J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年05月号

CASE 1 トヨタファイナンス 複数年かけて社内の価値観変容に挑戦 本気にさせるのは 徹底した内省と対話

トヨタグループの金融パートナーとして、1988 年に創立されたトヨタファイナンスは、人員構成のボリュームゾーンに当たる40・50 代向け施策を2012年から2015 年にかけて展開。
一定の成果を上げ、現在は次のフェーズに入っている。
同社の取り組みによれば、彼らを本気にさせるスイッチは心の奥底にあり、押すには周囲の関わりが重要なようである。そのココロは。


矢田真士氏 人事部 部長
馬渕祐司氏 人事部 人材開発グループ グループマネージャー

トヨタファイナンス
1988 年設立。世界35 以上の国・地域で2300 万人を超える顧客に金融サービスを提供するTFS(トヨタファイナンシャルサービス)グループの中核企業。国内の個人・法人顧客向けに多角的な事業展開を行う。資本金:165 億円、連結売上高(営業収益):1528 億9600 万円(2016 年3月期)、連結従業員数:1773 名(2016 年3月現在)

[取材・文]=渡辺清乃 [写真]=編集部

●背景 始まりは「企業文化変革」

トヨタファイナンスの40・50 代向け施策の背景を語るには、2004年までさかのぼる必要がある。この頃同社では、クレジットカード事業に参入したのを機に積極的に中途採用を行い、3 ~4 年で社員数が約3倍と急拡大した。その後2009 年ごろから、次のステージをめざすべく、人材育成を強化し、企業文化変革に着手していった。

「自動車産業はもちろん、金融ビジネスの市場は急速に変化しています。その中で、存在価値を認められ続ける企業であるためには、社員一人ひとりの知恵や力を結集することが不可欠です。トップの強い意志の下、『人を大切にする』という人材マネジメント方針を打ち出し、育成に注力するようになりました」と語るのは人事部長・矢田真士氏。当時から今日まで、人事施策の取り組みに携わってきたという。

「フェアネスを貫く」「多様性を認め合う」「人を育てる」の3本柱からなる人材マネジメント方針は、同社の根底を流れる憲法だ。社員一人ひとりが個の強みや持ち味を発揮し活躍するという組織の姿をめざして、あらゆる社員に教育の機会を提供した。

先陣はマネジャー層。「マネジャーの役割はプレーヤーでも業績管理だけでもなく『人を育てること』である」とし、マネジメント基礎研修やOJT研修を実施すると共に、人事制度も刷新。その後、一般職女性をはじめ、地域総合職、若手、中堅メンバーへと育成の範囲を順に広げていった。そして、研修後に受講者が職場に戻れば、マネジャーによるOJTを通じてできるようになるまで指導をする―この地道な積み重ねが、良い変化として各所で花開いていった。 

40・50代向け施策も独立したものではなく、この一連の取り組みの一環だった。

●40・50 代の課題 「終わった人」という呪縛

40・50 代社員の活躍促進は、「非常に難しいテーマでした」と矢田氏は振り返る。同社の40・50 代の中心は、「基幹職S」と呼ばれるスタッフ管理職である。経験が豊富なため、彼らをマネジメントすることには、困難さが生じていた。

「基幹職Sよりマネジャーが若いこともしばしばで、もっとイキイキ働いてもらうにはどうしたらいいのか正直わからない……といった声が、マネジャーから続々と寄せられていました」

難しさはそれだけではなかった。

「この層の中には、金融ビジネスが大きな変化のフェーズに入っているのに、なかなかその変化に主体的に関わることができない人もいました。また、この年代は、会社に入ったらコーポレートラダーを登っていくことがモチベーションの源泉であることが多いのですが、彼らの人数に対し、ポストは極端に少ないのが現実です。この『ポストがない』という現実を消化しきれない人も多く、『ポストがないなら何に向かって頑張ればいいんだ』という気持ちを奥底に抱えた方も多いように見受けられました」(矢田氏)

同社のみならず、一般的に「ポストに就けなかった人は終わった人」と見る雰囲気や価値観があるだろう。これが社内に存在する限り、40 代以上の活性化は実現しない。

人事としては、それまでの、マネジャーや一般職女性、地域総合職、若手、中堅メンバーといった社員たちへの育成の経験から、「人はいくつになっても成長することができる。誰しもが貢献意欲を持っている。その想いを引き出すだけ」(人事部人材開発グループマネージャー・馬渕祐司氏)

「社員に期待を伝えたり、人材育成の仕組みを整えたりと、北風と太陽でいうなら『太陽作戦』を行えば、きっと40・50 代の皆さんの貢献意欲も引き出せる」(矢田氏)と確信していた。

その想いを胸に、取り組みは、矢田氏を中心に、途中、馬渕氏に引き継がれながら進められていった。

●ステップ1 土台づくり 上層部の意識から改革する

■取り組みの全体像

取り組みの全体像は図1の通り。いきなり本人たちに研修を行うのではなく、土台づくりとして2012 年に経営層の対話会を行い、その後、経営層と部長職との対話会を開催。部長職には、その内容を持ち帰ってグループマネジャーと価値観合わせをし、3者面談で基幹職Sにも伝えるよう依頼した。

翌2013 年には、いよいよ基幹職Sを対象とするワークショップを開始。対象者175 名を8グループに分け、1泊2日のワークショップを実施した。

その後も、本人と上司との対話を促し、半年後には上司と一緒にフォロー・ワークショップ、そのさらに半年後に再度同じメンバーでワークショップを行うという流れだ。

■経営メンバーによる対話会

スタートとなった経営層の対話会では、「基幹職Sに求めること」を話し合ってもらった。「マネジャーが上」「ポジションは能力の差の表れ」という捉え方ではなく、「一人ひとり期待されている役割が違うだけ」「基幹職S にも期待しているし、活躍してほしいと思っている」と上層部が心から思い、語らなければ、本人や上司たちの心に響かないためだ。

実際の経営層の反応は、とてもポジティブなものだったという。

「『基幹職Sの皆さんはこんな価値を出せるはず』『スペシャリティをもっと評価したい』など、活発に声が挙がりました」(矢田氏)

■部長職や本人たちの当初の反応

役員たちと比較して、基幹職Sと普段接している部長職は、「本当に変わるのか」と半信半疑な様子だったという。現場に近くなればなるほど、「そんなに素直に聞いてくれませんよ。だって普段から……」といった反応が挙がるのは当然ともいえる。

基幹職S 本人たちも、最初は後ろ向きな反応を見せた。

「1 泊2 日のワークショップ初日、『これから何が始まるんですか?』と聞かれました。明らかに警戒して、腕組みをしている人もいました。場の空気は時が経つごとに和らぎましたが、当初はまるで戦場のような、重く緊迫した雰囲気で始まりました」(馬渕氏) 

●ステップ2 2日間ワークショップ 「鎧」を脱ぎ、「壁」を見つける

しかし、どうにか重い雰囲気を変え、価値観のパラダイムシフトを起こさなければならない。

「40 ・50 代には、(心の)『鎧を脱いでもらう』ことが必要だと思っていました。普段は仕事のことや他の人のことを考えている方々に、いきなり『自分のことを考えてください』というのは難しいですし、時間がかかります。ですから2日間は必要でしたし、シナリオも綿密につくりました」(馬渕氏)

2日間のタイムスケジュールは図2のように、徐々に核心に迫るように構成された。順を追って見ていきたい。

1)イントロダクション:ドラマを視聴し、働く意味とキャリアを考える (図2①)

違うキャリアを歩む4人の登場人物を描いたドラマ映像を視聴し、キャリアや働く意味について、やや客観的な目線で考えるところからワークショップはスタート。映像はオリジナルで、社内で撮影したリアリティのあるものだ。登場人物の1人目は昇進を重ねて部長になっている人、もう1人は基幹職Sでイキイキと働いている人、3人目は課長職から外れて基幹職Sとなり戸惑っている人など、身近な人物設定がなされている。

「マネジャーなら幸せかというと、その立場ならではの悩みもある。結局、どうすればイキイキと働き続けられるのかを考えてもらえるような内容にしました。ドラマなので率直な感想が言えますが、一方でリアルなので、自然と自分に重ね合わせる。そのことで感情の揺らぎを起こすのが狙いでした」(馬渕氏)

実際に、「自分はここまでひどくないけど……この人に近いかな」などの共感の声が挙がったという。

感じたことや意見の交換をした後は、基幹職Sに対して会社が期待していることを伝えた。

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