J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年05月号

TOPIC KAIKAカンファレンス2017レポート VUCA時代に日本企業が選ぶ 組織と人づくりの選択肢【後編】

人・組織づくりの先進事例が集まる「KAIKAカンファレンス」。
2014年のリニューアル後、4回目を迎えた今回は、グローバル展開に伴い、人材マネジメントを大きく転換する最中の日本企業の具体的事例や、パフォーマンス・マネジメントの方法、AIの導入なども報告された。先月号に続き、その模様の一部をレポートする。


開催時期:2017 年2 月7 日、8 日、9 日
会 場:ベルサール八重洲(東京都)

[取材・文]=佐藤鼓子、瀧川美里  [写真]=取材者撮影

「人材育成×評価制度」 進化型パフォーマンス・マネジメント

2月8日(水)

【講演者】ファイザービジネス・パートナー人事グループ IM/I&I/RD人事チーム 部長 山﨑泰一氏

【コーディネーター】中央大学大学院 戦略経営研究科 教授 中島 豊氏

ファイザージャパンは2008年、グローバルHRモデルの導入を機に人事制度の改定に着手し、評価制度についても段階的に進化型への移行を図ってきている。順位づけ(レーティング)の廃止をどのように効果的な人材育成につなげているのか。制度改革に携わる山﨑泰一氏が紹介した。

日本的組織からグローバル体制へ

私は営業職を経て人事総務部門に異動し、2008 年以降は人事企画グループの責任者として、役割等級制度の導入や評価制度の改定に取り組んできました。今回は、その過程や取り組み内容についてご紹介します。

製薬業界のグローバルでトップ10に入る企業は合併を繰り返し、現在の形になっています。膨大な研究開発費を投じても、研究開発の生産性は下がる傾向にあり、大企業も生き残りをかけて、M&Aだけでなく事業交換などいろいろな挑戦をしています。

当社は人事制度面では、早期から週休2日制、フレックスタイムなど先進的な取り組みを導入してきましたが、企業風土については極めて日本的で、日頃は外資系と感じることがほとんどありませんでした。グローバルでつながっているのは社長のみで、役員も含めて全員が日本の社長に報告を行っており、おっとりしたモノカルチャーであったと思います。

しかし、2009年にグローバルで組織再編が行われ、4つのビジネスユニット(BU;事業部門)に分かれました。国単位で成長をめざす従来の体制から、各部門ごとにグローバルで統合され、より小さな組織で、それぞれの顧客のニーズに機敏に応えていく体制となりました。つまり、日本という枠組みではなく、事業部門ごとにグローバルで事業が進められるという体制に変化しました。

OWNIT!を自社のカルチャーに

BU制を運営するカギになるのがラインマネジャーです。小さな組織の運営には、マネジャーの機動的な判断や行動が重要になるからです。そこで彼らの育成にフォーカスすることになりました。

当社が位置づけているマネジャーの役割は「結果を出す」「人財を活用し育成する」「将来を確かなものにする」の3つです。特に人財の活用では、効果的なチームを形成し、仕事を任せることで部下を育てることが大事だと繰り返し伝えています。

BU制に移行後、ビジネス変革のために当時の企業文化に必要なことは何か、マネジャーに調査をした結果、それはオーナーシップ文化だと判明しました。それを「OWNIT(オウンイット)!」(図1)と名付け、会社のカルチャーにする取り組みが始まりました。

役割明確化と総合評価を導入

前置きが長くなりましたが、今回の本題である人事制度改革は、BU制という組織再編が大きな起点になっています。

実はこれに先駆けて、2008年、グローバルHRモデルを導入しました。人事の仕事を、エンタープライズ(制度開発、戦略立案)、ディビジョナル(ビジネス戦略のサポート)、マネジャー&オペレーショナルサポート(人事オペレーション実行、マネジャーのサポート)の3つに分類するグローバルモデルに一本化し、グローバルで統合・再編成したのです。HR(人事部門)はグローバルで一つで、グローバルレベルの戦略策定がエンタープライズとディビジョナル、各国のマネジャーのサポート・コーチングがマネジャー&オペレーショナルサポートという形です。

日本で人事制度改革を行っていくに当たって、どういう社員を育成していけばよいのかを検討し、社員育成の基本方針のキーワードを「OWNIT!」「チャレンジ&イノベーション」「コミットメント」と定め、これにつながる人事制度改革を進めていくこととしました。

改革の主なテーマは、等級・登用、評価・育成と報酬に区分けし、これらが効果的に連携できるように制度設計を進めました。

等級制度では、各等級の役割を明確にしました。管理職の等級基準をグローバル基準に合わせ、一般社員には2014年にMR(医薬情報担当者)の役割等級制度を導入しています。それまでのコンピテンシーを基準とした等級から、役割の大きさによって等級を決定する仕組みに変えました。この制度では直近の評価結果に基づき、会社のアサイン(任命)によって、役割の変更を行うことで等級が上下することになります。等級の変更は管理職と一般社員間も含めて実施しています。

評価面では、まず総合評価を導入しました。以前は目標の達成度合いを数値化し、結果に応じて点数を積み上げる、つまりできたか、できなかったかで点数がつく仕組み的には非常に分かりやすい制度でした。しかし、この制度では目標に記載されていない貢献が評価されにくいこと、そしてあらかじめ達成できそうな目標設定にとどまり、挑戦的な目標が立てられないことが課題でした。

新たな総合評価では、各社員の等級に応じた期待役割に対しての総合評価とすることで、目標以外の貢献も評価しやすくしました。各等級の役割定義は社員に公開することで、透明性を確保しています。さらに従来の目標ごとの評価点の積み上げで、評価点が高止まりして差がつきにくい傾向にあった絶対評価から、評価結果にメリハリのある7段階の総合評価へ移行しました(図2)。目標設定がしっかりしていないと評価時に差別化は出来ません。マネジャーには部下との綿密な対話やタフな判断が求められます。マネジャーのパフォーマンス・マネジメントに対する関心が高まりました。

評価廃止で目標は柔軟、挑戦的に

7段階評価はある程度機能していましたが、ビジネス環境の変化が一層激しくなる中、本当に競争優位性を高めて生き残っていくにはどうしたらいいか。検討を進めた結果、さらなる進化のために2016 年に管理職を対象に導入したのが、進化型パフォーマンスマネジメント(進化型GPM)です。

変化に柔軟に対応する自律した人材の育成を促進するため、個人とビジネスのパフォーマンスをコネクトさせることを重視し、評価レーティングではなくコーチングにフォーカスした評価制度にすることが目的です。

評価面談時に、上司が部下に最も伝えたいことは「成長につながるフィードバック」です。要は行動の中身を話したいわけです。しかし、評価レーティングがあると、部下が聞きたいことは、「自身の評価」になってしまいます。いくら面談に時間を費やしても、部下は自身の評価が気になり、肝心の上司のアドバイスが十分に届かない可能性があります。さらに、同一の評価レーティング内では達成レベルに違いがあっても報酬に差がつかないという問題もありました。

そのため、進化型GPM では、レーティングを廃止し、上司と部下が頻繁にフィードバックとコーチングを行い、目標の進捗確認や見直しを随時行うようにしました。また、日々変化するビジネス環境に合わせて設定した目標も柔軟に変更できるようにしています。レーティングの廃止により、達成度を気にしてチャレンジングな目標設定ができなかった頃に比べて、最優先事項に沿った目標設定ができることも期待しています。

三者で展開する多面評価

現在、業務は、部門をまたいでプロジェクトベースで行うことも多いため、上司が部下の仕事を十分に把握していないことがあります。また把握していても、部下自身が十分に理解されていると感じられるかどうかは別です。

そこでノーレーティングの導入と同時に、第三者からのフィードバックを得るシステム「フィードバックファシリテーター」制度を導入しました(図3)。

フィードバックをしてほしい関連部署の社員5~6人を部下が選び、上司に申請します。上司は部下の申請を精査し、フィードバック提供者には上司から依頼します。フィードバックは上司に提供され、上司が評価の参考にすると共に、育成の一助として部下に伝える仕組みです。

アンケートやコメントで事実に基づいたフィードバックを提供することは容易ではありません。しかし「何とか成長してほしい」と相手への助言を考えることが、自身の仕事を振り返る機会になります。上司は複数のフィードバックで、部下の新たな情報を得られ、より成長にフォーカスした視点を持てます。部下も、上司単独でなく、第三者の意見が入ることで、素直にフィードバックを受ける気持ちになれます。

賞与の決定では、誰のパフォーマンスが高かったか、チーム・パフォーマンス・ディスカッション(TPD)で、ラインマネジャー同士で目線合わせを行います。この事前準備、ディスカッションを経て、報酬案の決定まで約3カ月をかけ、相対的な位置づけに基づいた報酬配分を行います。

仕組みをさらなる成長に活かす

上司への調査では、上司と部下の頻繁な対話や機敏な軌道修正に、ポジティブな反応が寄せられています。フィードバックや目標設定の難しさを指摘する声は挙がっていますが、結果的には関心の高まりを示し、マイナス面はさほど出ていません。

部下からも「自身の改善点が明確になった」など、前向きな反応があり、今後はこの仕組みを会社と個人の成長へさらに活かしていきたいと考えています。

進化型GPMの導入は、現状では管理職層のみで、一般社員への導入は組合と協議中です。パフォーマンス・マネジメントをきっちり回すことがビジネスのドライブに何よりも役立つと信じて、取り組みを進めています。

「HR×Tech」 人工知能で変わるこれからの人材開発

2月8日(水)

【講演者】リクルートホールディングス R&D本部Recruit Institute of Technology推進室グループマネジャー 加藤真吾氏

【コーディネーター】慶應義塾大学大学院 理工学研究科 特任教授 小杉俊哉氏

今後、人工知能は人事業務にどのように関わり、どんな未来をもたらすのか―。リクルートAI 研究所の共同創設者としてオペレーションに携わる加藤真吾氏が、研究者の立場から紹介した。

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