J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

人材育成を“可視化”する! 第1回:今、なぜ人材育成のグランドデザインなのか

現場力を高め、変革をリードする人材の育成に欠かせないものは何か。
それは可視化できるような人材育成の「仕組み」をつくることである。属人的にならない仕組みを構築し、共有・運用していくことは、人材育成における基本ともいえるが、果たしてどれほどの企業でこれが確立されているだろうか。本連載は、経営と現場の視点で、人材育成の仕組みづくりについて解説する。


遠藤裕隆(えんどう ひろたか)氏
富士ゼロックス クラウド&メディア事業開発部 事業開発センター シニアコンサルタント
富士ゼロックスクラウド&メディア事業開発部事業開発センターシニアコンサルタント。電気・電子系CADシステムの開発を経て、2000 年度からソフトウエア技術者の人材育成を担当。「人材育成の仕組み」の構築に取り組みながら、学習管理システムやスキルアセスメントを独自に開発した。
2005 年に日本eLearning大賞(経済産業大臣賞)を受賞。

●人材育成の課題

価値観の多様化、グローバル化、景気の低迷といった外部環境の変化の中で、企業が継続的成長を実現するためのカギとなるのは、現場力を高め、変革をリードする人材の育成である。だが、多くの日本企業では、効果的な人材育成の仕組みが存在せずに、暗黙知の世界で「属人的」に人材育成が進められているという話をよく聞く。

これは、日本企業における人材育成の最大の課題である。結果として、人材育成を担うマネジャーが、組織戦略を実現するためにどのような人材が必要か、どのように部下を育成すればよいかが分からない。個人の能力のばらつきにより、育成がうまくいく場合といかない場合も発生する。これは、経営トップが人材育成の重要性は理解していても、「人材育成の仕組み」の重要性を十分に認識していないからである。

私はこの人材育成の体系・計画を「人材育成のグランドデザイン」と呼び、その重要性を訴え続けている。本来ならば、人材開発部門がこの役目を担い、経営トップと現場を動かすべきなのだが、①どのような人材が必要か分からず(人材課題)、②どのように人材を育成していいかも分からない(仕組みの課題)ため、③経営トップに人材育成の有効性に対する説明責任を果たすことができないのである(図1)。

人材育成の仕組みができていないと、事業戦略を実現する人材ポートフォリオ企画(要員計画)を「どんぶり勘定」で策定することになる。それでは、事業継続に必要な人材を中長期的にタイムリーに確保することが困難になり、「人材リスク」を背負うことになる。これは、経営に対してQCD(品質、コスト、納期)の悪いインパクトを与え、最悪の場合には、必要な要員を確保できず、プロジェクトそのものが頓挫するという大問題に発展しかねない。

●立場別に見る課題と狙い

企業活動を担うのは、経営トップ、マネジャーなど管理者、営業や開発などの一般社員、人材開発部門などの人材育成のステークホルダーであり、彼らが人材育成の仕組みの対象である。したがって、人材育成の仕組みを構築する際に重要なことは、彼らステークホルダーの課題(ニーズ)をしっかりと把握することである。これができていないと、いくらリソースを投入しても、役に立たない仕組みが出来上がってしまう。そこで、ステークホルダーの視点で経営や現場の課題を整理したものが図2 である。

人材育成のグランドデザインの大局的な狙いは、このような課題の解決と、人材育成の仕組みを可視化し、運用していくことで、事業戦略を実現する人材を育成することである。

以下、それぞれのステークホルダー別に、人材育成の課題とグランドデザインの狙いをもう少し詳しく見ていこう。図2と左ページタイトル下の図を見ながら、読み進めてほしい。

(1)経営トップ

課題:経営トップは、事業戦略を実現するために「どこにどのようなことができる人材が何名いるか分からない」という問題意識を持っている(人材の可視化)。また、人材育成によって「何がどうよくなるのか見えない」という問題認識も持っている(成果の可視化)。必要なのは、事業戦略を人材戦略に「翻訳」する仕組みや「成果を可視化」する仕組みである。

グランドデザインの狙い:人材リスク回避/事業戦略の精度向上

「人材の可視化」を図ることにより、人材不足に起因する、経営に対するQCDのインパクトを回避/低減する。また、事業戦略の変化に迅速に対応したバランスのよい人材調達(内部人材活用、または外部人材活用)により、事業戦略の精度を向上し、人件費の最適化を図ることができる。

(2)管理者(マネジャー)の視点

課題:マネジャーは、バブル期以降に入社した世代が中核となってきているが、その後の採用が抑えられたために、部下育成の経験が少ない人が多い。業務遂行上発生する問題解決のコツを先輩から教えられた経験も少ないため、何が問題なのか分からずに(問題の可視化)、うまく解決する方法も分からない。また、部下をどう育成したらいいか分からない、匠の技をどう後輩に伝承したらいいか分からない(伝承の可視化)状況である。さらに、しっかり指導された経験が少ないため「自分は1人で成長してきた、自分の成長は自己責任である」というマインドセットを持っていて、人材育成には興味が薄いマネジャーも存在する。したがって、現場のマネジャーの役に立つような人材育成の仕組みを提供することが成功のカギとなる。

グランドデザインの狙い:成果起点の人材育成を実現

管理者(マネジャー)は、組織目標を実現できる「成果起点」の人材育成を進めることができるようになる。「問題の可視化」により、社員の問題発見能力と問題解決力を強化し、現場の問題を解決する。さらに「伝承の可視化」により、「匠の技」を分析/ 記録して、それを効果的に伝承することができる。

(3)一般社員の視点

課題:社員は、「会社が自分に何を求めているか、自分がどう成長できるか分からない」という課題認識を持っている(成長の可視化)。グローバル化が進むと、採用された外国人は自分がキャリアアップを図ることができるかが最大の関心事となるので、有力なリテンション策として、「成長の可視化」は重要な要素である。

一方で、社員が「自分がやりたいこと」を明確に持つことが、成長の前提条件である。これがないと会社まかせの受け身の成長になってしまう。本来ならば社員が自らの意思を持って会社や仕事を選択することが前提なのだが、現在の日本社会では、そのカルチャーがない。したがって、会社が将来必要な人材像を明確に提示し(人材の可視化)、社員が将来のなりたい姿を描くことができる(成長の可視化)仕組みを構築し、運用することが求められる。

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