J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり!  第36回(前編) “答えを与えない指導”が考える人材を育てる! 世界で活躍するサッカー選手は いかにして生まれるのか?

ガンバ大阪でコーチ育成に携わる上野山信行氏は、宮本恒靖、稲本潤一、安田理大、宇佐美貴史ら世界で活躍する多くのサッカー選手をユース時代から育てたサッカー指導者だ。
上野山氏の長年来の知己、ヤフーの本間浩輔氏は、“一流選手を育てる極意”には企業における人材育成に通ずる点が多い、と語る。上野山氏、本間氏、そして中原氏のスペシャル鼎談を2回に分けてお届けしよう。

スペシャル鼎談

本間浩輔氏
1968 年生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、スポーツ・ナビゲーション(サイト名:スポーツ・ナビ、現ワイズ・スポーツ)の創業に参画する。
2002年、同社がヤフーに傘下入りした後は、ヤフー・スポーツのプロデューサー、執行役員ピープル・デベロップメント統括本部長などを経て、16 年4月より現職。

上野山信行氏
1957年生まれ。76 年からヤンマーディーゼルサッカー部、86年現役引退。92年ガンバ大阪ユースの監督に就任。強化部長、育成担当部長、取締役育成・普及部長などを経て2009年Jリーグ技術委員長に就任。14年から現職。宮本恒靖、稲本潤一など育てた選手の多くが日本代表に選ばれている。

中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog: http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID: nakaharajun

[取材・文] = 井上 佐保子 [写真] = 小町 直

問いかけて考えさせる

中原 淳氏(以下、中原)

僕は体育が苦手だったせいか、スポーツの世界に対して、根性や精神論ばかりで「言葉がない世界」というイメージを強く持っていました。ところが、本間さんから薦められた上野山さんのご著書『日本のメッシの育て方』(経済界)を読んで衝撃を受け、そのイメージが大きく変わりました。上野山さんの選手育成は、自分が取り組んでいる人材育成の世界にかなり近いように感じています。ですから、今日はお話を伺えることを楽しみにしておりました。まず、本間さんは、いつ上野山さんとお知り合いになったのですか。

本間浩輔氏(以下、本間)

初めて上野山さんとお会いしたのは10年近く前のことです。当時、現ヤフー傘下にある会社が運営していた、スポーツ総合サイト「スポーツ・ナビ」の仕事をしていたのがご縁になりました。その後、Jリーグの技術委員長をなさっていた上野山さんのコーチ研修で講師を務めさせていただいたこともあります。

人材育成の視点から見ると、上野山さんの指導は非常に興味深いものがあります。一言二言コメントするだけで子どもたちのプレーが良くなるだけでなく、顔つきまでもみるみる変わり、熱心に練習し始めたりするのです。

中原

上野山さんは具体的にどのように指導されているのですか?

上野山 信行氏(以下、上野山)

一般的にサッカーの指導法にはプレーを止めず、流しながら行う「シンクロ」、プレーをいったん止めて教える「フリーズ」という方法があります。

私は、止める指導が効果的と判断した場合は、ためらわずフリーズをします。基本的なプレーを疎かにしたり、成功したりした時、選手がプレーを忘れないうちにフィードバックしたい場合などです。

例えば、「今どういう動きをした?

練習の意図はこうだけど、どうしてこうやったの?」と聞きます。答えが返ってきたら、「失敗してしまったけど、どうしたらいいと思う?」とまた尋ねる。「こうします」という答えが出たら、「じゃ、やってごらん」と行動に移させます。

本間

この方法、一般的ではないんですよ。多くの指導者は「こら、またミスしたぞ!」と一方的に叱るだけです。

中原

なるほど、叱るだけで考えさせることをしないんですね。上野山さんは、とにかく問いかけて、選手自身の頭で考えさせることを重視なさっていますが、なぜですか?

上野山

サッカーが上達するということはプレーが改善する、つまり行動が変化するということです。僕は考え方が変わらないと行動は変わらないと思っています。考え方を変えるためには、やはりこちらが質問をすることによって考えさせる指導方法がいいと。

否定されると言葉を失う

中原

子どもって問いかければ、きちんと話せますか?

上野山

問いかけて考えさせる、という指導法は13 歳頃からスタートします。ある程度、自分の考えを説明できるようになっていい年頃ですが、最初はもう全然話せませんね。そこには「先生が話し、生徒は聞くだけ」という学校教育の影響もあるように思います。そこで私は、まずは話せたこと自体を認めてあげて、「良かったよ」と褒めるようにしています。すると、徐々に言葉が出てくるようになります。

中原

子どもが自分で自分のことを言葉にできるようになるには、時間がかかると思うのですが。

上野山

かかりますよね。ですから、言葉になるまで辛抱強く待ってあげることが大事です。また、“5W1H”で具体的に話すよう指導しています。日本人選手は大人でも「海外に行ってどうだった?」と聞かれると、「いい経験をしてきました」などと答えます。そんな時、私は「どんな経験をしたの?」「それは君に何をもたらしたの?」と、突っ込みます。具体的な言葉を引き出すようにしないと、選手たちの頭が回っていきません。

中原

同じようなことはビジネスの分野でもありますね。講演や研修の後の感想が、「刺激を受けました」「目からウロコでした」で終わってしまったりします。思考停止するのですね。ところで、子どもに問いかけ続けると、だんだん話すようになりますか?

上野山

ええ。逆に自分から進んで話しにくるようになります。たぶん、子どもたちは話すことをずっと否定されてきたんですよ。親も自分の面子を重視して「他人の前で変なこと言うのは恥ずかしいからやめなさい」などと言いますから。

本間

子どもの話に耳を貸さないコーチは多いのでは。例えばシュートミスした時、「お前、なんでミスしたんだ?」と聞き、「足が一歩前に出なかった」など子どもが自分なりの言葉で答えても、「言い訳するな、気合いが足らんからだろう!」と決めつける。結局、「グラウンド10周走れ」「はい」といったやり取りになってしまうのです。

中原

「なぜ?」と尋ねているのに、答えると「言い訳だ」と言われたら何も言えなくなりますね。

上野山

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