J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年12月号

OPINION1 アンガーマネジメント 衝動・思考・行動を制御し 思いとリクエストを伝える

「怒りの仕組みを理解し、ポジティブに変換できる」と企業やアスリートが注目する、米国発の感情コントロール・プログラム、アンガーマネジメント。
この考え方を日本に導入した安藤俊介氏は「怒ること自体が問題なのではない」と言う。
上手に怒りと向き合いながら、相手に自分の思いを伝えるコツとは。


安藤俊介(あんどう しゅんすけ)氏
日本アンガーマネジメント協会 代表理事
日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。
1971 年生まれ。2003 年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し、第一人者となる。企業、教育委員会、医療機関などで多数の講演、研修を行う。年間受講者数は2万人超。主な著書に『怒りに負ける人、怒りを生かす人』、『「怒り」のマネジメント術』(共に朝日新聞出版)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『アンガーマネジメント入門』( 朝日新聞出版)。


[取材・文]=佐藤鼓子 [写真]=編集部

人間関係は怒り方次第

怒っている人は好き勝手に感情をぶつけがちだが、怒られたほうのダメージは小さくない。

当協会が行った調査(「怒りの感情が業務に及ぼす影響」に関する調査 2016 年)によれば、怒る上司と怒られる部下とでは、意識が全く違うことが分かった。「これはパワハラである」と感じる割合は、怒る上司では16.7%にとどまるが、怒られる部下では53.8%。単純に言えば3倍以上の意識の違いがある。

怒った後、怒られた後の状況についても興味深い結果がある。62.5%の上司は怒りの感情を数分で切り替えられのに対し、部下は40.6%が「モチベーションが低下した」、25.7%が「相手を避けるようになった」、23.2%が「精神的に不安定になった」と答えたのである。また、1年以上、怒られたことを根に持っている部下は5人に1人という割合だった。怒りを爆発させると人間関係を壊してしまう可能性があるのだ。

ただし、怒りは必ずしも抑えなければいけないわけではない。感情にはそれぞれ役割がある。うれしい気持ちを隠す必要がないように、怒りという感情も、適切に表現することが大切だ。

怒りは「防衛感情」ともいわれる。動物が怒るのは、主に目の前に敵が現れた時。自分や子どもの命を守るため、相手に襲い掛かるか逃げるか、選択を迫られた際に湧き起こる。

まず、危機に遭遇すると、「怒りホルモン」の別名があるノルアドレナリンが放出される。血圧が上昇し、筋肉も緊張する。前方に突進して襲い掛かることも、後方に跳んで逃げることもできる体勢になるのだ。リラックスしていたらとっさに反応できない。

つまり、怒りそのものが悪いのではない。大切なのは、怒りをコントロールすることだ。

怒りと向き合い始めた社会

アンガーマネジメントとは、怒る必要があれば上手に怒り、そうでない場合は怒らずに済ませる技術だ。1970 年代頃の米国で生まれた考え方だが、特に発案者がいるわけではない。家庭内暴力(DV)の加害者や被害者、軽犯罪者向けのプログラムが一般化し、企業研修や青少年教育、夫婦カウンセリング、アスリートのメンタル強化に使われるようになった。

注目のきっかけは、70年代後半~80年代初頭に相次いだドライバーの発砲事件だ。他の車の割り込みや追い越しに腹を立てた運転手が過激な報復に出る「ロードレージ」が社会問題になり、怒りの対処法に関心が集まった。

今日、アンガーマネジメントが注目されている背景としては、常に生産性が追求され、人々が忙しさのあまり余裕を失っていること、テクノロジーの発達により、少々の不便さ、不快さにも我慢できなくなっていることなどが挙げられる。グローバル化と共に、価値観や習慣の異なる人とのコミュニケーションが増えたこともある。

特に日本の場合は、この十数年間、「褒める育成」に傾倒し過ぎた反動が起きているとも言える。ゆとり教育が行われた学校と同様、企業もとかく「褒めて伸ばそう」と努めてきた。褒めることばかりに力を入れ過ぎ、ある時ふと気づくと怒り方を忘れていた、という管理職は多いのではないか。

ちょうどパワハラの概念が広まった時期と重なったこともある。おかげで上司は怒り方が分からず、部下も怒られ慣れていない。叱られて仕事を辞める若手が現れたり、親から電話がかかってきたりして、職場にも混乱が見られる。「褒める育成」の次の手を探していた時、ひとつの手法としてアンガーマネジメントが耳目を集めたのだろう。

単に感情を爆発させるのではなく、互いの人間関係を深め、相手を成長させる怒り方とは―リーダーシップの新たな形を模索する時代が到来している。

成立要件は3つの制御

①反射的に行動せず6 秒待つ

具体的にアンガーマネジメントのポイントを説明しよう。この技術は、「衝動」、「思考」、「行動」の3つをコントロールすることで成り立つ(図1)。

衝動をコントロールするには、かっとした時に余計な言動をしないこと。イラッとしたまま反応すると、人は理性的ではない行動をしがちだ。売り言葉に買い言葉で、怒りを反射的に表現することは避けたほうがよい。

このため、アンガーマネジメントでは、怒りを感じたら6秒数えて待つ「6秒ルール」を設けている。3~ 10 秒、あるいは90 秒などと諸説あるが、理性的に行動できるようになるには、最初の数秒がカギになるのは間違いないところだ。大脳辺縁系で情動が生まれ、前頭葉で理性的に制御しようとするまでにかかる時間は数秒程度といわれている。

深呼吸をしてもいいし、何か好きなことをイメージしたり好きな言葉を唱えたりしてもいい。6秒だけ、怒りから気持ちをそらし、落ち着ける方法を見つけてほしい。

②記録して怒りのパターンを知る

思考のコントロールでは、怒りを爆発させなくて済むよう、不都合な認知を変えるトレーニングを積む。

そもそも怒りの感情とは、出来事を意味づけすることによって生まれる。事実の解釈の仕方を変えれば、怒りをコントロールすることは可能だ。

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