J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 現場こそ育成の原点 「汗の値段」を大切に

快適な住空間を創造する「窓やドア」、美しい都市景観を創造する「ビルのファサード」など、さまざまな建築用プロダクツを提供し続けるYKK AP。
2013年度からスタートした第4次中期経営計画では、「商品力・提案力によるAP事業の持続的成長」を事業方針に掲げる。
「メーカーに徹する」という揺るぎない信念を貫きつつ、方針を実現するための新時代の人材をいかに育成するのか。
堀秀充代表取締役社長が語る。

堀 秀充(Hidemitsu Hori)氏
YKK AP 代表取締役社長

生年月日 1957年11月24日
出身校 慶應義塾大学 経済学部
主な経歴
1981年 旧吉田工業入社
1989年 アメリカ勤務
2000年 YKKコーポレーション・オブ・アメリカ
上級副社長 経営企画担当
2006年 YKK AP 経営企画室長
2007年 執行役員 経営企画室長
2009年 取締役 上席常務 事業本部長
2011年 代表取締役社長
現在に至る

企業プロフィール
YKK AP
1957年、吉田工業(現YKK)のスライドファスナーの輸出と伸銅品の営業を手がける「吉田商事」として発足。59年から建材の生産や販売に特化。窓やドア、ビルのファサード(正面装飾)など、さまざまな建築用プロダクツを通して事業価値を創造。
資本金:100 億円、グループ売上高:3518億円(海外を含むと4024億円※2015年3月期)、グループ従業員数:1万2300名(※海外を含むと1万6200名、2015年4月末現在)

インタビュー・文/村上 敬
写真/中山博敬

成熟市場でも量的成長は可能

―2016年は中期経営計画の最後の年度になります。現状はいかがでしょうか。

計画より好調に推移しています。初年度の13年度は消費税の駆け込みなどで、売上利益共に大きく伸びました。続く14 年、15年度は利益は13年度に及ばなかったので、16年度は何とか13年度を抜きたいですね。

さらに言うと、今年度は当社の売上のピークだった1996年も超えたいと考えています。当時は新設住宅着工戸数が160万戸で、現在は90万戸まで減りました。しかし、今は海外事業の規模が大きくなってきましたし、国内でもさまざまな仕掛けをしています。たとえ成熟市場でも、量的な成長が可能だということを示したいです。

―量的に成長する原動力は何でしょうか。

中期経営計画で「商品力と提案力によるAP(建築用工業製品)事業の持続的成長」をテーマに掲げているように、「商品力」と「提案力」がカギになるでしょう。私は、「~力」は人につくものだと考えています。例えば商品力は、企画力、マーケティング力、さらに生産技術など、さまざまな力の結集といえますが、その全てに人が絡んできます。人がいなくては、良い商品や良い提案が生まれず、企業の成長もないと考えています。

―人材の力によって生み出された商品には、例えばどのようなものがありますか。

今、推しているのは「樹脂窓」です。室内の気温差によって脳卒中などを引き起こすヒートショック現象が、世界の中でも日本は特に多いことをご存じですか。海外では室内温度が摂氏18度を切る住宅は不健康とされ、住宅を管轄するのが保健省という国も少なくありません。ところが日本は、いまだに多くの方が断熱性能の低い家にお住まいです。これを改善するのが樹脂窓というわけです。

樹脂窓は省エネにも有効です。新しい省エネ基準は2020年までに義務化され、2030年には新築住宅の過半数がゼロエネルギー住宅になります。また、経済産業省が掲げる住宅指標「トップランナー基準」がサッシにも適用されましたが、アルミだけでは基準をクリアできません。国の方針を考えても、今後、樹脂窓へのシフトが進むことは間違いありません。

肝心の技術ですが、私たちは吉田工業(現YKK)時代からファスナーで樹脂の技術を培ってきました。1982年に寒冷地で樹脂窓を展開し始めましたが、開発には、ファスナー事業部門で樹脂の担当者だった者が携わりました。商品開発力や製造技術はいったんバトンを落とすと復活が難しいものですが、そこは分社後もうまく継続できているんじゃないでしょうか。

―今もYKKグループ内での人事交流や技術の共有は頻繁ですか。

一時期ほどファスニングと建材のコラボは活発でなくなりましたが、今、再びその動きが見え始めています。例えば建設現場の仮囲いのネットにファスニングの技術を使い、簡単に開け閉めできる商品も開発されています。これからさらにいろんな新商品が誕生するはずです。

省エネ資格で提案力向上

―もう1つのカギになる「提案力」については、どのように向上させてきたのでしょうか。

樹脂窓を例にすると、当初はさっぱりでした。長年アルミを扱ってきた当社の営業は樹脂窓に対するアレルギーが強くて、お客様に提案するどころか、「暖かい地域ではオーバースペックだ」と自らネガティブキャンペーンをはっていたくらいですから(笑)。

このアレルギーを解消するために、まず営業社員に勉強してもらい、「省エネ建築診断士」という資格を取ってもらいました。現在は、全社で約630人が資格を持っています。

省エネ住宅への理解が深まったことで、提案力は着実にアップしています。かつて当社では、流通店に行って担当者に会い、カタログを置いて帰ってくるという昔ながらの営業スタイルが主流でした。しかし、今はビルダー(ハウスメーカーや工務店)のところに行って「省エネ基準は大丈夫ですか」とアプローチしています。そしてその中で、樹脂窓をお薦めするだけでなく、省エネの観点から開口部以外の部位と連動した1棟単位の提案ができる営業社員も増えてきました。また、ビル分野でも設計士さんやゼネコンに行って同じような提案をしています。これは大きな前進です。

海外はリーダー育成の場

―現在、御社は世界の11の国と地域に展開しています。グローバルの展望はいかがでしょうか。

YKKのファスニング事業は約70の国と地域に進出していますから、それに比べると当社のグローバル展開は地味に見えるかもしれません。ただ、これには理由があります。ファスニング事業で直接のお客様になる縫製会社は、基本的に人件費の安いところに進出します。人件費の安い地域は時代と共に変化しますから、YKKもそれに合わせて進出先を広げてきました。

一方、当社が扱っている建材は装置産業で、イニシャルコストや物流コストが割高で、労働集約型の産業のように人件費の安い地域に工場をつくればいいというものではない。1人当たりのGDPが高いところでないとビジネスにならないため、現状では進出先が限られているのです。

―グローバル人材の育成については、どうお考えですか。

海外会社は、グローバル人材というよりリーダーを育成する場として捉えています。吉田工業時代は、20 代後半から30歳くらいの社員が言葉も分からないまま海外に出されました。私もアメリカに赴任しましたが、最初は地理すら分からず、とりあえずフットボールチームがある街に支店を置くことから始めたほどです。

あの頃は、現地で銀行からお金を借りることも困難でした。工場のスタッフに給料を支払った後、自分たちの給料がなく、主席(社長)の家でカレーライスをご馳走になってしのいだりしていました。

このような環境に身を置いて生き抜いてきた人間は、何も与えられなくても自分で稼働する力、「自走能力」が身につきます。自走能力が悪く出ると、好き勝手に動いて上を困らせることになるのかもしれません。私自身、アメリカにいた頃は時差と距離を武器にして、本社に報告せずに勝手に動くことも多かった(笑)。

ですが、組織を引っ張るリーダーにとって、自走能力は必須の能力です。会社としても、海外赴任などの場づくりを通して、自分で動けるリーダー人材を育てていきたいと考えています。

―海外に行くチャンスを与えられるのは、どのような人材でしょうか。

支社を回って社員と飲むことが多いのですが、この時、「海外に行きたいです」と自ら申し出る人は相当に意欲が高い。多分、社長に直接、自分の希望を伝えようと酔わずに待っていたのでしょう。そこまで決意している社員は、能力はひとまず問わず、できるだけ出してあげたいですね。

―海外のローカル人材については、どのようにお考えですか。

当社の事業は日本人だけでは成り立ちません。海外でも管理は可能ですが、難しいのは営業です。建材を売る際には詳しい商品説明が必要で、語学力が問われます。日本人だけで営業に行くと、「何を言っているのか分からない」と追い返されることもあります。現地のお客様とのコミュニケーションを考えると、ローカル人材の活躍は欠かせません。最も成果を上げているアメリカの拠点や、中国でも最も売上の多い上海拠点では、ローカルの人材が社長を務めています。今後も現地出身人材に、大いに期待していくことになるでしょう。

現場に浸透する「善の巡環」

―リーダー候補以外の社員は、どのような方針で育成するのでしょうか。

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