J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

TOPIC eラーニングアワード2016フォーラムレポート より進化したICTの活用で、 劇変する企業や学校の“学び”の姿

今年で6回目を迎えた「eラーニングアワードフォーラム」は、eラーニングを取り巻く現状と未来について豊富な事例と共に紹介・発表・議論する総合フォーラムだ。
ビッグデータやAI、IoTといったキーワードと共に、“学び”に革命的進化が起こりつつある中、企業や学校の現場ではどんな変化が起こっているのか。最新動向の一部をレポートする。


開催時期:2016 年10 月26 日~ 28 日
会 場:ソラシティ カンファレンスセンター(東京・御茶ノ水)
主 催:e-Learning Awards フォーラム実行委員会/フジサンケイビジネスアイ

取材・文・写真/菊池壯太、瀧川美里、佐藤鼓子

【企画講演】Learning Analytics:研究の最前線と教育現場へのインパクト

田村恭久氏 上智大学 理工学部 情報理工学科 教授

LA(ラーニングアナリティクス)とは何か。また、その活用により教育現場はどう変わるのか。研究動向を交えて講演を行った。

LAで何が分かるのか

教育情報化が進み、学習者一人ひとりが専用のノートパソコンやタブレット端末を手にして勉強できる環境が整いつつある。こうした端末を単に教科書を閲覧するためだけのツールとしてではなく、学習者が勉強の最中にどのような動作をしているのかをモニターしたり、学習履歴を記録したりするための機器として活用すること、そして、そのログを使って、さまざまな解析を行うというのが、LAである。

LAによって具体的に何ができるのか。まず学習者について考えてみよう。例えばある生徒には、学校で宿題を出されても自宅では一切教科書を開かないという傾向が見られたとする。すると、「まずは教科書を開こう」というフィードバックを与える材料になる。あるいは、教科書を開いても宿題とは違うテーマの勉強を進めてしまっている生徒がいたとすると、適切な勉強方法を提示するなど軌道修正が可能になる。

教える側の教師のクセもつかめるだろう。例えば、生徒の反応を顧みずに一方的に話す傾向がある教師がいたとすると、そのことをデータとして客観的に示すことができれば、行動改善のきっかけとなる。

こういった学習評価は、従来からビデオ撮影したものでチェックするなど、アナログ的手法でも実施されてきた。だが、学習者一人ひとりがデジタル端末や腕輪型のウエアラブルのセンサーを使うようになると、学習者の動作が膨大なライフログとして収集できるようになる。その解析により、今までよりも多様な切り口から統計情報の提示が可能になる。

データ粒度はさらに細かく

これまでもLMSを使えば、学習者がいつ、どの問題にどのようにアプローチをしたかという情報を電子的に取得することは可能だった。ただし、これはサーバー側で取得する情報なので、粒度の粗い情報である。一方、手元にある端末からは細粒度の情報の取得が可能になる。

例えば、教科書の閲覧状況やノートの取り方はもちろん、端末にカメラやマイクがついていれば、画像情報や音声情報も解析の対象になるかもしれない。GPSがついていれば、位置情報も把握できる。

こうして取得したログをサーバーに転送する際のプロトコルの規格化も進んでいる。xAPIやCaliper※等であれば、システムの垣根を越えたデータ統合が可能になる。こうして得られた膨大なデータの統計処理については、ビッグデータ解析や人工知能の活用が期待される。

※xAPI:米国国防総省内の標準化団体が制定した規格

Caliper:米国を中心とするeラーニングの団体であるIMS GLC(Global Learning Consortium)が提唱する規格

実験で得られたLAの可能性

学習者のログから、具体的にどのようなことが分かるのか。当研究室では、私が授業で使用するパワーポイントのスライドを約60名いる学生の手元にある端末でも見られるようにし、例えば授業中のどの時間に何枚目のスライドを見ているのかといった学生側の端末の操作情報の記録と解析を試みた。この実験から、いくつかの興味深い結果が得られたので、2つほど紹介したい。

まず1つめに、授業が始まる前に私のスライドをざっと一覧している学生がいることが分かった。これは、授業内容を大雑把に頭の中に入れておいてから授業を受けるという学習スタイルを持った学生だと推測される。学習スタイルとは本来、個々人でいろいろなパターンがあってしかるべきだ。教師が言うことを逐一きちんと聞いて理解するというスタイルももちろんあるが、そうではなく、あらかじめ頭に入れておいてそれをなぞる形のほうが、より頭に入るというタイプの学生もいる。LAは、こうした個々人の学習スタイルを識別するためにも活用できそうだ。

もう1つは、「教師の説明と教科書の記述は、常に同調しているべき」という旧来の仮説への問題提起だ。授業中に教師の説明と違うページを見ていて注意された経験がある人もいるかもしれないが、こうした考え方は、「自分の説明と違うところを見ている生徒は、よそ見しているから出来が悪いはずだ」という旧来の仮説に基づいているだろう。

しかし実験では、これは無相関ということが分かった。私の説明と閲覧しているスライドが同調している学生が、必ずしもよい成績だとは限らないのだ。きちんと見ているのに成績が悪い学生もいるし、全然見ていないのに成績がよい学生もいる。そうすると、教師の説明と教科書の記述は必ずしも同調していなくてもいいということになる。

このように、今まで「何となく」言われてきた旧来の仮説も、LAを活用すれば、客観的に判断できる。

各分野がコラボレーションを

一方、開発や実務の面からすると、xAPIに対応したツールやサーバーは数多く出てきており、ビッグデータ解析ツールや、最近ではAIについてもツールがパッケージとして、どんどん利用可能になっている。

ただ問題は、取得したデータを学習評価にどう活かすかという点で整理できていないということだ。

今後は、教育専門家のニーズに合わせてデータサイエンティストがデータ分析手法を提案するといった、異分野のコラボレーションが今以上に求められるようになるだろう。つまり、学習面と統計面、そしてICTやシステム開発といった各分野の連携がカギとなる。また人工知能やビッグデータ解析といった新しい技術を使って、どのような成果を生み出していくかというビジネス上の視点も必要になる。

こうした多面的な議論がなされ理解が進んでいけば、これからLAは実務的にも大きく発展していくだろう。それを期待したい。

【企画講演】企業内教育(e-Learning&集合研修)が営業成績へ関与している証明へのトライアル

大塚製薬 医薬営業本部学術部 教育企画室

久米 匡氏 入道史子氏

大塚製薬では、企業内教育にID(インストラクショナルデザイン)を導入している。eラーニングの利用状況を分析し、教育が売り上げに関与しているかを検証した。

企業内教育の位置づけを変える

久米氏

今の日本企業の教育には2つの大きな問題がある。1つはKKD(経験・勘・度胸)による教育だ。どの企業でもKKDで教育が行われており、大塚製薬も同様だった。

KKDによる教育では、過去に現場で活躍したカリスマが教育部門にいて、自分たちの経験から「こうするべきだ」と指導する。その教育が成功したかどうかは検証されず、インストラクターが変われば教育もコロッと変わってしまう。最近になって、LA(ラーニングアナリティクス)を取り入れて学習データの分析を試みた時、KKDによる学習データは果たして正しいのかという疑問が湧いた。

もう1つの問題は、企業における教育の位置づけの低さだ。多くの日本企業では、教育は「投資」ではなく「コスト」だと考えられており、業績が落ちれば最初に予算を削られてしまう分野である。その位置づけを変えなければ、十分な教育は実現できない。

そのためにここ1年ほど取り組んでいるのが、KKDからID(インストラクショナルデザイン)へと移行し、IDからLAへ移行するための取り組みだ。まずはKKDによる自己満足の教育をやめて、IDにより学習目標を設定する。そして真正なデータを集め、LAで解析することで、より有益なデータを導き出せるのではないかと考えた。教育による結果をIDで実証して、LAによって「教育は業績につながる」ことを示すサイクルが提示できれば、教育に対する企業の投資も変わるだろう。

結果的に、KKDからIDへの移行は成功した。次のフェーズはIDからLAへの展開だ。IDによって表れた業績は単発的なものである可能性もあるため、LAによって「教育は売り上げに関与している」ということを証明していきたい。次にそのための弊社の取り組み事例を紹介する。

教育は業績に直接関与するか

入道氏

弊社のMRを対象に、過去の試験成績やeラーニングの利用履歴、そして営業成績との関係性について、調査内容を報告する。

今回の調査では、2つの仮説を立て、教育が売り上げに直接的に関与していることを証明するための解析を行った。

〈仮説1〉営業成績の優秀なMRは入社当時から学習成績が高い

MRの営業成績の対前年上昇率と達成率を順位づけし、上位2割を「営業成績上位のMR」と定義して解析を行った。

解析のパターンは以下の2つ。【パターン1】各年度の対象MRから「入社時の試験成績上位2割」を絞り、「営業成績の上昇率及び(and)達成率の順位」の上位2割に該当する人を抽出。【パターン2】同様に対象MRを絞り、「営業成績の上昇率または(or)達成率の順位」上位2割に該当する人を抽出。

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