J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

TOPIC-2 日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016レポート 皆が皆を支える社会 課題先進国・日本の新たな将来を描く

日本財団が主催する大型イベントとして、今年初めて開催された「ソーシャルイノベーションフォーラム」。
高度化・複雑化する社会課題や「にっぽんの将来」について行政、企業、NPO等団体、研究機関などの各セクターが一堂に会し、議論した。
その模様の一部をレポートする。


開催時期:2016 年9月28 日~ 30 日
会 場:虎ノ門ヒルズフォーラム
主 催:日本財団

取材・文:富田夏子 写真:編集部

社会課題に向けた議論を展開

「ソーシャルイノベーションフォーラム2016」は、日本財団が今年初めて開催した大型イベント。目的は、少子高齢化や人口減少といった日本の社会課題解決へ向けて、行政、企業、NPO等団体、研究機関などのセクターを超えた協力体制をつくり上げること。今回、各セクターが一堂に会して「にっぽんの将来」について議論し、延べ2200名が来場した。

本稿では、9月29日に開催された分科会から、「これからの子どもたちに求められる能力とは」「伝統で新しい日本をつくる」「自殺大国ニッポン」「『活躍』の定義~男女のホンネ対談~」の内容をダイジェストで報告する。

「これからの子どもたちに求められる能力とは」未来の教育について議論する

【講演者】東京大学先端科学技術研究センター 教授 中邑賢龍氏

インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK) 代表理事 小林りん氏

a.school 代表取締役 岩田拓真氏

【モデレーター】教育ジャーナリスト・編集者 品川裕香氏

テクノロジーの進歩とグローバル化など、猛烈な勢いで社会変革が進む時代、これからの子どもたちに求められる能力とは何か。どのような教育が必要なのか。多様な子どもたちを受け入れ、先進的な教育に取り組む3人の実例を中心に、未来の教育について議論が交わされた。

多様性への対応力が重要

品川

人工知能が人間を超えるといわれたり、グローバル化が急速に進むなど、社会が変化する今、子どもたちはどんな力をつけなければならないのでしょうか。それぞれの取り組みをご紹介いただきながら、皆さんが思う未来の教育を教えていただければと思います。

中邑

私ども東京大学先端科学技術研究センターでは、“規格からはみ出た子どもたち”を集めて、異才発掘プロジェクト「ロケット」を3年前に始めました。ユニークな才能を持つが故に、現在の教育システムの評価基準から外れた子や不登校児、発達障害などと名づけられた子どもたちが集まる部屋が「ロケット」なんです。ここには教科書も時間割もありません。とにかく自由なので、好きなことを時間制限なく突き詰めてやってもいいし、部屋にあるキッチンで料理をしながら理科や数学について学んでもいい。ただ1つ、運営側のポリシーは、子どもたちを“決して見捨てない”ということです。

小林

インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)は、3年目を迎える全寮制の学校です。軽井沢の大自然の中にキャンパスを構え、世界中の高校1~3年生を対象に、グローバル人材の育成につながるような教育をめざしています。

日本の労働人口は50年後までに42%減り、外国人の人材は必ず増えるといわれています。また、今の子どもたちが大きくなる頃には、コンピューターが人間を超えるかもしれませんし、半数以上の人が現在は存在していない職業に就くだろうという指摘もあります。つまり、これからの社会を生き抜けるのは、自ら価値を創造していける人でしょう。

ISAKでは、国籍や宗教、社会経済的にもさまざまなバックグラウンドを持つ生徒が同じ寮に住みながら学習することで、「多様性への対応力」「問いを立てる力」「困難に挑む力」という3つの力を養っていきます。そして、どんな分野のどんな価値観でも大切にでき、世界を舞台に変革を起こせるようなチェンジメーカーの育成をめざしています。

岩田

a.school(エイスクール)は、学ぶ情熱を養う、探究・創造・協働型のちょっと変わった学習塾です。0から1を切り拓く創造的な人になってほしい、という願いを込めて3年前から始めました。

生徒は小中学生で、その3割くらいは不登校など学校教育の枠に収まらない子ですが、残りは普通の子どもたちです。塾といっても教科書はなく、ワークショップ形式の授業やフィールドワークなど、双方向的な学びを大切にした、探究型教育です。

地域や民間の力を活用する

品川

皆さんのお話をまとめると、0から1を生み出すこと、問題解決する力をつけること、多様性への対応力、の3つが重要だと感じました。

子どもたちの実例はもちろんですが、何といっても指導者が素晴らしいですよね。教育現場を取材し続けて四半世紀ですが、常に問われるのは指導者の力だと痛感しています。どんな風に指導者を育てていますか。

小林

昨年は4人の教師の募集に対して、世界中から480人の応募がありました。国際バカロレアの教授経験や全寮制の学校での勤務経験も見ますが、最終的にはISAKにフィットするかどうかが重要です。

岩田

教育者よりは、別の社会経験がある講師が多いですね。

中邑

非常勤として、料理研究家や演出家、プログラマーや看護師、漁師といった、リアルな職業のプロに関わってもらっています。

小林

日本では教員に対して、個人向けの研修は行っていてもチーム向けの研修は行っていないですよね。だから、先生それぞれに大きな負担がかかってしまう。

品川

民間の力をもっと使っていくのはいかがでしょうか。

中邑

子どもたちが元気で楽しく過ごせるような学び方や学校の利用の仕方を提案してあげてほしいです。

岩田

教室として閉じて考えるだけではなく、地域の中で学ぶなど、もう少しオープンにしたほうがいいと思います。そして教育に関心がある企業人は気軽に教育の場に入っていってほしいですね。

「伝統で新しい日本をつくる」世界に挑戦し発展し続ける伝統文化

【講演者】(株)星道 代表 ドゥラジュ・ジョルディ氏

伝統工芸士 高島慎一氏

華道「未生流笹岡」 家元 笹岡隆甫氏

【モデレーター】京都府 副知事 山下晃正氏

少子化、高齢化、経済低迷といった日本の課題に、伝統文化が果たす役割とは。日本の未来のブランディングも大きく左右する伝統文化の可能性について意見を交わした。

伝統とは変わり続けるもの

山下

昨年、京都では琳派400年記念で4つの展覧会を開きました。1つは琳派の『風神雷神』を一堂に並べた王道の展覧会でしたが、他の3つは琳派をテーマにしつつ、モダンアートやアニメも取り入れました。歴史を巡って初めて真髄を感じることができる文化を伝統と呼ぶのではないでしょうか。それは必ずしも1人でつくり上げるものだけでなく、チームでプロデュースしてつくり上げていくこともあると私は思います。

ドゥラジュ

私はフランス人ですが、日本で武道用品を販売しています。合気道をしていたこともあり、日本の職人が作る純日本製のクオリティの高い武道用品を世界に広めたいと思いこの仕事を始めました。海外では2000年頃まで日本製の商品に対してミステリアスなイメージがありましたが、今では情報量が増えたため、逆に「日本製と海外製、何が違うのか」と悩む欧米人も少なくありません。そのため、それを世界に提示する必要がありますが、日本では「実際にモノを見てから、その本質を理解してほしい」という風潮が、まだ根づいている気がします。欧米人は、職人や出来上がるまでの背景を深く理解し、距離感が縮まり、はじめて商品を買う傾向があるため、私は武道用品を販売する際には、職人の写真や製造工程の動画などをお客様に紹介するようにしています。

高島

私は、京都で「清水焼」という焼き物をつくっている職人です。

私は三代目なのですが、祖父と父と私の色付けや絵柄は違いますし、世の中に受け入れられるため日々変えていくことも伝統だと考えています。100年、200年後の人が今のものを振り返って「伝統」を感じるかどうかは分からないので、私としては今、陶器を使う人たちがどのようなものを求めているかを大切にしたいと思っています。

笹岡

「いけばな」は、今から約550年前に生まれました。いけばな教室では最初に、各時代に流行した古典の「型」を学びます。ただ、美の基準は人によって異なりますし、時代によっても変わります。それを頭に入れておかないと、型におぼれてしまうことになります。基本はおさえながらも、その型を破って新しいものを生み出そうと挑戦するのが、伝統の世界だと思います。

次の世代に文化を残す

山下

確かに伝統は、守・破・離の繰り返しですね。伝統で新しい日本をつくるには、マーケットにどのように伝えたらいいでしょうか。

ドゥラジュ

日本の職人さんには、技術をもっと世界に発信する努力をしてほしいです。もし、言語やアピールの方法などが分からなければ、私のような日本の伝統を愛している外国人に任せてほしいですね。

高島

一世代前までは「もの言わぬものがもの言うものづくり」という言葉があったほど、誠実に職人としてものだけつくっていればよかったのですが、今はそうではありません。若い世代は自分たちでつくったものを説明するようになっています。ただ、ひとりの力では限界があるので、大きなムーブメントにしないといけないと思っています。今、自分たちの世代がやらないと、新しく若いつくり手が入って来なくなるという危機感はあります。

笹岡

グローバル社会において、自国の文化を学ぶことの重要性については異論はないでしょう。私は日本文化の中で、特にいけばなの義務教育化を推進したいと考えています。いけばなは、伝統文化の中で唯一“命”に直に触れる文化です。

また、2020年の東京五輪はせっかくの機会ですから、いけばなが登場する場面をつくりたいです。常に革新を続け、他のジャンルともぶつかり合うことで新たな文化や伝統を生み出したいと考えています。

「自殺大国ニッポン」若者が生き延びるための作戦会議

【講演者】特定非営利活動法人Light Ring. 代表理事 石井綾華氏

ひきこもりUX会議主宰 恩田夏絵氏

歌人 鳥居氏

【ファシリテーター】一般社団法人プラス・ハンディキャップ 代表理事 佐々木 一成氏

自殺によって亡くなる若者が先進国で最も多い日本。自殺リスクを高める要因となる、若者の「生きづらさ」の実態とは。生き延びるにはどうしたらいいのか。「生きづらさ」経験者が、自身の経験を元に作戦会議を開いた。

若者が「生きづらい」日本

佐々木

昨年発表された日本の自殺者数は、2万4千人。中でも若者の自殺者が圧倒的に多いんです。僕自身、生まれながら足に障害があり、生きづらさを研究するウェブ・メディアで発信していますが、皆さんも自己紹介をお願いします。

石井

18歳からの若者の自殺やうつ病を予防する活動を続けて6年目になります。私自身も小学5年生の時、自殺を考えたことがありました。社会的に自殺を防ぐ仕組みが必要だと思います。

恩田

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