J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

OPINION2 日本の制度のここがヘン?! 「男性の働き方」を見直せば 男女共に活躍できる

「仕事の内容、勤務地が限定されていないうえ、長時間残業も辞せず」
実は、女性のキャリアを阻むのは、男性社員の滅私奉公的な働き方だった―。
日本企業の制度に潜む根本的な問題とは? また、具体的な解決策とは?
海外との比較から、家族社会学の専門家、筒井淳也氏が語った。


筒井淳也(つつい じゅんや) 氏
立命館大学 産業社会学部 教授

1970 年、福岡県生まれ。一橋大学社会学部卒業、同大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。専門は家族社会学、計量社会学。
著書に『仕事と家族』(中央公論新社)、『結婚と家族のこれから』(光文社)、『親密性の社会学』(世界思想社)

〔取材・文〕=竹林篤美 〔写真〕=編集部

男性の働き方が問題

子どもを持つと、多くの女性は不本意ながらマミートラック(26ページ参照)に乗らざるを得ない。つまり産休・育休前と比べて残業などの負担が少なく、責任も軽い役職に就く。出産前のように男性同様の働き方をし、男性と同じだけの労働時間をこなすことが難しくなるからだ。

その最大の理由は日本企業が「男性の働き方」に女性を引き込もうとしてきたからである。

男女雇用機会均等法で提唱された働き方改革の目玉は、男女差別の撤廃である。従来の男性の仕事領域への、女性の参入を狙ったものだ。とはいえ、そのままでは育児期の女性の負担が大きいので、1992年に育児休業法が施行され、1995年には全事業所に適用された。ところが、男性主導の働き方自体は変わらなかったため、育児休業から復職した女性の多くは、結局キャリアを手放すことになった。

こうした問題は日本特有の現象ではなく、かつてのヨーロッパも似たような状況に陥っていた。ただし、彼らは男性の働き方を改めることによって問題を解決した。この前例を踏まえるなら、男性の働き方が変わっていない日本では、育児支援の充実だけでは女性が活躍するのは困難だろう。求められるのは、現状のスタンダードな働き方(男性的な働き方)を、女性も働きやすいようにシフトしていくことだ。

そこで、以下からは女性活躍が進むヨーロッパ、さらにアメリカとの比較から、日本における働き方を見ていこう。

欧米と日本̶働き方に違い

日本企業に定着している男性の働き方の特徴は、“無限定性”にある。すなわち勤務内容、勤務時間、勤務地などが限定されておらず、労働者は企業の命令に従わなければならない。これは欧米とは全く異なる制度である。

欧米では場合によっては成果主義を適用しているものの、基本的に職務給制度(職務内容に応じて賃金を決定する制度)を採用している。

職務給制度とは、一言で言えば、仕事に対して報酬が支払われる制度だ。この場合の仕事とは成果ではなく、特定の職務に就いていることを指す。職務、つまり仕事の責任の範囲が明確化されているため、自分の専門スキル、知識を活かしながら、経験を積むことが可能だ。

したがって、たとえ一時的に仕事を辞めたとしても、フルタイムで再就職することは日本より容易といえる。勤務地も基本的に定められているため稀ではあるが、例えば妻が遠くに転勤することになったとしても、夫がその赴任先で働き口を見つけ、家族で移住する―という方法もとれるだろう。

職務給制度を適用している一般的な従業員の場合は、労働時間についても、枠がはめられていることが多い。EUでは残業を含み週48時間が上限である。中でもフランスは週35時間労働が基本だ。管理職はヨーロッパもアメリカも労働時間が長くなりがちだが、後述するように、労働時間帯は自分の裁量で調整できることが多い。

日本ではどうか。従来は職務内容ではなく、職務遂行能力に応じて賃金を決定する職能給制度を採ってきた。実際には、年功制、職能資格制度(能力主義)、成果主義の3つの要素で賃金が決まるが、前述のような無限定的な男性の働き方は、まさにこの制度によって形づくられたと言って良い。

まず男性社員たちは、転勤も受け入れつつ、長期間にわたり勤続することが求められた。背景には、職務能力の評価が難しいため、年功制に極めて近い制度になっている現実がある。

また、職務内容が無限定なので、チーム単位の仕事では個人の責任の範囲が曖昧になる。その結果、長時間労働が常態化したのである。子育て中の女性には、同じような働き方が難しく、先述のようにキャリアをあきらめざるを得なかったわけだ。

職務給制度は導入できるか

では、男性の働き方を変え、女性活躍を推進するために、日本企業に職務給制度を導入することはできるのだろうか。

今すぐ実現するのは恐らく困難だろう。企業はこれまで自社やその系列会社内で配置転換を行うことで、労働力を調整してきたが、職務に応じた限定的な働き方が基本ルールになれば、それがしづらくなる。勤続年数に応じた自動的な昇給は避けられるものの、いきなり基幹社員に適用すれば、混乱が生じそうだ。

若年者の大量失業にもつながりかねない。職務給制度は同一労働同一賃金(同じ価値を持つ労働に対し、性別・年齢・人種などに関わりなく同額賃金を支払うという原則)を前提としている。同じ賃金を支払うのであれば、経験のある人材を選びたい、と考える採用担当者は増えるのではないか。日本の大企業は新卒一括採用を基本としてきただけに、そのインパクトはかなり大きそうだ。

実際、海外でもキャリアを積んだ人材に比べ、未経験の若者は雇用不安にさらされやすい。アメリカでは、リーマンショック以後、就職できずに地元に帰る若者が増え、「ブーメラン世代」などと呼ばれているそうだ。職務給制度もけっして万能薬ではないのである。

自由に働ける仕組みが必要

職務給制度の導入が難しいとなれば、どんな解決法があるのだろうか。提案したいのは2つの方法だ。

第一に、男性の無限定な働き方によって根づいた、長時間労働の改善である。日本では、子育ての負担が女性より少なく、労働時間の多い男性に対し、より大きな責任が課せられている。逆に言えば、女性である限り、責任ある仕事を任されないということだ。残業そのものを減らすことにより、こうした状況を変える必要があるだろう。

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