J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

子どもの教育から見る未来  一人ひとりの価値を上げる! “やる気エンジン”の回し方

「一人ひとりの“価値提供力”を上げれば、人口減少による生産性の低下をカバーできる」こう話すのは子育て、アドラー心理学に詳しい熊野英一氏だ。
未来への希望が湧く子育て支援対策とは。
そして、子どもや若者のやる気を高める方法とは――


熊野英一(くまの えいいち)氏 子育て支援 代表取締役
フランス・パリ生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本にて人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA /経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスのコティに統括部長として入社。約60 の保育施設立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007 年、株式会社子育て支援を創業、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会正会員。

〔取材・文〕=木村美幸 〔写真〕=中山博敬

予測不能な時代が始まった

―未来の企業を取り巻く状況は、どのようになっていると思われますか。

熊野

未来を予測する際、よく使われてきたフレームワークに“STEEP”という分析方法があります。Society(社会)、Technology(技術)、Economics(経済)、Environment(環境)、Politics(政治)という5つの要因を基に、企業を取り巻く外部環境がどうなっていくか、当たりをつける、というものです。

ところが現代は、IT 技術を筆頭に全ての要因の変化のスピードが速まっています。もはや十数年先を予測することは不可能な時代といえるでしょう。

唯一、予測可能なのが人口の変動です。日本では既に総人口、労働力人口、共にピークを迎え、今後も減り続ける見込みです。2030 年には企業の労働力不足はかなり深刻化しているでしょう。

―少子化対策は国の重要課題ですが、企業としてはどんな対策を立てればよいでしょうか。海外の事例から学べることはありますか。

熊野

他国の施策は、社会的な背景、教育制度などが日本と違い過ぎるので、成功した対策を真似してもうまくいかないと思っています。それよりも、日本国内で成果を上げている施策に着目したほうが現実的ですし、効果が期待できるでしょう。

有望な取り組みのひとつが、国が進める「企業主導型保育事業」です。従来の企業内保育所と違い、複数の会社が共同して1つの保育所を持つこともできる仕組みで、中小企業でも設けることが可能です。認可施設並みの国の助成金が用意されているうえ、設置や運営のルールが柔軟なのが魅力。会社の会議室を使う、社宅の一部を改築する、工場の空きスペースを活用するなど、各企業がそれぞれやりやすいスタイルで設置できます。

社会的なインフラとして保育所がたくさんできれば、女性の復職がスムーズになりますし、「それなら、もう1人子どもをつくろう」と思える若者が増えるかもしれません。今後の労働力不足の問題に、ダイレクトにインパクトをもたらす施策だと思います。

―とはいえ、これから生まれてくる子どもたちが労働力となるまではかなり時間がかかります。人手不足を解消するため、2030年に向けて私たちは何をすべきなのでしょうか。

熊野

労働力人口が減少する時代においても一筋の光明はあると、私は考えています。それは働く人一人ひとりのパフォーマンスを上げ、各々の“価値提供力”を高めること。これが実現すれば、人口減少による生産性の低下や経済成長の縮小をある程度カバーすることが可能です。

―求められる人材の具体像とは。

熊野

これからのビジネスパーソンには、予測できない変化に対応する力が求められます。従来はPDCAがビジネスの鉄則でしたが、綿密にプランを立てたところで、1週間後には思いもしなかった変化が起きてしまうかもしれません。もはや、最初にすべきことはPlanではないのです。

実際にやってみた結果を観察し、それを受けて微調整し、またやってみる……。アメリカ空軍が「観察」で始まる意思決定プロセス「OODA(Observe、Orient、Decide、Act=観察、方向づけ、決断、実行)ループ」を提唱していますが、働き方も同じように変わっていくでしょう。

どの企業も変化に対してスピーディー、かつ柔軟に対応できる体質になっておく必要がありますから、やる気と自信を持って自立的に動ける人材は絶対に求められると思います。

若者の自己肯定感の低さ

―求められる人材像と比べ、今の若者はどうでしょうか。

熊野

内閣府が2014 年度に発表した「子供・若者白書」に、かなりショッキングなデータがあります。日本を含めた7カ国の13 ~ 29 歳の若者を対象とした意識調査なのですが、「自分自身に満足している」、「自分には長所がある」という設問に「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」と答えた人の割合は、日本が最も少ない。つまり日本の若者は自己肯定感が非常に低いことが分かったのです。

さらに「うまくいくか分からないことにも意欲的に取り組む」という項目も最下位でした。調査対象になっている年代は、2030年には組織の中心として一番活躍すべき人たちなのに、その多くが“ 自分はダメだ”と認識しているのです。この状態は何とかしなければいけません。

―なぜ今の若者は、自己肯定感や意欲が低いのですか。

熊野

主たる原因は、「結果で評価する」という近年の子育て法にあると私は考えています。

褒めて伸ばす教育方針がもてはやされていることも手伝って、多くの親御さんは、我が子が何かをうまくやり遂げたら、「すごいね」と盛大に褒める。反対にダメだった時は叱る。この繰り返しで育てられていると、子どもは「良い結果を出さなければ認めてもらえないのか」、「失敗したらどうしよう」と不安になります。何もしていない状態で褒めてもらうことはありませんから、「ありのままの私ではダメなのか」という不安も強くなります。

―その積み重ねが「子供・若者白書」に表れているのですね。

熊野

そういうことです。自己肯定感が低ければ、社会に出ても「 失敗を恐れずにチャレンジしてやろう」とは思えません。自ずと指示待ちの姿勢になる。このような若手社員が、どの企業でもこれからもっと増えていきます。採用の段階で自己肯定感の高い人をしっかり見極められればよいですが、人手不足の時代、そうではない人も採らねばならないでしょう。そこで企業としては、彼らの自己肯定感を高め、内発的な動機づけをすることが必要になります。

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