J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

OPINION2 レジリエンス ストレスにしなやかに適応し、 立ち直る力を身につける

仕事で失敗したり、職場の人間関係がうまくいかなかったり、将来に不安を感じたり……。
人は大きなストレスを感じると、落ち込んだり、気持ちがいら立ってしまうことがある。
そんな時、自分の心理状態を速やかに元に戻す力が「レジリエンス」(精神的回復力)だ。
近年、注目の高まるレジリエンスの基本と企業における取り組み方について、レジリエンス・トレーニングの専門家である久世浩司氏に話を聞いた。


久世浩司(くぜ こうじ)氏
ポジティブ サイコロジー スクール 代表
ポジティブ サイコロジー スクール 代表。
慶應義塾大学卒業後、P&Gでの勤務を経て、ポジティブ心理学の実務家を育成する社会人向けスクールを設立。応用ポジティブ心理学準修士課程修了。専門はレジリエンス。企業向けのレジリエンス研修は、NHK「クローズアップ現代」などで取り上げられ、注目された。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』(実業之日本社)、『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』(宝島社)など多数。

[取材・文]=崎原 誠  [写真]=菊池壯太

レジリエンスが求められる理由

「レジリエンス」とは、回復力や復元力という意味で使われる言葉で、心理学や人材育成の分野では「逆境や困難、強いストレスに適応する精神力や心理的なプロセス」のことを指す。ストレスに対して真っ向から立ち向かうのではなく、しなやかに適応し、ストレスを受けた直後には多少落ち込んでも心の傷になるようなダメージは負わず、速やかに回復する能力のことだ。

なぜ、「立ち向かう」のではなく「しなやかに適応する」必要があるのか。それは、現代の環境変化のスピードが昔と比べて格段に速くなっているからだ。形を変えて次々と現れるストレスやプレッシャーに対抗して打ち勝とうとするのではなく、失敗しても立ち直り、うまく適応していくことが求められている。

レジリエンスが注目される背景には、職場のストレスに関する問題意識の高まりもある。2015 年12 月からは、従業員50 人以上の事業場でストレスチェックが義務化された。従業員のストレス度が明らかになると、「ストレスに自律的に対処していく力を持たせたい」と考えるようになるのは、自然な流れだ。

レジリエンスはメンタル不調の予防だけでなく、リーダー育成やグローバル人材育成にも効果がある。組織のリーダーやグローバル人材は、日々、さまざまなストレスにさらされる。また、ストレスに対処するだけではなく、ストレスの高い状況に積極的に挑んでいくことも求められる。逆境にしなやかに適応することで自らを高め、成長し続けることのできる人材の育成は、企業にとって喫緊の課題なのだ。

レジリエンスの3つの力

40 年以上にわたる研究により、レジリエンスの高い人材には、「回復力」「弾力性」「適応力」という3つの特徴が見られることが分かっている。

まず「回復力」は、失敗したりストレスを受けたりした時、直後に落ち込んでも、すぐに立ち直る力だ。「嫌なことも、一晩寝たら忘れる」という人は、回復力が高い。ネガティブな感情を引きずらないので、人に対してイライラしたり怒りの感情を持ったりしても、速やかに気持ちの切り替えができる。

「弾力性」は、人から嫌なことをされたり、傷つくことを言われたとしても、心の傷になるほどのショックを受けることなく、やんわりと跳ね返す性質。「叱られたことがトラウマになり、立ち直れない」というところまで落ち込むことがなく、自分のやるべきことを進めていくことができる。

また「適応力」は、環境や人間関係の変化などに対して、1つの考え方にとらわれず、AがダメならBがあると別の解決策を見つけて見通しを立てる力だ。これがあれば、例えば「この人の部下につくのは嫌だな」と思っても、「将来、自分がリーダーになるうえで貴重な機会」「反面教師にできる」などと、物事を柔軟に捉えることができる。

レジリエンスは鍛えられる

ここで大事なのは、こうした力は、誰にでも備わっているということだ。ただ、ストレスフルな状況や環境変化によって、その力は弱まってしまう。また、物事の捉え方がゆがんでいたり、ネガティブな感情を断ち切る習慣を身につけていないため、レジリエンスを十分に発揮できていない人もいる。しかし、レジリエンスはトレーニングによって鍛えたり存分に発揮したりすることができるようになる。

レジリエンス・トレーニングを開発した欧州の心理学者、イローナ・ボニウェル博士は、レジリエンスを高めるには、大きく2つの要素があるという(図1)。

1つは、「認知の適応性」を身につけることだ。認知の適応性とは、状況に応じて、柔軟に物事の捉え方を変える力である。これをトレーニングすることで、レジリエンスを高めることができる。もう1つが、レジリエンスが高い人が持っている「心理的資源」を培っていくこと。つまり、早く立ち直るのに有益な感情や、サポート体制を充実させるということだ。以下、そのためのポイントを解説しよう。

①認知の適応性を身につける

・思い込みの特徴を知る

人がストレスを感じるプロセスは、①状況→②捉え方→③感情の3つのステップに分けることができる。まず、何らかの状況があり、それに対して、自分自身の解釈(=捉え方)が生じる。そして、その捉え方がきっかけとなり、感情が表れる。

例えば、上司が部下に対してイラついている状況を3つのステップに当てはめてみよう。部下に仕事を命じたら、「友人と約束がある」と断られてしまった。それに対して、上司は「若い社員は仕事を優先するべき」という捉え方をしているから、イラついてしまう。つまり、「イラつく」という感情の背景には、何らかの状況とそれに対する捉え方があるということだ。しかし、この捉え方は、本当に正しい(もしくは必要)だろうか。上司の思い込みによって、多様な人材が活躍しにくくなってはいないだろうか。

不安や怒り、憂鬱感、無力感といったネガティブな感情から回復できない人は、捉え方が思い込みによってゆがんでいないか、自分自身に問い直してみるとよい。そのためには、自分にどういう思い込みの癖があるかを把握しておくことだ。

ネガティブな感情の原因となる思い込みには、図2 に示すような7つの癖がある。犬の名前をつけているのは、「たまたま自分の心の中に犬が住みついてしまっただけ」と気軽に感じてもらうためだ。

先ほどの上司の例は、「正義犬(べき思考)」の思い込みタイプ。自分の期待に沿わない人や状況に対して、「~すべき」と怒りの感情が出てしまう。一方、よく怒られる人の中には、全て自分のせいだと思い込む「謝り犬(自責思考)」タイプの人がいる。一見、謙虚に思えるが、過剰に自分を責めると、立ち直るスピードが遅くなってしまう。

・ストレスの宵越しをしない

思い込みの癖を知ったうえで、それでもネガティブな感情が出てきた場合、どう対処するか。手軽で効果的な方法として「気晴らし」、つまりストレス解消法について説明したい。

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