今週の“読まぬは損”

第183回『DUEL 世界に勝つために『最適解』を探し続けろ』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

サッカー日本代表不動のキャプテンの成長に迫る

サッカー観戦が好きで、日本代表の試合には、若い頃からよく足を運んでいる。かつては東京から夜行バスに揺られて、試合を見に行ったこともあった。なかなか熱心なサポーターであった。

今でも、関東近郊で行われる試合は、スケジュールが許す限り見にいくようにしている。もちろんTVやネット中継等で見られることもありがたいのだが、特定の選手の動きを直接目で追ってみると、その動きの狙いが見えて実に面白い。

近年、そのプレースタイルが好きな選手の1人に遠藤航選手がいる。

遠藤選手は、現在、イングランドのプレミアリーグというまさに世界最高峰のハイレベルなリーグのリバプールに所属している。

それだけでも、相当凄いことだと思うが、世界のトッププレーヤーがひしめく環境下において、見事レギュラーポジションを獲得していることが素晴らしい。ポジションはボランチ(中盤の底)であり、特に戦況の流れを読み解く眼が求められている。

「世界のトップボランチ」とまで評される遠藤選手が、世界で戦うためにどのような思考を張り巡らせているのか…実はこの本は過去にも本連載でご紹介しているのだが(第167回)、今読み返すと、改めて大きな気づきがあったので、今一度ご紹介させていただきたい。

こちらも欧州強豪リーグであるブンデスリーガ(ドイツ)のシュツットガルトに所属していた当時の書籍となるが、遠藤選手がこの時点で見つけた答えが「最適解」を探し続けるという考えであった。

「正解がない」からはじめよう……この考え方は、ビジネスシーンにも随所で応用できる。

遠藤選手は、どちらかといえば「遅咲きのスーパースター」である。ベテランになってからも、その問題意識の持ち方や時間の使い方1つでいくらでも成長できる……私自身、本書を読んで、今年よりも来年、来年よりも再来年、もっとビジネスパーソンとして成長している自分でありたいと強く思ったことを伝えておきたい。

本書の構成

本書は、全5章で構成されている。

第1章:「正解はない」をスタートにする

本章では遠藤選手が考える日本チームの強みにも言及されているのだが、なるほど、この章を読むだけでも、ワールドカップカタール2022にて日本がドイツやスペインといった強豪に勝利できたその背景がよくわかる。マウスピースのエピソードも興味深い。

第2章:最適解の探し方~疑う。

本章から、「最適解」を探るための考え方のステップが紹介されている。個人的に特に印象的だったのが、”「失敗」という評価を鵜呑みにしない”、という項である。この考え方はビジネスシーンにおいても重要である。サッカーもビジネスももちろん「結果」を得るために努力するのだが、「結果」だけで良し悪しを判断することは、必要な選択肢を奪ってしまう可能性がある……。うまくいったときほど、「それ以外に方法はなかったのか」を考える癖をつけていきたい。

第3章:最適解を探す~不可能をなくす。

この章のはじめに、「いままでにないデータにフォーカスする」という項がある。

日本では耳馴染みが少ないかもしれないが、ドイツでは「デュエル」(本書のタイトル、1対1の攻防という意味)勝利数という指数があり、全選手のランキングが公開されている

遠藤選手は2020-2021シーズンにおいて、見事第1位を獲得している。攻撃的な選手と比較して、守備的な選手は注目されることが少ないという特性がどうしてもあるのだが、この指数を意識することで、守備的なポジションも注目されるかもしれない……この指数のトップを取ることを強く意識していたとのこと。

なるほどビジネスシーンにおいても、注目するデータを変えることで、自身の成長を促したり、他社とは違う視点でビジネスを構築できるかもしれない。

他にも、デュエルを意識した取り組みが紹介されている。読み進めていただくとわかるのだが、デュエルの極意は実は勝利数のみならず……奥が深いことがよくわかる。

第4章:最適解を見つける

この章は特にじっくりお読みいただきたい。特に、”逆算から小さなステップを踏む”、の項で登場する「目標を達成できる人とできない人の差」(P.155)、”「最適解」を探す装置を作る”、の項で登場する自分の選択肢を持つための考え方(P.191)に注目して読み進めた。

第5章 日本サッカー進化論

本章も、日本サッカーを応援している立場として、興味深く読ませていただいた。

常に問題意識を持ち、考え抜き、1つの境地に達したプロサッカー選手に学ぶ

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 遠藤選手の考察をビジネスパーソンの行動変容にうまく当てはめてみる
  2. 自分にとっての「デュエル」は何かを考える
  3. イチ研修講師として、次代のリーダー育成メソッドにつなげていく
  4. 常に「最適解」を意識するマインドを自分の中に醸成する

サッカー日本代表チームキャプテンであり、世界最高峰リーグでの熾烈な競争を勝ち抜き、絶大な信頼を受けている遠藤選手の考え方を学ぶことができる超オススメの1冊である。ビジネスシーンにおいて、そのまま応用できる考え方が多いことにも感謝したい。

サッカーへのご関心が薄い方にも、自身の成長のために、チームの成長のために、たゆまぬ成長のために、是非ともお読みいただきたい。

ちなみに本書を読んでいると、なぜ2024年3月、ベテランである長友佑都選手(現FC東京所属)が日本代表チームに1年ぶりに招集されたかがよくわかる。遠藤選手が次に書籍を発刊される時には、リバプールでの経験も経て、また新たな「気づき」を私たちに届けてくれると思う。

日本代表やリバプールにおける遠藤選手の動きにこれからも注目していきたい。

この記事は全文公開しています。
無料会員登録すると、
全ての記事をお読みいただけます。
2,500本以上の人事・人材開発専門記事が読める!
無料で読み放題 会員登録する
会員の方 ログイン