J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 「やってみなはれ」に 込められた人づくりの本質

「キャリア支援企業表彰2013」において厚生労働大臣表彰企業として選定されるなど、社員の成長支援で評価を受けているサントリー。
2015 年には人材育成を強化するため、「サントリー大学」も開校した。
その根底にある哲学「やってみなはれ」の言葉に込められた人材育成に関わる思想を、鳥井信吾副会長に聞いた。


鳥井信吾(Shingo Torii)氏
サントリーホールディングス 代表取締役副会長

生年月日 1953年1月18日
出身校 甲南大学理学部、南カリフォルニア大学大学院修了
修士(M.S.) (微生物遺伝学)

主な経歴
1980年 4月 伊藤忠商事 入社
1983 年 6月 サントリー 入社 
      京都ビール工場、山崎ウイスキー工場 勤務
1987年 9月 大阪工場長
1992年 3月 取締役
1994 年10月 生産第1部長(ウイスキー担当)
2001年 3月 代表取締役専務取締役、SCM本部長
2003年 3月 代表取締役副社長
      生産研究部門担当、マスターブレンダー
2014年 5月 米国ビームサントリー 取締役
2014年10月 サントリーホールディングス
      代表取締役副会長
現在に至る

企業プロフィール
サントリーホールディングス
創業1899年。酒類や飲料を中心に幅広い事業をグローバルに展開。創業以来、受け継がれている「やってみなはれ」の精神がその原動力である。
資本金:700 億円(2015年12月31日現在)、連結売上高:2兆6868億円(2015年12月期)、連結従業員数:4万2081名(2015年12月31日現在)

インタビュー・文/竹林篤実
写真/大島拓也

創業の精神を理解し、本質を極める

―グローバル展開に力を入れ、売上高2兆6800億円を超えるサントリーグループが、今後めざす姿をお聞かせください。

鳥井

めざす姿を一言で表すなら「本質を極める」となるでしょう。当社は、酒類、飲料・食品、健康食品、外食という4つの領域で事業を展開しています。その全てを、創業者である鳥井信治郎が創り上げ、歴代の社長と社員が継承してきた企業文化に沿いつつ極めていく。これが我々の目標とするところです。

もちろん、時代の要請によって変えていかなければならない部分はあります。けれども、変わらない、変えてはならない事業の本質もある。その本質を、常に追求していく。企業文化というのは目には見えないけれども、例えば各家庭に家風があり、国に国民性があるのと同じようなものでしょう。それを過去から引き継ぎ、時代時代に合わせて創り続けていくことが大切だと思います。

―本質を極める、ということですが、例えば、ウイスキーの本質を表現すると、どのようになるのでしょう。

鳥井

これを言葉で言うのは難しい。例えばソムリエがワインを表現する時には、カシスの香り、森の中の落ち葉の香りなど、多種多様な言葉を使います。ウイスキーでもナッツの香りやハチミツのような香りなどと言います。しかし、これらはあくまで表現です。よいものをつくろうとする時に、大抵の言葉は役に立ちません。言葉で表現できる世界ではないのです。ウイスキーの本質とは、テクスチャーや肌触りのようなもの。よいウイスキーを飲んだ時の満足感というのは、寒い時にオーバーを羽織ってほっと温まるとか、そんな感覚に近いものだと思います。

酒の歴史をたどっていくと、恐らく言葉の誕生と同じぐらいまで遡るのではないでしょうか。どちらの歴史も諸説ありますが、人類と酒の関わりは、それぐらい原初的なものだと思うのです。人間の一番根幹に関わるものであり、簡単には言葉にならない。だからこそ、常に本質を考え、求め続けることが必要であると思います。

人材育成と同期のつながり

―本質を極めようとする御社で、その担い手となる人材の育成に関して、大切にされているポイントをお聞かせください。

鳥井

まず、社員が能力を開発・発揮しやすい環境づくりに努めています。これに基づき、入社時から退職に至るまでの間、体系立てたキャリア開発を行っています。具体的には、入社時の新入社員育成研修、フォローアップの4年次研修、新任プロフェッショナル研修、新任マネジャー研修、そして新任部長研修などがあります。

こうした年次研修で培われるものと同じように重要なのが、同期の強力な絆です。同期会はほとんどの年次で年に1回は行われているようです。そこでは、たとえ役員と課長であっても君づけで呼び合うことができる。同期のネットワークは強力で、これも当社の企業風土といえるでしょう。

―2015年には「サントリー大学」を設立されています。

鳥井

「大学」と名前はついていますが、校舎があるわけではなく、サントリーグループがグローバルに発展していくための人材育成プログラムの総称です。そのミッションは、サントリーに集う個々人の能力の向上を図り、魅力ある人材をつくることであり、未来を見据え、学び続ける意欲を啓発することです。そしてビジョンは、グループ全員が創業の精神を理解し“GlobalOne Suntory”を実現することです。こうした考え方に基づき、理念学部、経営響創学部、基盤人材学部の3つの学部を設定しています。

例えば理念学部の「アンバサダープログラム」は、海外のグループ各社の従業員を対象として、創業の精神を共有することが狙いです。

また、ものづくり現場で働く技術系社員には、京都ビール工場内の「ものづくりスキル・ナレッジセンター」で技術研修を定期的に行っています。研修には、メンバー層対象の資格階層型、リーダー層対象の選抜型、希望者応募型の3種があり、応募型には、品質管理・包装・中味等、各部門にまつわるものと、部門共通のプログラムがあります。

家族のような社風、挑戦を促す仕組み

鳥井

さらに、教育に関連して重要なことは、当社の社員間における、兄弟のような関係だろうと思います。兄貴や姉が、弟や妹を諭すかのごとく、仕事の仕方から人との付き合い方までを、先輩を見て覚えていく。長く存続してマンネリ化しない組織は、上司、部下というタテの組織だけでなく、先輩、後輩、同期など、ヨコの関係が柔軟で強力です。加えて、お客様のためになることなら、と考える風土が、挑戦を容認する自由闊達な雰囲気を育むのだと思います。

2013年からは、さらなる挑戦を促すために、「チャレンジ目標」を導入しました。これは通常業務に加えて、より難易度の高い、意欲的な目標を設定し、その成果を人事考課において加点評価するものです。失敗を恐れずに、よりチャレンジングな目標を自ら設定し“考動”を起こすことを通じて、サントリーグループのDNAである「やってみはなれ」の風土を強化します。

課題はグローバル化への対応

―人材に関して、課題とお感じのことは。

鳥井

いかにして“Global One Suntory”を実現するのか、です。現時点で当社の売上のうち、約4割を海外が占めています。ここ数年、M&Aなどを繰り返し、アメリカのビーム社をはじめとして、フルコア社、オランジーナ・シュウェップス社、ティプコF&B 社などの海外企業・ブランドを相次いで買収・資本提携してきましたが、そこで課題となるのは、サントリーの企業文化の扱いです。国が違えば考え方が変わってきます。「兄貴が弟を教えるように」などと急に海外で言っても、簡単に通じるわけではありません。

考えるべきは、海外の社員たちのモチベーションの源がどうなっているのか、です。何をインセンティブとすべきなのかを見極める必要があります。

しかし、海外でも地位や報酬だけが全てでは、決してありません。彼らも仕事に自分なりの意味を持たせて頑張っていきたい、という気持ちを強く持っています。サントリーのやり方を押しつけずに、でもサントリー流の「本質を極める」アプローチが大切です。先ほどのアンバサダープログラムなどは、その一環です。

当然ながら、海外は国ごとに文化が異なります。アメリカの価値は、自由と若さでしょうね。一方、ドイツ、フランス、スペインはアメリカとは異なる文化圏です。中国やタイ、ベトナムなど東南アジアの人たちには、彼らなりの思考パターンがある―。こうした方々の個性を大事にしながらも、ひとつにまとめていくには、時間をかけるしかないと覚悟しています。

―グローバル展開については、海外と関わる日本人の育成も必要ですね。

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