J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり!  第39回 住宅の劣化を見抜け! ホームインスペクターの学び

「今の小学生の65%が現在、存在しない職業に就くだろう」という未来予測があるのをご存知だろうか。
実際、新しい職業が次々に誕生しつつあるが、住宅の劣化を診断するホームインスペクターもそのひとつだ。
時代が求める仕事に挑戦するベテランたちを取材した。


中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』
『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog: http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID: nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐見 利明

ホームインスペクターとは、主に一戸建てやマンションなどの中古住宅の「劣化の状態」を診断する専門家を指します。近年、需要が高まっており、2009 年からはNPO法人日本ホームインスペクターズ協会が認定資格制度を始めています。

ホームインスペクターの需要が高まっている背景には、中古住宅市場の拡大があります。日本ではこれまで新築住宅が重視されてきましたが、人口減少時代を迎え、中古住宅ストック(在庫)が増加。空き家が増えていることもあり、政府も中古住宅市場の活性化を後押しする方針を掲げています。

そこで新たな課題となっているのが、中古住宅の査定の整備です。中古物件を売買する際は、建物の状況把握が不可欠ですが、劣化の程度を判断するには、不動産や建築の知識とはまた違った専門性が必要です。そうした中で、第三者的な立場で建物の劣化状況を診断する専門家、ホームインスペクターが求められるようになってきたのです。

今回は住宅診断を手がけるさくら事務所を訪れ、住宅業界における新しい職業、ホームインスペクターたちの学びを取材しました。

見えない漏水、傾きを指摘

ホームインスペクションとはそもそも、どんなことをする仕事なのでしょうか。

ホームインスペクター歴12 年という川野武士さんによると「建物の外観を見て、外壁のひび割れなどをチェックするところから始まり、床の傾きや天井の雨漏りなど室内の状況、キッチンや浴室の水回りの配管といった給排水設備や換気設備など、家全体をくまなくチェック。床下や屋根裏にも入り込んで構造部分も確認し、住宅の劣化の状態や不具合がないかを診断します」とのこと。

チェック項目は100以上にわたります。事例として多いのは「雨漏りや漏水で屋根裏が腐っていた、など外からは見えない部分の問題。建物の歪み、傾きといった、住んでいる方でも気づかない劣化もあります」(川野さん)

依頼主は新築、中古住宅の購入を検討する個人がメインです。購入の判断材料にする他、購入後、改修すべき箇所はどこか、住むうえで気をつけるべきところはどこなのかを知りたい、というニーズもあります。

診断で使うのは、水平・垂直の精度を素早く計測する「オートレーザー」、水平精度を測る「精密水平器」、木材やチップボードの水分含有率を測定する「電気抵抗式木材水分計」、雨漏りの可能性や断熱材・筋かいの有無を調べる「サーモグラフィカメラ」など。シーンに応じて、その他さまざまな機材を使用します。感覚や印象ではなく、具体的な数値、画像を依頼主に明示することが大事だと考えているからだそうです。

調査にかかる時間は、屋根裏・床下も入れるとおよそ4時間半。終われば、その場で説明を行います。細かな診断内容は注意点・確認事項などと共に後日、報告書にまとめあげ、依頼主に送ります。

第三者性にこだわる理由

さくら事務所が重視するのは、「第三者性の堅持」です。通常、中古物件の売買の際は、不動産業者は物件の事前調査を行い、買主にその建物の状況を説明する義務があります。しかし、屋根裏や床下までくまなくチェックするような不動産業者は多くありません。また、建築の専門家ではないため、建物のコンディションを必ずしも正確に把握できるとは限りません。取引の当事者による調査では、中立的な立場での診断そのものが難しい場合もあります。

その結果、建物の状態について、正確な情報がないまま購入する買主が後を絶たないそうです。「売買が成立した後に天井の雨漏りや床下のシロアリ被害が見つかるなど、トラブルが起こることもあります」(川野さん)

こうした業界事情がある中、さくら事務所では不動産業者やリフォーム業者とは一線を引いた、独立的な立場での診断にこだわっています。

ベテラン建築士が“新人”に

現在、さくら事務所に所属するホームインスペクターは全国に約70名いるそうですが、実は全員が1級、2級の建築士資格の取得者。長年、建築や不動産などの仕事に関わってきた専門家ばかりといいます。

建物の専門家ならば、資格や研修などがなくても、ホームインスペクションができてしまいそうな気がしますが、住宅を診断するためには、建物の劣化についての専門知識や診断のノウハウが必要なのだそうです。

ホームインスペクター歴1年の朽木裕二さんは「私は住宅の設計、施工の経験が長いのですが、扱うのはもちろん新築。この会社に来て初めて水漏れの現場を見ました」と笑います。

転身までの歩み

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