを読み解きやすくなる。
個人的には、第5章で登場する「企業の数字で押さえておくべきポイント」「将来性のある銘柄、8つの条件」は投資のみならず、ビジネスシーンにおいてもありがたい内容である。

今、多くの企業で金融リテラシー教育がスタートしている。

それこそ、小学校で投資の授業が行われている時代である。
小宮氏推奨の金融指標の数々は未来のためにぜひ押さえておきたい。

経済データは一生使える「ビジネス」先読み指標

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 小宮氏が毎日見ている「経済データ」に改めて全て目を通す(自分が日頃から見ているものも含めて)
  2. 未来を考えるうえで特に重要と考える先読み指標をピックアップする
  3. 経済データ間の相関性を考える
  4. 本書のエピソードや最近の経済誌紙記事を参考に、これから何が起こりそうかを実際に想起してみる

繰り返しになるが、やはり本書でありがたいのは、世に数ある経済データのなかから主要データを30に絞ってピックアップ(選別の重要性)、そして近年、世の中で起こっていた事象等のエピソードも絡めて解説してくださっていることだと思う(連鎖の重要性)。

データを活用して未来について考えるという研修もよく実施しているのだが、やはり基本的な「経済データ」を理解しておくことの重要性、そして情報の「つなぎ方」の重要性を改めて認識させられた次第である。

小宮氏が「おわりに」で書かれている文章を一部紹介させていただく。

「基礎知識を身につけ、仮説を立てて検証するという訓練を繰り返せば、だんだんと仮説が当たりやすくなってきます。それが「世の中の流れをつかめてきた」ということです」

よく目にする経済データ、初見の経済データ、両方存在していると思うが、特に初見のデータは、まずはご覧いただきたい。

生成AIの時代だからこそ、自分でデータを見て考えることの重要性は増していく。

自分の軸を構築するための土台となる情報が文庫で読めるのは本当にありがたい。
ぜひお読みいただくことをお勧めしておく。

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