J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

CASE 1 日立国際電気 施策の“合わせ技”で課題に挑む “つなげる人”を育てる 業務直結型4施策

日立国際電気では、“つなげる人”をキーワードに、技術人財の育成に向け、4つの施策を打ち出す。
実施に際しては、人財戦略部が現場に入り込み現場と協働する。
市場動向と人員構成の課題を踏まえた施策とは。

森 邦夫氏
人事総務本部 人財戦略部 主管

日立国際電気
2000年に日立グループ3社(国際電気、日立電子、八木アンテナ)が合併して誕生(設立は1949年)。通信、映像、半導体製造装置関連事業を手掛け、社会インフラの整備に貢献している。「幸福で安心・安全な社会を実現すべく、優れた技術で価値を創造し未来を切り拓きます。」が企業理念。
資本金:100 億5800万円(2015年3月末現在)、連結売上高:1836億3200万円(2015年3月期)、連結従業員数:4943名(2015年3月末現在)

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=瀧川美里

● 背景1 ビジネスで起きる現象の見定め

映像・無線システム、半導体製造装置の大手、日立国際電気。モバイル端末の送受信システムをはじめ、放送カメラやセキュリティカメラの映像技術、半導体製造装置の開発など、社会インフラを支える存在だ。

当然、高度なテクノロジーが同社の屋台骨となるわけだが、それだけでは激しい競争を勝ち抜くことはできない。人事総務本部人財戦略部主管の森邦夫氏も、同社を取り巻く事業環境の厳しさを痛感している。

「国内外の競争相手の増加により、私たちの事業領域も価格競争の波にのまれつつあります。そのため、グローバル化や新たな市場の開拓に向けて、コストダウンや開発のスピードアップは不可欠です」

また、顧客のニーズは複雑化・多様化し、真に必要なものの見極めが難しい。さらに、社外のステークホルダーに対するさまざまな対応が、ビジネスを難しくしている。

外部環境の変化だけではない。業界として共通の課題である人員構成のゆがみも問題である。

1 )若手人財の不足と知的財産の壁

「一般的な電機業界の人員構成は、30 代は40 代より少なく、20 代は30 代より少ないといわれています」(森氏、以下同)

バブル経済崩壊後、多くの企業は業績が低迷し、新卒採用を抑える時期があった。

「その結果、一部の製品や技術は取引先と協力しながら開発する比重が増しました。その際、知的財産の対応が壁となりました。機密保持の観点から、当社も取引先もブラックボックスを前提に仕事を進めます。さらに双方の拠点間の距離もあると、コミュニケーションの難しさも増します」

2 )求められるインターフェース力

IoT(Internet of Things)に代表されるように、情報技術はまさにインターフェース(橋渡し)がカギとなる。その際、対象物の全体像を捉え、各要素の因果関係を認識する力が必要だ。さらに先述の通り、外部との関係を構築しながら開発する時代である。よって技術者にインターフェースする力が求められる。

こうした背景から、将来の技術人財を考える際、図1の通り、“つなげる人”をキーワードとしている。

● 背景2 細分化された専門領域の弊害

2)の通り、今後の技術開発は“橋渡し”がカギとなる。しかし、技術者の技量はそれとは相反する様相を見せる。

3 )技術・知識の細分化

技術の複雑高度化に伴い、技術者の専門領域は細分化している。

「専門性の高い技術者は多数います。しかし、その知識や技術は製品全体の一部分に過ぎず、全体像を理解して語れる人財は、特に若手には少ないです」

若手技術者の技量が断片的になってしまう理由は多岐にわたるという。特に以前と比べ、モノづくりにおいて、全体を把握する機会の減少という影響は大きいと、森氏は指摘する。

「50 代以上のベテラン技術者は、1つの製品をまるごと自分の手でつくり上げ、一連の流れを理解する経験を若いうちにしています。対する若手は、学生時代の研究ひとつとってもテーマがかなり細分化されています。実務でも、最初から最後まで全体を1人でやり遂げるような機会はなかなかないのが実状です」

これでは全体をつかむことはおろか、技術と技術の橋渡し、融合も難しい。一方で、冒頭に示したコスト削減とスピードアップへの対応という難題も、業務の展開に大きな影響を及ぼす。

「経験の浅い技術者を統括業務にアサインさせるのには、かなりのリスクを伴います。そのため、ベテラン技術者がその役割を担わざるを得ません。さらに組織に若手が少ないので、ベテランはプレーヤーも兼任します。非常に多忙になるわけです。さらに、もともと技術者はモノづくりを愛する人間です。どうしても、マネジメントや後輩の育成は後回しになる傾向があります」

4 )技術者の特徴

森氏によると、技術者はプライドがあり完璧を求める傾向があるため、複雑な技術の集合体である製品開発に対して、夢よりも自信のなさがうかがえるという。また、自ら発信したり周囲をリードしたりするのを苦手と思う人も少なくない。そのため、本来高い潜在力を持っているにも関わらず、発揮しきれずにいるのではないかという。

技術者を取り巻く環境は厳しい状況にあるのだ。

● 方針 4施策の合わせ技

そうした中、同社では人財戦略部と現場が連携して人財育成施策を推進しようとしている。その体制は図2の通りであり、“マネジメント”や“モノづくり・品質保証”など、現場業務に関連して設けた分科会についても、人財戦略部が関わる体制をとっている。施策という面では、特に図1の4つに注力することをめざしてきた。

「全ての課題を解消できる、万能な教育など存在しません。施策のメリットを生かせるよう、“誰が”“いつ”“何を”のベストを見極め、合わせ技にして複雑な課題の解決の一助にしていこうと考えています」

また、座学型研修の数をいたずらに増やさない方針だ。なぜなのか。

「一人ひとりに対し“かゆいところに手が届く”ケアをすることがポイントであり、単発で、かつニーズを最大公約数的にカバーするような研修では啓発に留まってしまう。特に技術者は自身の課題への克服意欲が高いものです。より個々人が“腹落ち”できる仕掛けが大切なのです」

それぞれの施策を見ていこう。

● 施策1 新規事業立案

「新規事業立案」とは、事業部の枠を越え、新たな事業の柱を生み出す経験を得るプロジェクト型研修だ。対象者は本部長や部長。将来を期待されているクラスである。

「当社はこれまで現在の事業を中心に成長を遂げてきました。ですが、これからの人財には“、新しい事業を生み出す経験が必須”という経営幹部の言葉を受けて始めました」

受講者3名でチームをつくり、7カ月かけて新規事業のアイデア出しから実行計画の立案までを行う。実施にあたっては受講者が本気になって取り組めるように、さまざまな仕組みやサポートを設けた。

例えば、受講者たちの事業領域や取引先・市場からできる限り離れた分野を「新規事業」と定義し、外部との“インターフェース”が必須となるように仕向けたり、各チームにオブザーバーとして外部のコンサルタントや知的財産部門の社員を配置したりといった具合だ。

「外部への打診のフォローは特に気をつかいました。受講者の多くは、限られた人たちとの間で仕事をしています。ベテランにも関わらず面識のない人とのやりとりに抵抗を感じ、電話をかけるのを躊躇する人もいます。しかし“つなげる人”になるには乗り越える壁であり、キーパーソンを紹介したり、連絡をサポートしたりと配慮しました」

もともと技術のプロフェッショナルたちだ。話し合いで最初のうちはギクシャクしていても、驚くべきアイデアを打ち出してくる。

「製品と技術を1対1対応で考える人には厳しい研修ですが、ある技術がどんな機能を発するか、と考える人は面白さを感じるようです」

研修では経営陣への提案が待っている。これまで14件の提案に対し、9件が承認されたという。

● 施策2 プロジェクトリーダー育成

OPT(On the Project Training)と呼ばれ、事業部で実際に進めているプロジェクトを通じ、リーダーを育成するものだ。対象者はプロジェクトリーダーを務める技師や課長クラスで、チーム参加型のロングランの研修である。人財戦略部や外部コンサルタントによる指導を通じて、受注から出荷までの一連の流れにおいてプロジェクトマネジメントを遂行できるリーダーとチームをつくり上げる。

「プロジェクトでは、コストや納期の点で今までにない課題に直面するシーンも多く、リーダーはコンサルタントや我々人財戦略部の助言を真剣に聞いてくれます」

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