J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

OPINION1 戦略的に人数を把握し育成・獲得を プロデューサー的 イノベーション人材の育て方

1990 年代より、欧米先進技術の導入から独創技術の自主開発に転換した我が国の研究開発(R&D)。
今、研究開発を支えるには、どのような人材が求められているのか。
彼らのモチベーションを高め、育成する人材マネジメントはどうあるべきなのだろうか。

福谷正信(ふくたに まさのぶ)氏
1948 年生まれ。1971 年、東京理科大学工学部経営工学科卒業、1973 年3月、慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。同年4月から2001年まで日本生産性本部に勤務。2001年、立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部教授。研究領域は人的資源管理、経営戦略等。著書に『技術者人事論』、編著に『日・中・台・韓企業の技術経営比較』、共編著に『グローバル・ニッチトップ企業の経営戦略』などがある。

[取材・文]=浜名 純 [写真]=編集部

急速なグローバル化の潮流と競争の中、今日の研究開発者には、イノベーション推進リーダー、あるいはコンセプト・クリエーターが求められるようになってきている。換言すれば、「木登り型」人材が今、必要とされている。それはどういう人材なのか、背景や要件なども含めて、具体的に述べていきたい。

集団から個への過程で

背景には、以下のような事情がある。1980 年代後半から90 年代にかけて、日本企業は、欧米先進企業の先行モデルをキャッチアップ(追随)しており、技術開発においても既知のものを扱っていた。この時代は、研究者であっても年功序列的な評価や処遇で問題はなかった。研究者は経験を重ねることで能力を高めることができた。資格と能力と賃金のバランスが取れた状態にあったのである。

人事管理・人材マネジメントにおいては、集団全体を管理してモチベーションを上げていくという方法が中心であった。技術開発教育でも、海外の先行モデルの翻訳やマニュアルによる集団教育、OJTを通じ、「同質」な人材の「平均」を引き上げることに重点が置かれていた。

しかし、90 年代以降、日本企業はフロントランナーになり、「未知」の分野を開拓せざるを得なくなったのだが、そのためには、異能な人材を活かすことが必須となる。集団から個を活かす人事管理・人材マネジメントへの移行や、資格と能力と賃金の新しいバランスも考える必要がある。しかし、いまだ多くの日本企業が、従来型の人事管理で成功してきたために、新たな方向を見いだせずにいるようである。

R&D部門を取り巻く現状

特に不況時には研究開発費がまず削減される。そうなれば当然ながら、目の前の事業化、“今日・明日”の技術開発に追われ、“明後日”の技術開発をする余裕がなくなる。基礎研究は特に、長期間にわたる試行錯誤の繰り返しが成果を生むわけだが、多くの企業ではいまだに短期的に成果を見がちである。

加えて、近年の技術開発では、新しいものを生み出すために外部の知識を取り入れる動きがある。これに伴い事業モデル自体も、基礎研究から製品化まで一貫して1社で行う「垂直統合型」から、各段階で外注する「水平分業型」へ移行することが望ましいのだが、多くの日本企業は引き続き垂直統合型で事業を進めようとしている。これらのことも、R&D人材マネジメントに少なからず影響を及ぼす要素だ。

人材としての特性

当の研究者や技術者はといえば、自分の専門性が時間の経過と共に形骸化したり、他の技術で凌駕され“ 賞味期限切れ”になってしまったりすることへの恐れを常に抱いている。自分の保有する技術をフルに活かしたいと思っているが、そういう機会を与えられず、したくもない研究を押しつけられていれば、モチベーションは低下していく。

また、組織へのロイヤルティーよりも、仕事に対するコミットメントのほうがはるかに強い人が多いというのも、R&D人材の特徴としていえることである。やや以前のデータだが、研究産業協会(現JRIA:研究産業・産業技術振興協会)の「技術系人材の育成及び評価・処遇に関する調査」(2005年)でも、研究開発者のモチベーション維持に必要な項目として「地位」や「名誉」より「仕事の達成感」「知的好奇心」「個人テーマ」が高いという結果が出ている。

求められる「木登り型」人材

以上を踏まえ、今、必要とされる「木登り型」人材に話を戻そう。この「木登り型」とは、専門を究めたうえで、その高みから他の異質な分野を見渡せる人材のことだ。対極的なのは、自分の専門を深く掘り下げて研究する「穴掘り型」。どちらも研究開発にとても重要な人材であり、例えば動物実験を非常に上手に行う研究者など、「穴掘り型」でも熟練の技術を持った人材は欠かすことができない。

しかし、既存の枠組みを維持しながら改善・改革を進めていく漸進的なイノベーションではなく、全く新しいものを生み出すイノベーションが求められている今、「木登り型」人材がより必要性を増している。

「木登り型」イノベーターの要件

「木登り型」人材とは具体的にいえば、ソニーで「ウォークマン」を開発した大曽根幸三氏や、東芝で日本語版ワープロを開発し商品化した森健一氏のような人材を指す。こうした、社会生活を大きく変えるようなイノベーションを起こした人材の共通特性を見ると、専門知識の深さはもちろん、次のような要素があると、私もメンバーであるJRIA・平成27 年度戦略策定委員会の研究で明らかになった(図)。

「非常識」(常識的反対に潰されない)

「経営方針との整合」

「不確実な推測を重ねない能力」

「実験好き(実践的好奇心・行動力)」

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