J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

CASE 1 ギャップジャパン 毎月の面談で仕事のやりがいや中長期の目標を確認 自己との対話を評価基準に 主体性を育むGPS制度

ギャップジャパンは2013年、相対評価制度を廃止し、上司が部下の中長期の目標をきめ細かく確認するGPS制度を導入した。
目的は、変化の激しい環境に振り回されず活躍できる人材の育成、そして組織のパフォーマンス向上だ。
他人との比較ではなく、自己との対話を重視する、新たな時代の評価基準とは。


佐藤陽子氏 人事部 シニアマネージャー

ギャップジャパン
米国最大のアパレルメーカーの日本法人。
1994 年12月設立。デニムが中心のカジュアルなGapのほか、Banana Republicなどのブランドを展開する。
従業員数:約8200名(2016年10月末現在)

[取材・文]=佐藤鼓子[ 写真]=編集部

●背景 順位づけの廃止と主体性の重視

ギャップジャパンは2013 年、ラベル付と分布割合を設定し、報酬配分に主軸を置いたレーティング(順位づけ)評価をやめ、個々の目標達成と成長に主軸を置いたレーティングのないパフォーマンス評価制度「GPS」を導入した。Grow(成長)、Perform(行動)、Succeed(成功)の頭文字から成る同制度は、米国本社で考案されたものだ。

具体的には、パフォーマンス評価基準という、会社が従業員に期待する行動指標に準じてどの程度行動できたかで評価する。行動指標には、「今、会社で求められている達成事項に対してどう取り組んだか」「積極的に取り組み、失敗しても速やかに学び成長しているか」「部下を持つ社員はどれだけ、部下により高いパフォーマンスを出したいと思わせるようなフィードバックやコーチングができているか」などが含まれている。部下の目標達成を後押しするため、上司と部下の面談も充実させた。現在、ギャップジャパンでは、本社部門の社員と店舗管理を地域別で行うマネージャークラスまでを対象に、GPS制度を導入している。

人事部シニアマネージャーの佐藤陽子氏は、導入した理由として、従来のレーティングによる評価が社員に与えるネガティブな影響を挙げる(図1)。

「米国西海岸でレーティングを廃止する流れが活発化していたこともあり、米国本社で導入したGPSを3年前から日本でも取り入れました。導入の一番の理由は、『レーティングされた社員は、評価の良し悪しに関わらず、評価をポジティブに受け止められていない』ということが研究から分かったからです。レーティングには膨大な時間と労力がかかりますが、それが従業員のモチベーション向上につながらないのであれば、意味がありません。また、人との比較や金銭的な報酬を前提とすると、『ここまでやれば十分』と自ら限度を決めてしまい、成長が制限されているのではないかと考えました」

さらに、GPSを導入した背景には、現代特有の不透明なビジネス環境もあるという。状況が刻一刻と変わる中、年初に立てた目標が1年間、変わらず達成すべきものであり続けるケースは少ない。

「組織も人も、変化への機敏な対応が求められる時代になりました。つまり、どう動けば会社の目標に貢献することができるのか、社員が自らの立ち位置を常に確認しながら、主体的に考えることが重要で、それが実現できる制度をつくろうという結論に至ったのです。組織のパフォーマンス向上のためにも、主体的に考え実践できる人材の育成は欠かせないと考えました」(佐藤氏、以下同)。

GPSはまさに個々の社員の「主体性」を重視した制度である(図2)。この特徴について見ていこう。

●特徴 主体性を促す制度

①自ら目標を立てる

大きな特徴のひとつが、「自分自身で目標を立てる」ということだ。会社が成し遂げようとしている目標に対して、自分はどのように貢献できるのか。会社や消費者が望んでいることを考えたうえで、自分がやらなければならないことを目標に据えるのだ。

「GPSとは自分を見つめる制度です。例えば、どんなに頑張っても会社の業績が上がらないことはあるでしょう。しかし、その中でもやりがいを持って働くことができるかどうかが大切です。各々が自分自身で仕事にやりがいを見いだしてもらうため、目標設定をためらったり、上限を設けたりする必要はないと伝えています」

現場では当初、個々の社員に主体的に目標を設定させる新制度に驚きの声が上がったという。それまでは会社のトップが決めた目標から、部門長により部門レベルの目標が設定され、部門長が定めた範囲に沿って個人の目標を考えていた。それが、社員自らボトムアップで考えなければならなくなったのだから当然だろう。

そこで重要なのが、上司の存在だ。

「目標は自分で考えることが基本ですが、方向性は上司が一緒に確認しながら目標を設定していきます。まずは自分がやらなければならないことを見つめて、そのうえで上司と話し合っていく流れですね」

②上司と部下が毎月面談

さらにGPSの大きな特徴は、上司と部下の面談の頻度である。上記のように上司は目標設定の相談にも乗るが、設定後も毎月1回、「タッチベース」と呼ばれる面談で、パフォーマンスに対するフィードバックを行う。GPS導入前は半年に一度だったが、1カ月に一度と6倍に増やした。

「何にトライするか、キャリアにはどんな思いを持っているか、部下と会って話します。部下が期待されたことに対して、できたのか、できていないのか。他の人との比較ではなく、自分の成長や目標に対してどうだったのか、ということを見ています」

とはいえ、上司の中には部下と何をどう話してよいか分からないという人もいた。そこで実施したのが、上司に対するコーチングである。脳科学のSCARFモデル※に合わせて、面談を受ける部下にとってどんなコミュニケーションがモチベーションの向上につながるのか、もしくは恐れにつながるのかについて、研修を行った。

その中で、上司に対して部下が自ら考える際に答えやすい3つの質問を提示した。「うまくできたことは何ですか」「うまくいかなかったことは何ですか」「より良いやり方ができるとすればどんな方法ですか」。この3点を掘り下げれば、自らのキャリアや目標について、部下が自主的に考えるようになることを伝えた。

「タッチベースを毎月実施する意味は、リアルタイムにフィードバックをして、速やかに軌道修正し、学びを加速させることです。また、部下と毎月話をすることで、いろいろな情報を得て、部下の変化に気づくという目的もあります。上司には、悩みを聞くなどきちんと部下に向かい合って話をしてほしい、と伝えています」

※SCARFモデル 脳が認識する潜在的な脅威や機会の5要素、Status(自らの地位の重要度)、Certainty(未来が予測可能か)、Autonomy(自主性を発揮しているか)、Relatedness(安心できる人間関係)、Fairness(公平な扱い)。

③予算配分の責任は上司

年度末に各部署の予算に応じて部門長が昇給と賞与の配分を決める。レーティングがあった時期と異なるのは、マネジャーが「みんな良い働きだった」と評価すれば全員の評価が高くなり、「みんなそこそこで大したことはなかった」となれば、配分額は一律ではあるものの低くなることだ。

それまで予算の配分は部門長の一任だった。その責任の一部を、現場をよく知るマネジャーに移し、現場のマネジャーを交えた話し合いで部内社員の評価での位置づけを決めている。一人ひとりの部下について「誰がどんなパフォーマンスで、どんな位置づけにしたのか」、同部署のマネジャーの前で発表する機会をつくり、評価の客観性を保っている。

●発展 経験の共有と制度の具現化へ

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