J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年05月号

SPECIAL COLUMN 女性にも男性にも訪れる! 人事が知っておきたい 40代からの心と体の変化

更年期を迎えた社員を、人事はどうサポートすべきなのか。
女性が社会で活躍することが当たり前となり、企業も対策を講じるべき時代が到来しているといえる。
男性もまた、ひそかに更年期症状に悩むケースが少なくない。
更年期の健康とキャリア問題に詳しい医学博士・有馬牧子氏に話を聞いた。


有馬牧子(ありま まきこ)氏
東京医科歯科大学 学生支援・保健管理機構 学生・女性支援センター 男女協働参画支援室/保育支援室 助教

2000 年、米ボストン大学医学部公衆衛生学科卒業。ブリガム&ウィメンズ病院を経て、2006 年、東京医科歯科大学大学院卒業、医学博士号取得。国家認定キャリアコンサルタント。NPO 法人女性の健康とメノポーズ協会理事。2008 年、第7回更年期と加齢のヘルスケア学会学術奨励賞。2013 年、国際ソロプチミスト鹿児島・日本財団女性研究者賞受賞。2015 年度内閣府女性のチャレンジ賞受賞。専門は公衆衛生、キャリア開発、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、職務満足度、リーダーシップの向上等。女性が仕事と生活を両立できる環境づくりについて、医学的見地から研究を進めている。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=有馬氏提供

心と体のバランスが乱れる

10 代の頃、急激な体の成長に心がついていけず、もどかしい思いをしたことはないだろうか。これに近い状態を、40 代半ば頃から私たちは再び体験することになる。今度は、体の衰えを感じながらではあるが。

「頼りにしていたあの人が、この頃ミスばかりしている」「温厚だった彼女が、突然ヒステリックになった」―これらは、「更年期障害」に悩むビジネスパーソンによくある光景だ。

働く世代の健康に詳しい、東京医科歯科大学の有馬牧子助教は、誰にでも起こり得ることであり、特に女性は顕著に表れると指摘する。

「女性は、毎月定期的に訪れていた月経が、徐々に不規則になり、やがて全く来なくなります。これを閉経といいます。個人差はありますが、平均して50.5 歳、45 歳頃から50 代半ばまでに大半の人が閉経を迎えます。この年代が『更年期』です。その時期に見られる体や心の不調を更年期症状といい、日常生活に支障が出るほどの不調を『更年期障害』と呼びます」(有馬氏、以下同)

更年期症状は、実にさまざま。代表的なものとして、図1のような諸症状が挙げられる。いずれも単純な老化による場合もあるが、閉経が影響している可能性が高い。

「ここに『今までと心身の状態が違う』という焦りも加わって、本人は非常にストレスフルな状態に。精神的な負担が、さらに症状を悪化させる場合もあります」

更年期症状であることに気づけばよいが、最初は不調の理由が分からないことが多い。自律神経失調症を疑い、内科や心療内科などを転々とするが改善せず、心身共につらい状態が長期間続くこともある。

まだまだ働き盛りの年代であり、家庭環境が激変しやすい時期であるにも関わらず、資本となる体は“頑張れない”状況に陥る。「もうひと踏ん張り」が必要なこの年代にとって、更年期症状は実に厄介な問題なのだ。

ホルモン分泌の制御が効かない

更年期症状は、女性ホルモンバランスの乱れによって起こることはよく知られている。では、そもそもホルモンバランスとは何か。メカニズムを簡単に整理しておこう。

健康な20~30 代の女性の場合、次のようにホルモンを分泌し、月経サイクルを維持している。

①月経が終わる頃から排卵前にかけて、エストロゲンという女性ホルモンが分泌される。エストロゲンが子宮を刺激し、子宮にふかふかのベッドのような内膜ができる。精子が着床し、妊娠しやすい環境が整う。

②排卵後はエストロゲンの分泌量が減り、今度はプロゲステロンという女性ホルモンの分泌が盛んになる。プロゲステロンは受精卵が子宮に着床し続ける状態をつくるのを助ける。

③排卵期に受精が行われず、受精卵が着床しなかった(妊娠しなかった)場合、エストロゲン、プロゲステロンの分泌は共に減少し、子宮が収縮。内膜が剥がれ、次の月経が訪れる。

エストロゲンやプロゲステロンは生殖に限らず、他の器官にも影響を与えている。特にエストロゲンは、肌や粘膜に潤いを与え、血管を丈夫にするほか、自律神経を安定させる、脳の活動を活発にさせるなど、精神状態にも大きく影響している。

「そして、エストロゲンやプロゲステロンの分泌を司るのが、卵胞刺激ホルモン黄体化ホルモンと呼ばれるホルモンです。脳下垂体から分泌され、卵巣を刺激しエストロゲンやプロゲステロンを分泌します」

これらのホルモンの分泌をコントロールするのは、間脳の視床下部だ。血液中のホルモン濃度を情報源に、脳下垂体へ指令を出す。指示系統から言えば、視床下部が社長なら、脳下垂体は部長、卵巣は課長、といったところだろうか。

ところが加齢に伴い卵巣の機能が低下すれば、いくら卵巣を刺激しても、エストロゲンは分泌されなくなる(図2)。すると、視床下部や脳下垂体の指示系統は大きく乱れる。

「血液中のエストロゲンの濃度が低下している、つまり課(卵巣)のマンパワーが枯渇している状態なので成果が上がらず、トップ(視床下部)が『卵胞刺激ホルモンを分泌しろ』と、部長(脳下垂体)に指令を出し続けるという異常事態に。視床下部は、自律神経を司る繊細な器官。視床下部の調子が狂うと、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず、動悸やほてりといった諸症状につながってくるのです」。トップの方針がぶれ、現場は大騒ぎ、というわけだ。「熟女」への通過儀礼のように、更年期症状が起こるのはこのようなメカニズムが働くためである。

抑うつの原因は男性更年期?

ここ最近、更年期症状について注目する企業は増加傾向にある。その背景には何があるのだろうか。

「ひとつは女性の社会進出です。寿退職が一般的だった頃と違い、今は結婚や出産を経てもなお、多くの女性が働き続けています。特に現在、更年期にあたる世代は、男女雇用機会均等法の施行と就職の時期が重なった、女性総合職の第一世代に相当します。第一線で働く更年期世代の女性社員を、初めて抱えるという企業は少なくないのです」

さらにこの世代は男性中心の企業文化の中で我慢や無理を重ねてきた。管理職などハイキャリアの女性ほど“更年期”を理由に仕事をこなせなくなることには抵抗を感じる。

「体調がすぐれないことを周囲に伝えることを嫌がる人もいますし、甘えと捉える人もいるでしょう。忙しくて病院にも行けず、ひとりで更年期による不調を抱え込んでしまうという悪循環になりがちです」

こういう話題になると、「だから女性は扱いづらい」という論調になりがちだ。だが、男性も更年期症状ともいえる不調が起こりうることを忘れてはならない。

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