J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

CASE 3 三洋化成工業 チャレンジ精神醸成と社内外へ視野を広げる 気づきを与える数々の仕組みで 優秀な研究者を育てる

パフォーマンス・ケミカルスメーカーの三洋化成工業では、「優秀な研究者」のロールモデルを示したり、6年目成果発表会で自身のレベルを意識させたり、経営層や部門を越えた気楽な対話の場を積極的に設けたりすることで、先のキャリアを考えさせ、社内外へ視野を広げさせている。

前田浩平氏
取締役 兼 常務執行役員 研究部門担当

三洋化成工業
1949 年に界面活性剤メーカー「三洋油脂工業」として創業、1963年社名変更。各種の高分子薬剤や樹脂、特殊化学品などを開発し技術領域を広げてきた。紙おむつの素材となる高吸水性樹脂を1978 年に世界で初めて商業生産し始めた、同素材の草分け。
資本金:130 億5100万円、連結売上高:1670 億円、従業員数:1979名(関係会社への出向者含む。いずれも2015年3月現在)

[取材・文]=渡辺清乃、[写真]=編集部

● 企業概要 技術融合が価値を生む

京都に本社を構える三洋化成工業。組成ではなく機能や性能に重点をおいたパフォーマンス・ケミカルスのメーカーだ。「洗浄機能」「分散機能」「吸水・保水機能」など、製品が提供する「働き」が売りである。代表的なものは界面活性剤や高吸水性樹脂で、身近なところではシャンプーや紙おむつなどに使われる。他にも、自動車、電気電子、繊維など幅広い産業に約3000 種の製品を提供する。

そうした同社の強みは「技術融合」。例えば、ある顧客のニーズから生まれた製品に別部署の技術を融合させ、これを新たなシーズにして異なる分野の顧客のニーズに対応する新製品を開発する。多様な業界と関わりを持つ強みをいかんなく発揮し、付加価値を生み続けるのだ。同社ではそれを「ニーシーズ指向」(ニーズとシーズをさまざまに掛合・融合させる)と呼び、多角的なアプローチに挑み続けている。

ちなみに、R&D人材は全社員の30%で、毎年売上高の5%をR&D活動に充てていることからも、R&Dを重視する思いが伝わる。「R&D人材の育成は、『ニーシーズ指向』の実現がゴール」と語るのは研究部門担当役員の前田浩平氏だ。その考え方と取り組みを聞いた。

● 育成の戦略と課題 果敢に挑戦する人を育てたい

「ニーシーズ指向」を実現するには、自身が担当する分野だけではなく別部署が持つ技術にも精通する必要がある。そのため、同社では頻繁なジョブローテーションを行っている。

ニーシーズ指向に並び、よく謳われるのが、自主性を象徴する「チャレンジ」という言葉だ。「“人”中心の経営」「モットーは“おもしろ、はげしく”」を掲げ、社長の安藤孝夫氏も自ら「宣言しないで成功した人より、宣言して失敗した人を評価する」と檄を飛ばす。

人材育成で感じる課題は何だろうか。「若い人は異動したがらず、チャレンジも躊躇する」と前田氏。

「私見ですが、ここ10 年ほどで、ガツガツやるというよりは、目立たずチームプレーを重視する研究者が増えてきたように思います。『そろそろ異動はどうだい?』と声を掛けても『今の部署が楽しくて』『この仕事にキリがついてから』と、次の展開に足踏みする傾向があります。前に出る態度と思いを育てる仕組みが必要だと感じています」(前田氏、以下同)

自社の強みに合わせた「求めるR&D人材」と現実の課題。そのギャップを解決する施策を進めている()。

● 具体策1 研究員も顧客と直接会う

「ニーシーズ指向」は、「顧客と共に生み出すもの」といってもいい。だからこそ、研究者も顧客の元に足を運ぶのが鉄則だという。

「ニーズがありそうなら、営業と一緒に出掛けるのが社内ルールです。しかも会いやすい人ではなく『キーパーソンと2回会う』と決めています。キーパーソンとは、その技術を採用するかジャッジできる人です」

ここで研究者に問われるのは、以下の3つだ。

①真のニーズを発掘する力

②お客様に気に入られる人間力

③担当分野だけではない周辺技術の知識

「真のニーズを発掘する」とは、顧客の話を鵜呑みにしないことでもある。例えば「これまでより軽い製品を」と言われても、その背景にはどのような事情があるのかを研究者自身がつかまなければならない。目的は軽量化なのかコストダウンなのか、はたまた比重はそのままで薄くして使いたいのか……それにより提案が変わるからだ。そのためには、「顧客に気に入られる人間力」、すなわち「この人にならもっと深いところまで話そう」と思ってもらう必要がある。正直さやクイックレスポンス、信頼される言葉遣いや知識も不可欠だ。

「とにかくラボでじっとしていてはダメだと痛感してほしいと思います。

多くの化学会社の中でも、界面活性剤、樹脂添加剤、ウレタン材料など複数の技術を持つ会社は他にはありません。だから当社ならではの提案ができる、ということに、さまざまなお客様とお話ししたり、仕事をしたりする中で気づいてほしいのです」

● 具体策2 ロールモデルを見える化

●2つの表彰制度

また、活発に行われているのが、R&D人材を対象にした「表彰制度」だ。例えば、優れた研究の特許を表彰する「インベンター・オブ・ザ・イヤー」がある。発表会兼表彰式には社長も参加し、受賞者は写真つき賞状を研究所の玄関に飾って称えられる(写真)。

同じく年に1回行われる「R&D賞」は、R&D活動として面白いもの、ユニークな方法で問題解決した事例を表彰するものだ。こちらも予備選考のうえ、発表会と表彰式が行われる。

これらの表彰制度に関して、前田氏は「研究者として目標となるロールモデルを見せるのが目的」と話す。特許もR&D活動も、すぐビジネスにつながるとは限らない。ただし「優秀な研究者」とはどんな人なのかを「見える化」することが大切なのだ。

この背景には、数字で分かる営業とは違い、研究者は仕事が見えにくい、ということがある。

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