J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

OPINION3 イノベーターを生む組織能力の向上 技術者が自由にチャレンジし 切磋琢磨する場づくりが鍵

今、切実に求められる、新しい価値を生み出す人材。
そうしたイノベーターを育むには、一人ひとりを見て接する必要がある。
また、彼らが定着し力を発揮する組織づくりも不可欠だ。
イノベーションが次々と生まれる、組織能力の高め方とは。

鬼束智昭(おにづか ともあき)氏
電気通信大学経営工学科卒業後、1991 年、日本能率協会コンサルティング(JMAC)入社。以来一貫して製造業のR&Dマネジメント領域の改革コンサルティングを担当。主に新事業立案、研究開発プロセス改革、R&D組織革新、イノベーションを起こす組織や人材に関する支援を展開。共著に、『研究開発テーマの評価法とGo/Stop判断の基準』『ボトムアップ研究 その仕掛けと工夫』(技術情報協会)。

[取材・文]=道添 進 [写真]=編集部

戦略と組織の両輪

今、多くの日本企業のR&D部門は、「既存の延長線上の改善・改良」と、「全く新しいビジネスや価値の創出」という、異なる2つのことを求められ、非常に困難な状況にある。そうした中、R&D 機能を発展させていくうえで必要なのは、「R&D戦略」と「R&D組織」の両面を磨いていく仕掛けである。

本稿では後者「R&D 組織」に焦点を当て、イノベーターを生むR&D部門の人材育成と組織能力強化のポイントを整理する。

イノベーターが育たない理由

まず、R&D部門の責任者が抱えている今日の最大の課題は、冒頭に述べた「全く新しいビジネスや価値の創出」ができるイノベーターを育成することである。

しかし、日本のR&D人材の一般的な特性として、現状の改善・改良は得意だが、ターゲットや目標が明確でない新しいものを生み出すという課題は苦手な人が多い。それは従前、自ら課題を描くというトレーニングがなされてこなかったためだ。

新しいものを生み出すには、保持しておくべき能力がある。1は弊社グループが主催したある勉強会で、参加企業20 社とイノベーターの特性についてディスカッションした結果をまとめたものだ。「卓越した専門領域を持っている」「論理的思考力」という項目はもちろん挙がるが、「周囲を巻き込むことができる」「コミュニケーション能力が高い」といった、ヒューマンスキルを象徴する項目も挙がっている。

しかし、実際に今行われているR&D人材(技術者)の育成体系についてもお聞きしたところ、図2の上部分̶固有技術や専門技術、そして事業化推進スキルやマネジメントスキルの教育は比較的行われていたが、ヒューマンスキルに至っては、必要だとは認識されつつも、ほとんど行われていなかった。これではイノベーターは生まれにくいだろう。育成メニューをつけ足す必要がありそうである。

必要なのは“砂場”

勉強会ではイノベーターの育て方についても検討したが、図1を受けて「イノベーターの特性は、“育てる”ものではない。本来、持っているものをいかに発揮させ、伸ばすかだ」という意見も多く挙がった。

こうした資質を引き出すために必要なのは、幼少時の「砂場」のような、“自由だが見守られているチャレンジの場”だと考える。砂場には囲いがなく、何をやっているか周りからよく見える。親は遠巻きに眺めており、管理したり口出ししたくなったとしても、そこはぐっとこらえる。とはいえ、ほったらかしにはしない。つまらなそうにしていたら、「トンネルでも掘ってみたら」などと声を掛けるのもいい。

ただ、現状では多くのR&D 部門の職場が、他部門と同様、半年や1年という短期で成果を求める目標管理を実施している。これでは誰もチャレンジしなくなる。今、革新的な技術は、10年、20 年を経てようやく日の目を見たものが多いにも関わらず、である。

またキャリアパスの面では、多くの企業で複線型人事を採用している。40 歳、早いところでは30 歳ほどで、専門職をめざすのか、マネジメント職になっていくのかの線引きをしている。どちらかで高みをめざすことが望まれるが、専門職のトップであるフェローのような役職まで上りつめるのは、ノーベル賞をとるような業界トップの技術者といわれ、なかなか狭き門。努力し続けられる人と、そこそこで満足する人が出てしまうだろう。

これらの打開策として、あまり目覚ましい成果が出せていなくても、また失敗をしたとしても評価・処遇にあまり差をつけない企業も出てきた。短期で成果を出すことにこだわらず、時間がかかっても革新的な技術開発にチャレンジしてもらうためだ。

組織能力を高める施策

こうした一人ひとりの育成やキャリア開発と並行し、R&D 組織の強化もまた、イノベーターや新事業を生む環境づくりに非常に重要である。革新領域へと組織能力を高めるためには、3つの要素が不可欠だ(図3)。

①トップの変革リーダーシップ

何かを変えようとする際、CTO(最高技術責任者)なり、研究所長なりが、どういう方向をめざしていくのかをメッセージとして現場に発信しなければならない。これはどの部門においても非常に大事だが、とりわけR&Dにおいては、技術者のハートに刺さる言葉で語られるべきだろう。

②トップと現場の創発関係

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