今週の“読まぬは損”

第179回『東大教授が語り合う10の未来予測』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

テクノロジーは間違いなく世の中を変えていく……

毎年1月の初めに、全米家電協会(CEA)が主催するCES(Consumer Electronics Show)がラスベガスで開催される。

CES公式サイト:https://www.ces.tech/

全米家電協会が主催することもあり、家電製品が主体ではあるが、近年は自動車をはじめとしたモビリティ系の製品も多くお目見えするようになった。年明け早々、世界の先端テクノロジーが随所で披露されるイベントということもあり、注目度は高い。

もちろん私も“世界の新たな息吹”を感じられるイベントとして、大企業はもちろん、未来の主役となるスタートアップ企業の発掘、そして、「どの国に勢いがあるのか?」を検証できるイベントとして、毎年注目している。

日本企業も多く出展しており、一例となるが、2024年はソニーとホンダの折半出資企業であるソニー・ホンダモビリティによる進化したEV(電気自動車)「アフィーラ プロトタイプ」が世界初公開となったことが大きな話題を呼んだ。

少し前の話題となるが、2020年のCESでは、トヨタ自動車が人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市コネクティッド・シティプロジェクトである「Woven City」(ウーブン・シティ)の構想発表を行ったことも記憶に新しい。

未来の絵姿をイメージして事業戦略を考えるうえで、テクノロジーの進化から目を離すことはできない。なぜなら、これから何が起ころうと、テクノロジーの進化は確実にやってくるからである。そう考えると、業種・職種・立場に関わらず、多くのビジネスパーソンがCESのようなイベントには注目しておく必要があると思う。

こうした前提において、日本でもとてもワクワクする素晴らしい書籍が発刊されているので是非、皆様にご紹介したい。名実ともに、日本のNo.1大学である東京大学の教授陣が座談会形式で未来について語り合う“熱い”1冊である。

本書の構成

タイトルに10の未来予測とあるが、展開されるトークテーマは以下の10テーマである。

「AI」「エネルギー」「国家」「教育」「生命」「宇宙」「ビジネス」「IT」「環境」「仮想空間」。

東大を代表する教授陣である「知の巨人」たちが思い思いに自分の専門分野以外の話題も含めて雑談を繰り広げる……、面白いに決まっている。

本書は全4章で構成されている。

◆Part1 暦本純一×合田圭介×松尾豊

スマートフォン等で活用されているマルチタッチインターフェイス技術を開発した暦本教授、カリフォルニア大学や武漢大学でも教鞭を取る合田教授、AI界にて日本で最も著名な先生である松尾教授のお三方によるトークセッションで本書はスタートする。

暦本教授の書籍は実は本連載で過去にもご紹介している。

URL:https://jhclub.jmam.co.jp/series/01/109.html

おそらく、このPart1の前半を読んだ時点で「本書を読んでよかった」と思っていただけるであろう。本章だけでも、実に17ものトピックが矢継ぎ早に登場する。

“「雑談」こそがクリエイティブである理由”というトピックが登場するのだが、この暦本教授が以前より提唱しておられる内容については、改めて、多くの企業や機関にとっても「これからの仕事の進め方」を考えさせられるに違いない。

合田教授による「司令官が足りない日本」、そして松尾教授による「アメリカのスピード感」に関する話題等、一気に時間を忘れて読めてしまう。

本連載のメイン読者である人事部門の皆様、人間に能力をダウンロードできる時代にもしなったとしたら……、どんな人材戦略をお考えになるであろうか?

「内向き・陽キャ時代」時代の到来もきっと興味深いテーマと感じていただけると思う。

◆Part2 「情報・通信」 江崎浩×黒田忠広×川原圭博

この章では、ICT関連技術について、14のトピックが登場する。江崎教授はデジタル庁の初代Chief Architect、黒田教授は半導体集積回路の専門家であり、川原教授は未来の生活をデザインすることをライフワークとされている。

いわばICT分野のプロフェッショナルが驚きの未来予測を繰り広げる。6Gが重要な社会インフラとなり、7G、8Gに移行していくまでの流れや、私が実は世界で最も注目している技術である「無線給電(ワイヤレス給電)」についても専門家ならではの話題が展開される。さりげなく、大人気漫画の代表格であり、私の愛読書でもある『ドラゴンボール』(鳥山明著)の話題も登場し、読者もイメージしやすい世界観で話してくれているのがありがたい。

◆Part3 「宇宙」 中須賀真一×戸谷友則×江崎浩

中須賀教授は宇宙工学の専門家、戸谷教授は宇宙物理学・天文学の専門家である。宇宙をテーマに21ものトピックが登場する。

日本でも、大企業の積極展開はもとより、スペースデブリ(宇宙ゴミ回収)の注目スタートアップが登場しているし、NASAから注目される中小企業も多く見受けられる。

国策としても重要な産業であるが、本章を読んでいくと、宇宙ビジネスへの期待そして同時に課題感も浮き彫りになっている。宇宙版GAFAの登場に関する話題にも注目しながら読み進めた(私はスペースX以外の強力な企業が出てくる予感がしているのだが……)。

◆Part4 「病気と生命」 新藏礼子×富田泰輔×合田圭介

新藏教授は免疫学・分子生物学の専門家、富田教授は生化学・アルツハイマー研究の専門家である。認知症や医療領域といったテーマについて20ものトピックが登場する。

人生100年時代を標榜する我が国にとっても、重要かつ注目の話題が多く登場する。最初に出てくる認知症の話題、体内環境に関する様々な話題、これからますます重要となる「予防」に関する話題、そして日本の研究領域の課題感を学べる貴重な章である。

日本の科学リテラシーに関する問題提起についても、やはり興味深く、拝読させていただいた(自分自身の裾野を広げる必要性について、全く同感である)。

技術の進化についてワクワクしながら学べるビジネス書……これはもう読むしかない

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 各注目カテゴリーにおいて東大教授陣が描く未来予想図を学ぶ
  2. 自分が持っていない視点に特に注目して学ぶ。本書をきっかけに調べる。
  3. ビジネスパーソンとして押さえておくべきテクノロジーキーワードをさらに補強する
  4. 未来の社会の変化・未来の絵姿について、本書をベースに予測してみる

各章末に登場する編著者である瀧口氏によるまとめも私たちの理解を大いに助けてくれる。
個人的には、「知の巨人たちのQ&A」のコーナーも実に興味深かった。

様々な未来予測本を仕事柄読んできているが、これほどワクワク感を感じながら、自分の頭の中で対話をしながら楽しく読める本も珍しいのでは……と正直思っている。

私が未来を考えるための研修に登壇する際には、既に必読書としてお勧めしているこの1冊。是非、皆様の所属先でも本書を読んで、仲間で「雑談」してみてはいかがであろうか。

不透明な未来感を感じている方も多いかもしれないが、本書には日本を元気にするパワーがある。

経営者、部門責任者、次世代リーダーにとって必読であることはもちろん、これから未来の主役となる若い方々にも是非ともお読みいただきたい1冊である。

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