J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

経営的視点から見る未来  「飯・風呂・寝る」から 「人・本・旅」へ転換せよ

深刻な少子高齢社会を突き進む日本。
高度成長のベクトルが消失した今、政府や企業、そして個人は、どんな構造転換をしなくてはならないのか。
世界の政策や統計データ、そして経営に造詣の深い出口治明氏が知見を踏まえ、具体策を提言する。


出口治明(でぐち はるあき)氏 ライフネット生命保険 代表取締役会長
1948 年生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長や国際業務部長を歴任。2008 年にライフネット生命保険株式会社を開業、訪れた世界の都市は1200 を超える。読んだ歴史書は5000 冊を超え、その独特な史観をベースにグローバルなビジネス論を提唱している。

[取材・文]=浜名 純 [写真]=吉田 庄太郎

高度成長を支えた3条件

―未来を考えるにあたりその前提となる、日本のこれまでと現状について、どうご覧になっていますか。

出口

高度成長と呼ばれた戦後の日本を支えてきたのは、“製造業を核とした長時間労働”で、それを可能にしたのが「冷戦」「工場主導のキャッチアップモデル」「人口増加」という3条件です。

ロシア・中国が太平洋に進出しようとすれば日本列島は大変な障害になるわけで、アメリカは冷戦の時代、地政学上、日本を重視しました。そのアメリカの庇護のもとで日本は経済成長を遂げたのです。その成長の核となったのが製造業。農業に従事していた若者を地方から都市に集め、生産性の低い農業から生産性の高い製造業に労働力をシフトさせました。

この製造業中心のキャッチアップモデルでは、24 時間操業が理想です。ベルトコンベアを休むことなく動かすことで生産性が上がります。かくして、早朝に出勤し深夜帰宅して「飯・風呂・寝る」の働き方が定着し、女性はそんな男性を支えるという明確な性分業が生まれました。

また、「人口増加」が経済成長に貢献することは、古今東西の歴史を見れば明らかです。

骨折り損のくたびれ儲け

―しかしその後、少子高齢化が問題視され、冷戦も過去のものになりました。産業地図にも変化が現れています。

出口

高度成長を支えた先の3条件は消え去りましたが、長時間労働と性分業の慣習は依然として続いているのが日本の現状です。

生産性が低いことが特に問題です。OECD34 カ国中、日本は時間当たり21 位で、G7の中では20 年連続の最下位です(図2、日本生産性本部調べ)。日本、ドイツ、フランスの労働時間と休暇を比較すると(図1)、2013 年の日本の1735 時間に対し、ドイツは1388 時間、フランスは1489 時間。夏休みは日本が約1週間で、ドイツ、フランスは約1カ月です。一方、ここ数年の平均成長率は、日本がわずか0.6%なのに対しユーロ圏は約1.5%(IMF2017ベース)。これでは、「骨折り損のくたびれ儲け」以外の何ものでもありません。

性分業に関しては、現代の女性の多くは「飯・風呂・寝る」の準備をして(家事や育児・介護等を中心になって行い)さらに働くわけですから、よほどのショートスリーパーのスーパーレディしか輝けないわけです。実際、日本の国会議員の女性比率は144 カ国中122 位(世界経済フォーラム調べ)、社会全体の男女平等の達成度(ジェンダーギャップ指数)も111 位と2015 年の101 位から大きく下げている。大きな転換が必要です。

労働生産性を高める

―そんな現状を打破するために、企業や政府はどんな政策・施策を行っていけばいいでしょうか。

出口

大きくは、労働生産性を上げる、投票率を上げる、社会のリテラシーを上げる、そして人口・労働人口を増やす(女性・高齢者を活かす)ことでしょう。

①労働生産性を上げる

出口

まず、なんといっても労働生産性を上げなければなりません。既に、我が国の産業構造は製造業からサービス業へシフトしている。働き方も、「飯・風呂・寝る」から、「人・本・旅」へと移行しなくてはなりません。必要な政策は、残業規制・インターバル規制です。

「人・本・旅」への移行とはどういうことか。ここにAさんBさんという2 人の編集者がいるとします。Aさんは早朝に出勤し夜10 時まで仕事をしますが、作る本は1冊も増刷されません。対してBさんは、朝は10 時に出勤し、途中でコーヒーを飲みに行き、夜は6時には退社します。しかしBさんが作る本は、コンスタントにベストセラーになり、Bさんは高く評価される。

「人・本・旅」とは、Bさんのように仕事はさっさと終え、たくさんの人に会い、たくさん本を読んで、いろいろな場所に行って経験を積む働き方のことです。

そもそも、人間の脳が集中できる時間は、2時間×4コマが限度だといわれています。それ以上の長時間、机で仕事をしても、新しい発想など生まれるはずがない。アイデアは、「人・本・旅」で脳に刺激を与えることによって出てくるのです。

「ユニコーン」という言葉があります。企業としての評価額が10 億ドル以上で非上場のベンチャー企業を指し、「gafa」(Google、Apple、Facebook、Amazon)の予備軍として注目されています。このユニコーンに求められる人材は、以前の製造業で必要とされた体力・筋力に優れた人間ではなく、新しい発想に長けた人材です。ちなみに、ユニコーンは、米国や欧州、そして中国では育っていますが、日本には存在しないといわれています。

生産性向上には、政府(法律)による残業規制やインターバル規制が効率的ですが、民間では長時間労働をよしとする従来型の思考を排除することが肝要です。編集者の例を挙げましたが、パフォーマンスによる評価を徹底すべきです。

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