J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2017年05月号

OPINION2 まだまだ伸びしろ、優位あり 40代の能力・人格変化と 人生の危機の乗り越え方

精神科医・心理学者のユングは、30 代後半から40 歳ころを「人生の正午」、40 代~高齢期までの中高年期を「人生の午後」と位置づけている。
人生の正午から午後にかかる40 代とは、具体的に、能力や機能、感情といった面でどんな変化がある時期なのだろうか。
発達心理学と老年心理学を専門とする髙山緑氏に聞いた。


髙山 緑(たかやま みどり)氏
慶應義塾大学 理工学部外国語・総合教育教室 教授

慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。臨床心理士。現・東京都市大環境情報学部助教授などを経て現職。発達心理学やジェントロジー(加齢学)を専門とする。主な著書に『老いのこころ-加齢と成熟の発達心理学』(共著・有斐閣)など。

[取材・文]=佐藤鼓子 [写真]=編集部

40代以降も伸びる能力はある

時折、企業の人事担当者で、40 代以降は能力的に後がない、または低下する一方と考えておられる方とお会いする。しかし、実際にはそんなことはない。まずは人の発達の観点から、40 代(中年期)について見ていきたい。

30 年ほど前より「生涯発達」の研究が進むにつれて、人の発達は一方向的ではなく、多次元的で多方向的であることが分かってきた。つまり、能力や機能によって、生まれてすぐに向上していくものもあれば、青年期や中年期、あるいは高齢期になってから発達するものもある。また青年期以降、年齢と共に緩やかに低下するものもあれば、長期にわたり維持されるものもある。

確かに、基本的な認知機能―物事を知覚する能力や、短時間に心の中で情報を保持しながら同時に処理もするワーキングメモリー、また推論能力などは、残念ながら40 代程度の中年期以降、緩やかに低下する傾向があることが分かっている。

一方、そうした基本的な認知機能を総合的に使い、課題を解決するような能力―心理学でいうところの「知能」は、より長期にわたって発達・上昇し、高齢期にもあまり低下しないことが研究によって明らかになっているのである。

知能と知恵は経験で豊かに

■知能には2種類

この「知能」は、大きく2つ、「流動性知能」と「結晶性知能」に分けられる。

流動性知能は、新しいことを学習したり、新しい環境に適応したりする際に必要となる問題解決能力である。他方の結晶性知能は、そうした学習や経験で得た知識や考えを応用する能力を指し、総合的な能力といえる。

流動性知能は20~30 代で低下するイメージがあるかもしれないが、実際には青年期から30 代まで上昇し、その後も高い水準で維持され、60 歳を過ぎたあたりから緩やかに低下することが分かっている。そして、結晶性知能はさらに長く維持される。研究によってやや相違があるが、青年期以降も緩やかに上昇し、ある研究では70代まで上昇を示すデータもある。 

ちなみに、基本的な認知機能や知能は、筋力と同様、使うほど鍛えられ、使わなくなると低下する。特に基本的な認知機能には、訓練や有酸素運動などが好影響を及ぼすことが分かっている。

■知恵

もう1つ、歳を重ねることで豊かになるものに「知恵」がある。正解のある課題を早く正確に解決する能力を「知能」とすると、「知恵」は、より複雑な人生の問題―例えば、どんな仕事を選ぶか、どこに就職・転職するか、誰と結婚するかといった事柄について、価値観の多様性や不確実性を認識しながら的確に判断したり、人に助言をしたりする能力だ。青年期から中年期、高齢期を通じて豊かになっていく。

経験への自覚が知恵を左右

しかし知恵は、単に歳を取り、経験を重ねれば身につくものでもない。知恵の高まりにはもちろん一定の経験が必要だが、より重要なことは、経験の質や、経験をどう捉えるか、またどんなモチベーションで関わるか、ということである。何か問題やストレスが生じた時に、回避を繰り返す人は知恵があまり高くならず、逆に前向きに具体的な解決を試みて、挑戦を積み重ねる人のほうが、高齢期に知恵が高くなる傾向があるのである。

■熟達化

特定の領域で専門的な訓練や実践を通じて知識や技能を獲得し、成果を上げることを「熟達化」と言うが、中年期は、そのプロセスの中にあり、これも強みになりうる。熟達者の域に達するには1万時間(10 年)が必要といわれ、まだ最中の人もいるだろうが、それくらいの時間をかけて質の高い経験から身につけたことは、高齢期になってもあまり低下しない。

他にも中年期は、社会的な熟達化が起こり、人や物事の本質を見抜く力が高まるといわれる。パーソナリティ(人格)の一部である調和性や共感能力は、中年期から高齢期にかけて上がっていく。誠実性、感情の安定性、人に対する許容性や寛容性といったものも、20 代から40 代にかけて高まっていくことがデータで実証されているのである。

加えて、高齢期は一般的に、新しいことや新しい価値観を受け入れにくくなっていく傾向にあるが、中年期はまだ「開放性」が高く、新しいものを受け入れやすい年代である。

中年期は人格成熟の転換期

人格の話に触れたが、人の中年期は、まさに人格的に成長・成熟する世代だとの指摘をする心理学者が少なくない。特にユングやエリクソン、レビンソンなどの研究者が、人格の発達段階における転換期だと指摘している。本稿ではユングとエリクソンの説について触れておく。

■ユングの「人生の正午と午後」

分析心理学を創始したユングは、冒頭にもある通り、30 代後半から40 代を「人生の正午」、40 代~高齢期を「人生の午後」と評した(図1)。その少し前の青年期は(ユングはこの言葉は使っていないが、エリクソンの言葉を借りれば)アイデンティティを確立し、自分自身を社会の中で位置づける時期だ。中年期を迎えると、青年期で確立した位置づけや大切にしてきたものが、自分にとって本当に意味のあるものなのかを再び振り返る時期を迎える。自分が何を大切にし、どう生きていきたいのか、振り返って模索する、非常に重要なターニングポイントだと指摘しているのである。

その過程では、自己のクライシス(危機)も生じる。迷いや不安が生まれ、転職や離婚といった岐路に立つ人もいる。そのような状況下で、自分の内面によく目を向け、外的な世界と内的な世界を融合させて危機を乗り越えることで、その後、より実りの多い人生を送ることができるようになるという。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,234文字

/

全文:4,468文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!