J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年09月号

THEORIES リーダーシップ研究の変遷と新潮流

企業・組織内教育におけるリーダーのあるべき像や、育成手法を考えるには、先行研究や、潮流の中での背景や位置づけを知ることが参考になる。
その視点で、これまでの研究と最新の潮流を概観したい。

堀尾志保
日本能率協会マネジメントセンター 研修ラーニング事業本部

■永遠のテーマ“リーダーシップ”

「リーダーシップ」と聞いて、真っ先に思い浮かぶ人物は誰だろうか。キング牧師、マハトマ・ガンディー、それとも、AKB48を率いた高橋みなみだろうか。

時代によりリーダーの代名詞は変わるが、洋の東西を問わず、人々を率いるリーダーの在り方は関心を持たれ続けてきた。本稿では、「最も研究されているが、最も解明が進んでいない領域」ともいわれるリーダーシップ論※1に関し、これまでの研究の大きな転換点と共に、最新の潮流を紹介する。

※1 Bennis & Nanus(1985)

■リーダーシップ研究の転換点

リーダーシップ研究は、本稿で紹介する新潮流を除くと、大きくは5つの流れに区分することができる(図1)※2。5つの流れとは、①特性理論、②行動理論、③条件適合理論、④交換理論、⑤変革型リーダーシップ理論である。

そして、今、新たなリーダーシップ研究の潮流が芽生え始めている。

※2 House & Aditya(1997)

1.識者による偉人伝から始まった特性理論

リーダーシップ研究は、古くは紀元前にまでさかのぼることができる。国を率いる政治家や軍人など、いわゆる偉人と呼ばれるような人々に共通する資質について、思想家や哲学者が自身の見解を述べたものがその最初といえる。

主流を占めていたのは、「優れたリーダーには、共通する生来の特性がある」という考え方だ。例えば、プラトンの国家論では、国を率いる哲人王は誰もがなれるものではなく、最も物事を知り、知恵ある者のみが善き統治者たりうるとし、孔子は『論語』において、生まれながらに徳性を備えた者が理想の君主たりうると論じている。

19世紀に活躍した哲学者カーライルは、『英雄崇拝論』において、かつての英雄たちを例に、リーダーたりうる人物とは、他者に比して抜きん出て優れた特性を有している人物であるとまとめている。

20世紀に入ると、ビネー、シモンら心理学者が知能検査を創案したことをきっかけに、人間の能力差を科学的に測定する動きが始まる。これをきっかけに、リーダーが共通して有するとされてきた特性についても、科学的な手法による検証が始まる。検証が重ねられるほどに明らかになっていったのは当初の予想を裏切るもので、優れたリーダーの要因は、特性だけでは説明できない、というものだった※3。

リーダーシップを特性から検討するアプローチは、こうして終焉を迎える。

※3 Stogdill(1948)

2.リーダーの「行動」に着目した行動理論

次に研究者たちが着目したのは、「行動」だった。おりしも時代は、1940年代から60 年代。世界大戦後、軍や国家だけではなく、産業面の活性化のためにも多くのリーダーが必要とされていた。偉人たちの秘訣を帰納的に分析するだけではなく、リーダー役を任ぜられた多くの人材に、望ましい行動を示す必要に迫られていた。

こうした背景から、この時代にはリーダーの行動に着目した調査が数多くなされ、現在にも通じるリーダーシップ行動の不動の2軸と呼ばれる領域が見いだされている※4。それは「仕事」に関する行動と、「対人」に関する行動だ。

よきリーダーとは、「仕事」と「対人」の両面の行動が優れているというのは、シンプルでかつ納得感が高い。ゆえに、現在でも表現の違いこそあるものの、この2軸からリーダーシップを論じているものは多い。

これら一連の研究の先陣を切ったのは、オハイオ州立大学のシャートルである。行動を測定する膨大な項目を用いた質問表による調査を行い、優れたリーダーに共通する行動として、仕事の枠組みを決める「構造づくり」と、対人面における「配慮」に関する行動の2軸を発見した。ほぼ同時期に行われたハーバード大学やミシガン大学による調査によっても同様の枠組みが発見されている。

このように、「仕事」と「対人」に関する行動の2軸は、当時さまざまな研究者によって導き出され、図2にあるように、その後の研究においても、関連する結果が発見され続けている。

一方、一連の調査では、2軸の行動に秀でたリーダーが高い成果を上げることが多いものの、2軸の行動に優れていれば、いかなる状況においてもうまくいく、ということまでは証明できなかった。この謎を解明すべく、リーダーシップ研究は、新たな舵を切ることになる。

※4 金井、高橋(2004)

3.「状況」に着目した条件適合理論

次に研究者たちが関心を寄せたのは、リーダーを取り巻く「状況」だった。2軸の行動を備えていても、リーダーシップがうまく機能するケースとそうでないケースがあるのは、状況に違いがあるためと考えたのだ。

代表的な理論は、フィードラーによる条件適合理論(コンティンジェンシー理論)※5である。フィードラーは、リーダーシップの効果に影響を与える状況要因として、①メンバーからリーダーが受け入れられている度合い、②業務手順の明確さ、③リーダーの権限の大きさ、を挙げ、この3つが高い状況はリーダーにとって好ましく、逆に低い状況はリーダーにとって厳しい状況だとした。

条件適合理論では、状況の好ましさを規定する要因を提示しただけでなく、各状況下でどのようなリーダーが最も有効に機能するかについても示唆を与えた。リーダーにとって好ましい状況と、逆に厳しい状況では、課題志向型のリーダーが奏功し、好ましさがどちらともいえないような普通の状況下では、メンバーに配慮を示す対人志向型のリーダーが業績を上げることが実証研究の結果、明らかになったのだ。

なお、フィードラーは、リーダーの行動は固定的だと捉えていたため、状況に応じて最適なリーダーを配置すべきだという考えを有していた。

それに対して、状況に応じてリーダーは行動を変えることができ、また変えるべきだと唱えたのは、パス・ゴール理論と、シチュエーショナル・リーダーシップ理論である。これらも状況に着目するという点では、条件適合理論の範疇に含まれるが、リーダーの行動を可変と考える点では、フィードラーの理論と異なっている。例えば、ハーシーとブランチャードによるシチュエーショナル・リーダーシップ理論では、メンバーの発達度に応じて、関わり方を変えていくのが有効なリーダーシップの在り方だとしている 。

以上、「特性理論」「行動理論」「条件適合理論」を概観してきたが、これらのリーダーシップ理論では、状況要因は加味されたものの、主体はあくまでもリーダー個人のみであり、論じられてきたのは、あくまでもリーダー側からメンバー側へ向けた一方向の働きかけ方だけであった。

しかし、本来リーダーシップとは、ある人物に従おうとするメンバーがいてこそ成り立つものである。そこで、リーダーとメンバーとの関係性を双方向から捉える新たな研究が始まった。

※5 Fiedler(1967;1971)

4.「交換関係」に着目した交換理論

社会学者のホーマンズは、「メンバーが、リーダーからの指示や提案に服従する」関係が成り立つためには、「貢献の対価として、リーダーから何かしら価値ある社会的報酬を得られるだろう」とメンバーが認識してこそ機能するとし、リーダーシップを社会的な交換関係の視点から捉えた※6。

さらに、グレーンらによるリーダー・メンバー交換(LMX)理論※7では、こうしたリーダーとメンバーの間の交換関係がメンバー全員に一律でないことに着目し、個々のメンバーとリーダーとの関係性により、交換に差が生じていることを明らかにした。

交換の差は、個々のメンバーが、リーダーと関係性がよいイングループ(内集団)に属するか、リーダーとの関係性があまりよくないアウトグループ(外集団)に属するかによって生じる。リーダーとメンバーの間の関係性の認識は、リーダー側からの評価とメンバー側からの両方向から確認されたが、関係性の認識はおおよそ一致していた。

両者の関係性がよい場合には、リーダーからメンバーへの金銭的な報酬やリソースの提供、心理的報酬である賞賛などの対価がはずみ、逆に関係性が悪い場合には、メンバーが全く同じ行動を取っていても貢献に対する評価や対価が低くなることが実証されている。

ここで注目すべき点は、関係性の認識の良し悪しが、メンバーがもたらす業績や組織コミットメントとも高い関連を示している点である※8。

リーダーとメンバー間の関係性の認識は、ごく初期段階の印象に規定される部分が大きいとされているが、相互のちょっとしたやりとりがもとで、自分はアウトグループだと認識するメンバーが増えてしまうと、その分リーダーがメンバーから引き出せる貢献が小さくなってしまうのである。

リーダーは、日頃の何気ないやりとりからアウトグループをつくってしまっていないかを振り返り、イングループであるとメンバーに認識してもらえる交流を心掛ける必要があるだろう。

※6 Homans(1974)

※7 Dansereau,Graen&Haga(1975)

※8 Gerstner & Day(1997)

5.変革型リーダーシップ理論

その後、1980 年代に入り、アメリカ経済は“、双子の赤字”と呼ばれる膨大な貿易赤字と財政赤字に直面する。屋台骨であった自動車や鉄鋼業界の多くの企業が日本企業の躍進に押され、経営環境がそれまでとは激変する。従来のように、決められたことを決められたやり方で行うことをメンバーに求めるだけでは、持続的な成長が見込めなくなっていた。

ピューリッツァー賞を受賞した歴史家のバーンズは、それまでの、平時の時代に機能した交換型リーダーシップとは一線を画する、メンバーの意識から変えていく変革型リーダーシップの必要性を訴えた※9。同じ時期に、ニューヨーク州立大学のバスは、変革型リーダーシップの概念を整理し※ 10、その後、コンガーらによるカリスマ型リーダーシップ※ 11 や、ベニスらによるビジョナリー・リーダーシップ※ 12 など、人々の前面に立って組織変革を率いていく、強いリーダーの重要性を論じた理論が次々と提唱された。

代表的なものとしては、ハーバード大学のコッターによる変革型リーダーシップ論※ 13 が挙げられるだろう。

コッターの理論の特徴的な点は、従前の平時の時の人々の束ね方を「マネジメント」、変革を推進する新たな率い方を「リーダーシップ」と呼び、2つを区分して捉えている点である。図3は、コッターによるマネジメントとリーダーシップの違いを簡略化したものである。マネジメントは安定を指向しており、リーダーシップは変革を指向しているというと分かりやすいだろうか。

当時の多くのアメリカ企業においては、現状を打開する変革が強く求められていたため、変革を指向するリーダーシップの重要性が強調された。ただ、変革をもたらした後には、ここでいうマネジメントにあたる安定化や効率化も必ず必要となる。そのため、フェーズに応じて両方を使い分けることが重要である。また、ここでのマネジメントとリーダーシップとは、あくまでもコッターの理論に基づくものであり、この定義が全ての場合に当てはまるわけではない、ということを付記しておく。

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