J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり!  第40回 世界で活躍する すし職人を育てる学校

東京すしアカデミーは、日本初のすし職人養成学校。
ここでは「めし炊き3年、にぎり8年」といわれるすし職人の技を最短2カ月で学ぶことができるといいます。
なぜ職人を短期促成できるのか、その秘密に迫ります。


中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/
Twitter ID:nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/東京すしアカデミー 宇佐見 利明

「実は今、世界中で空前のすしブームが起きています。世界のあらゆる国々で、すし職人が求められているんです」

そう熱弁するのは東京すしアカデミー社長の福江誠さんです。福江さんによると、2000 年ごろから北米、ヨーロッパを中心にすしブームが広がっていましたが、最近ではアジア地域、特に中国での出店が相次いでいるとのこと。2013年に世界で約5万5000店だった日本食レストランは2015年には約9万店と急増しており、この日本食人気を牽引しているのが、すしだというのです。

なぜ世界中の人がすしに魅了されているのでしょうか。すしの味はもちろんですが、すし職人のもてなし、技に惹かれる人が実は多いと福江さんは言います。「目の前で職人がネタを捌き、すしを握り、カウンター越しに直接提供する。そのスマートで洗練された動作が、海外の人の目には魅力的なパフォーマンスとして映っているのです。特に本場である日本の職人が握るすしは付加価値が高いため、高級店を中心に、技術レベルの高い日本人すし職人のニーズが非常に高まっています。日本人すし職人は、今、どの国に行っても就職できますよ」(福江さん)

すし職人が減る理由

このように、今や世界中から求められているすし職人ですが、日本のすし職人の数は減少傾向にあります。その理由は、「長期にわたる修業が敬遠され、職人志望の若者が減ってしまったから」。

これまで、すし職人になるには、中学、高校卒業後、見習いとしてすし店に入り、10 年以上の厳しい修業を積んでようやく一人前に―というのが一般的でした。最初は、出前や皿洗い、掃除などの下働きで、少しずつ魚の下処理などをやらせてもらえるようになり、その後、玉子や煮物、巻きものの担当に。数年経ってようやく握りをやらせてもらえる、といった具合です。

休憩をはさむものの、早朝の仕入れから深夜の閉店まで労働時間も長く、決して楽な仕事ではありません。

「昭和から平成の初期は、『とにかく東京に出たい。すし職人にでもなるか』という若者がたくさん集まったので、厳しい修業の中で10人に1人、いや100人に1人が生き残って職人になってくれればよかったのです。ところが、今は募集をかけても応募者が1人もいない、という状況です」

すし店の後継者不足は深刻で、回転寿司などのチェーン店と一部の高級店は拡大していますが、職人の修業の場となっていた昔ながらの個人経営のすし店は年々減少しています。

すし店に経営指導を行うコンサルタントをしていた福江さんは、この事態を憂慮し、すし職人の修業の場をつくりたいと、2002 年に「東京すしアカデミー」を設立しました。

職人修業は凝縮できる

すし職人を育成する学校を設立するにあたって、福江さんは1000店以上のすし店をリサーチしたといいます。そこですし職人として必要な技術を絞り込み、カリキュラムをつくった結果、職人の技をわずか2カ月で習得するという短期コースが生まれました。「学校としては、短期間で成果が出やすいものに絞る必要があったので、実技をしっかり学ぶコースとなっています」

授業のうち95%が実習となっており、包丁の使い方から魚の捌き方、玉子焼きのつくり方、握りまで、すし職人としての一通りの技術を習得します。「実は握りの技術は一番簡単です。スポーツのトレーニングと同じで3分間に15貫などと数値目標を設けて反復練習を行えば、誰でもある程度できるようになります。当校では、正確さとスピードを重視し、まずは徹底的に型を覚えてもらいます」

とはいえ、10 年かかるというすし職人の技術をわずか2カ月で習得できるものなのでしょうか。実習講師となって1年という杉田博宣さんも、「はじめは絶対無理だと思っていましたが、ちゃんとできるようになるので、びっくりしました」と打ち明けます。生徒たちが短期間で技術を習得できる理由については、「熱心に取り組むせいでしょう。皆さん明確な目標を持っていますから真剣に授業を受けていますし、残って練習をしたり、家に帰ってからも復習するなどしています」と話します。

杉田さんは、職人歴21年、これまで5店に勤めた経歴を持つベテランすし職人。19歳で、すし店での修業を始めた杉田さんが先輩から受けた指導は「この魚はこう捌け」とただやり方を見せられて、その通りにやるだけ。「なぜ?」と尋ねることは許されなかったそうです。それは、「先輩も理由を知らずにそう教わってきたから」。

もっとも、先輩たちが受け継いできたやり方には、全て合理的な理由がありました。「『下身(二枚にした時、骨がついているほう)の腹からおろしなさい』と言われるのは、実はこの方法が、魚を動かす回数が一番少なくて済む方法だから。経験を重ねた今はそれが分かります」(杉田さん)

今、杉田さんは講師として生徒目線で、一つひとつをきちんと説明しながら教えることを心掛けています。

「上身、下身といった、我々にとって一般的な用語も生徒さんたちは知らないので、初歩的なところから丁寧に説明するようにしています」

教室で教えられない大切なこと

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