J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年11月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 〝自己成長力〞を高め、事業成果に 直結させる経営フレームワーク

カメラなどのイメージング事業やプリンター、オフィス向け複合機、ソリューションビジネスなどで世界的なシェアを誇るキヤノン。医療機器事業はキヤノンの歴史で2番目に古く、これから大きな展開が期待される事業部である。
今後、事業展開の原動力となるのは、事業目標に直結した一連の業務改革だ。中でも、個々の社員が組織の現状を客観的につかみ対策を講じる部門独自の育成施策が、主体性や組織の自己解決力向上につながるという。
同事業部の仕掛け人に話を聞いた。


キヤノン
医療機器事業部
医療機器事業統括センター所長
西岡 健 (Ken Nishioka)氏
1982年キヤノン入社。複写機の営業、ファクシミリ事業を経て、1987年にキヤノンカナダへ赴任。1992年にはキヤノンUSAへ移り、17年間海外で過ごす。2004年に帰国。キヤノンマーケティングジャパン、大判プリンター事業を経て、2013年より現職。

キヤノン
1937年設立。高級小型写真機の研究を目的とする精機光学研究所の開設が始まり。
以降、先進的な技術力を活かし、カメラなどのイメージング分野、オフィス向け複合機やプリンターといったビジネス分野などで世界的なシェアを誇る。今回取材した医療機器事業部の前身の組織は国産初のX 線間接撮影カメラを開発するなど、国内の医療機器開発をけん引する存在として知られる。
資本金:1747億6200万円(2015 年12月31日現在)、連結売上高:3兆8002 億7100万円(2015年12月期)、従業員数:2万6360名(2015年12月31日現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

事業部を次の成長路線に導く

大手光学機器メーカーのキヤノンといえば、高画質のデジタル一眼レフカメラやビデオカメラなどの画像入力機器、オフィス向け複合機やプリンターといった画像出力機器などを連想することが多いだろう。また、これらの製品や技術を生かしたソリューションやネットワーク開発の印象が強い。だが同社には、この他にも創業期より脈々と続いている事業がある。それが、レントゲン検査で使うX 線撮影機器や眼底カメラなどを扱う医療機器事業部だ。

医療機器事業部医療機器事業統括センター所長の西岡健氏は、次のように話す。

「当事業部はX線撮影機器のデジタル化で他社を先行しましたが、その後厳しい競争環境に置かれています。キヤノンの創業期を支えた医療機器事業部を、何とかキヤノンの次の成長の柱にしたいという思いで、ここまでやってきました」(西岡氏、以下同)

事業復活のカギを握る事業改革の始まりは、同氏が大判プリンター事業で販売推進に携わっていた2013 年にさかのぼる。

時間の止まった部署だった

「立て直しを手伝ってくれないか」

当時、代表取締役副社長 CTOであり医療機器事業部の事業部長を務めていた生駒俊明氏(現・キヤノン特別顧問)から声を掛けられた。

医療機器事業部は、同社ではカメラ事業に次いで2番目に歴史が長いが、事業規模は他の事業部と比べて小さかった。ベテラン社員の比率が高く、メンバーが固定化しており、西岡氏が初めて事業部を訪れた時、他の事業部とは違う組織風土を感じたという。

「よく言えば、同一性・均一性に長け、安定した組織でした。それは裏を返せば没個性、予定調和的であり、保守的な事業運営が行われていたということでしょう」

特に、管理手法の仕組みや業務プロセスが気になった。合理的な基準や客観的なルールを設けずに、社員同士の関係性や経験則で進めるシーンが見受けられたのだ。客観性や合理性よりも、過去の慣習が議論されることなく優先されることも多かった。

西岡氏は強い危機感を覚え、この組織の将来性に不安を感じた。

「メーカーである以上、事業の開発と生産、販売が機能し、このサイクルが循環してこそ、企業の継続的発展につながると考えています。ですから、医療機器部門も本来の流れを取り戻すことができれば成長が期待できると思いました。また組織自体も事業部の課題やテーマを明確にし、実行に移しやすい規模ではないかと感じたのです」

一つの部門で働き続けてきた他の部員たちとは対照的に、過去にさまざまな組織の発展に携わってきたキャリアも、西岡氏の背中を押した。

「私は営業から始まり、カナダ、ニューヨークと17 年間の海外経験を経て、映像事業やキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)、大判プリンターの事業を渡り歩いてきました。多面的な物の見方を要する場面に、これまで多く遭遇してきたのです。ある意味、事業部の中では異端の存在といえるでしょう。ですから、私だからこそ、できることがあると考えました」

改革のカギは“人”である

医療機器事業統括センターの役割は、事業部全体の運営のコントロールである。つまり、事業目標やアクションプラン、また目標達成に向けた環境や仕組みの改善、企画の整備を担うことだった。

加えて、生駒氏からのミッションが2つあった。1つは「財務の立て直し」、もう1つは「組織の健全化」だ。

この2つをクリアするには、さまざまな角度からのアプローチが必要だった。財務管理基盤構築と連結事業運営に則した管理体制改革、さらに西岡氏は、“人材育成”も必要であると考えた。

「仕掛けや仕組みをつくり上げた後、それを実行するのは人です。その時、一人ひとりが目的や意図を理解していなかったり、理解していても行動に結びつけられないままでは、笛吹けども踊らずとなりがちです。ですから、人材育成に取り組むことも欠かせないと思いました」

改革の主役は人である。そのことを過去に体験した。キヤノンUSA在籍中の2000 年前後のことである。

急速なITの普及により、オフィスを取り巻く環境が大きく変わりつつあった。事務機の事業に携わっていた当時、複写機を中心としたハードウエア販売のビジネスモデルも変革を迫られ、ネットワークやソリューションの提供へ、舵を切り始めた頃である。

この変化は商材だけでなく実務にも影響を及ぼした。これまで人の手で行われていた受注管理や日米間の在庫管理などについて、取引先も含めてオンラインで即時的にプロセスを見られるシステムを立ち上げることになったのである。

会社からのオーダーは、システム化による構造改革である。つまり現行従事者の仕事を削減するプロジェクトだったのだ。ただしこのプロジェクトは現行従事者の協力なくしては、成功できなかった。

この旗振り役となった西岡氏は、3つの目標を掲げた。1つは新システムによる米国でのビジネス特許の取得、2つめはキヤノンUSA社長賞の受賞、そして3つめは『キヤノンライフ』(社内報)に掲載されること。300人もの米国人社員たちと共に業務改革を実現させ、全ての目標を達成した。

「この3つの目標は、社員のモチベーションを高める意味で、とても効果がありました。日本人も米国人も同じですね。特に米国人は、目標が明確であればあるほど、より大きなパワーを発揮します」

これらの目標を掲げたのには、大きな理由があった。オンラインシステムの導入に伴い、目の前の仕事を奪われる人たちが存在したのだ。それが、これまでアナログな手法で物流管理を担っていた女性オペレーターたちである。5つの支店で働くローカルスタッフの中には、何十年と同社を支え続けてきた人もいた。彼女たちは、今度はお客さまやディーラーへシステムを案内し普及させるという、言い換えればこれまでの自分たちの仕事の変革を推進する立場となったのである。

「ですから、彼女たちのキャリアを通じて培った能力を別の形で発揮させるための動機づけが必要でした。システムが浸透すれば、社内は効率化が図られ、丁寧な接客により顧客満足度が向上する。実は、新たな販売システムの普及に最も力を尽くしてくれたのは、彼女たちだったのです」

さらに、支店ごとに目標を立てて競わせることで、スタッフたちは懸命になった。今までと違った業務の面白さに開眼し、新たなやりがいを得られたという。

客観的に自覚させる働きかけ

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