J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

CASE 1 野村證券 社内の実態に合ったテーマ選定で受講満足度9割を実現 明快な3つのメソッドが効く アンガーマネジメント研修

野村證券では、2015年より人権啓発活動の一環として、全社員対象のアンガーマネジメント研修を行う。
怒りのメカニズムに沿った具体的なメソッドにより、パワハラの予防だけでなく、組織活性化の効果も期待できる。
研修担当者に、実施上のポイントを聞いた。


前田暁史氏 人権啓発室長

野村證券
1925 年設立。野村徳七によって設立された大阪野村銀行証券部が独立したのが始まり。証券業務における野村ホールディングスの中核会社である。
「規律ある行動と企業家精神」を行動規範に掲げ、顧客第一の精神で事業を展開する。
資本金:100 億円、営業収益:7468 億円(2016 年3月期)、従業員数:12902名(2016年3月現在)

[取材・文]=田邉泰子[ 写真]=編集部

■背景 感情に任せた怒りを抑えたい

証券大手の野村證券では、2015 年より「アンガーマネジメント研修」を導入した。

アンガーマネジメントとは、1970 年代に米国で広まった「怒りと上手につき合う」「怒りの感情を上手にコントロールする」ための感情理解教育である。日本では2011年に日本アンガーマネジメント協会が発足し、近年各方面より注目が集まる(詳細は22ページ参照)。

アンガーマネジメント研修の受講対象者は、本社・関連会社と全国に159ある支店の社員であり、ほぼ全員が該当する。研修を担当するのは、人権啓発室だ。

「人権啓発室は社員に向けて、障害者やLGBT(性的少数者)に対する理解浸透など、全ての人たちの人権を尊重し、相互理解を深めるための活動を行っています。ハラスメント(嫌がらせ)に対する正しい認識を促すことも、その1つです」(人権啓発室長 前田暁史氏、以下同)

ハラスメントにはさまざまな種類があるが、“怒り”と関わりが深いのは職務上の地位や人間関係の優位性を利用した「パワーハラスメント(パワハラ)」だろう。上司が部下を人前で叱責したり、理不尽なことで怒鳴ったり、あるいは過去の失敗を持ち出して繰り返し部下の人格を否定するなど、沸き立つ感情に任せて反射的に怒りをぶつけるようなことはないだろうか。

パワハラは、時に相手の精神に大きなダメージを与え、深刻な場合は訴訟に発展することも考えられる。そのため、今では企業向けにハラスメント保険が商品化されるほどだ。また裁判沙汰となれば、その企業に対するイメージも損なわれる。

「以前からパワハラにフォーカスした研修を行ってはいました。しかし、『むやみに怒ってはいけない』と言ったり、具体例を挙げて『これもパワハラだ』などと説明しても、受講者は他人事として受け止めてしまう。この方法では効果が薄いのでは、と感じ始めていました」

どのような形でアプローチすればよいのか。方向性を模索していた頃、前田氏は新聞で“アンガーマネジメント”に関する記事を読んだ。

「アンガーマネジメントは、“怒り”に対する具体的なメソッドが確立されています。例えば、『怒りを感じたら6秒ゆっくり数えてみる』などです。怒りの感情の客観的なコントロール法であれば、社員たちに受け入れられるだろうと思ったのです」

さっそく前田氏は、アンガーマネジメントのメソッドを指導できるようになるため、日本アンガーマネジメント協会が認定するファシリテーターの資格を取得する。また、協会会長の安藤俊介氏に、社内研修にアンガーマネジメントを取り入れたい旨を相談し、同社オリジナルの研修がつくられることとなった。

■研修内容 3つのメソッドを動画で確認

研修は、60 分程度で構成されている。数あるアンガーマネジメントのメソッドの中から3つを取り上げ、それぞれについて「怒りをコントロールできていない悪い例」→「アンガーマネジメントの解説」→「メソッドを使って怒りをコントロールした例」→「グループワーク」の順で展開される。

それぞれの例は、職場を中心に怒りの感情が起こりやすい場面をドラマで作成。ドラマと解説には、ビデオ教材を用いる。

「動画の有無で、興味と理解の程度は大きく変わる気がします。当社にはビデオ制作を担う部署があり、恵まれた環境だといえますね」

悪い例の研修ドラマでは、上司役の俳優の怒る姿がコミカルに映り、笑いを誘う。しかし多少大げさではあっても、日頃を振り返ると思い当たる部分があると感じる社員は少なくない。

「『今どきこんな人はいるのだろうか……?』と思う一方で、『そういえば、あの時……』など、誰もがヒヤっとさせられるような場面を盛り込みました」

また3つのメソッドは、飽きが来ないよう、研修を開始した2015 年と2年目の2016 年とで内容を変えている。参考までに、2016 年版で取り上げたメソッドを紹介しよう。

【1】怒りの温度を自覚する

ひと口に“怒り”と言ってもその程度は状況によって異なる。自分が怒りを感じた時に、その度合いを客観的に測ることが肝心だ。

ワークでは、怒りを示すいろいろな表現(殺気立つ、ごきげん斜めなど)が、それぞれどの程度の怒り度合いを示しているのか、自分が過去に怒りを感じた場面に当てはめていく課題を実施した。これにより、怒りを感じる度にその怒りの質を言葉で置き換えられるようになり、我に返るきっかけにつながる。

【2】心の三重丸を意識する

人は怒る時、自分の価値観の物差しを相手に当てて、「許せる」または「許せない」の二択で判断していることが非常に多い。しかし人の価値観は実に多様であり、自身の感覚とぴったり合致することなど、むしろ少ないものだ。

そこで研修では、価値観との相違を示した三重丸(図)の中間層にある、「自分の考えとは異なるが許容できる」の部分をできるだけ広げること、また相手と意見が異なる時は、その許容に相当する部分を見つけることが大切であると説いている。

具体的には、「少なくとも○○なら許そう」という具合に、「最低限」や「せめて」などの“許容基準を広げる言葉の使い方”を紹介している。

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