J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2016年04月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 一歩踏み出すことが 会社の成長につながる

世界160カ国以上に医療機器や医薬品などを供給するテルモ。「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げる同社で、人材育成を担う人材開発室長の前田浩司氏は、人事と営業の現場を通じ、その理念の重みを肌で感じてきた。「私自身、現場での経験があって、今がある。
その場その場で一生懸命やり通せば、必ず新しい道が開ける」。一歩踏み出すきっかけや意欲を発揮できる機会を提供し、働きがいを感じてもらうことで、個人が成長し、会社の成長へとつながる―。そんな循環を築くことが前田氏の目標だ。


テルモ
人材開発室 室長
前田浩司 (Kouji Maeda)氏
1985年テルモ入社、岡山支店配属。その後、営業本部で管理部、営業企画部を経て、1995年より本社人事部で採用、研修、人事企画に携わる。2006年ヘルスケアカンパニーのプレジデント、2010年、販売拠点の1つである横浜支店支店長を経て、2013年人材開発室長に就任。

テルモ
1921年創立。医療機器、医薬品の製造・販売を行う。世界初のホローファイバー型人工肺や、日本初の使い切り注射器などの製品を生み出し、カテーテルや人工心肺装置などは世界でも高いシェアを持つ。
資本金:387億円(2015年3月末現在)、
連結売上高:4895億円(2015年3月期)、
単体社員数:4930名、連結社員数:2万198名(2015年9月末日現在)

取材・文/髙橋真弓 写真/編集部

認めてもらえる喜び

人間の生命に関わる尊い仕事に就きたいと医療業界に興味を持ち、大学卒業後テルモに入社した前田氏。当時は、「自分の考えを伝え、分かってもらえた、という喜びを直接感じられる営業の仕事がしたかった」と語る。

営業職を希望するきっかけとなったのは、学生時代のアルバイト。販売の仕事をする中で、何に興味がありそうかとお客様を観察し、勧めた商品を気に入って購入してもらえると、素直にうれしかったという。

「私の話に納得して買ってくれたのだと思うと、自分を認めてもらえたような気持ちになり、充実感がありました」

しかし、入社後の実習を終えて配属された支店では、経理や情報システムなどの管理を担当することに。2年後に東京の営業本部へ異動になったが、管理や営業企画を担当し、営業の現場を経験することはなかった。そして入社から10 年後の1995 年に異動したのは人事部。またしても希望は叶わなかったが、悲観的になることはなかったという。

「営業をやりたいという想いは持ち続けていましたが、どの仕事も一生懸命やればやるほど、面白さややりがいがありました」

新しい視点と価値観に触れる

人事部に異動し、前田氏が学んだのが、「経営」という高い視点からの意識と、企業における「人」の大切さだった。社長をはじめ経営幹部と接する機会が増えると、めざす方向性や想い、考えが直に伝ってくるようになった。経営の観点では、お客様だけでなく市場・競合・行政など複雑な要素があり、その中で最善の手を考えなければならない。

「例えば、ある製品の販売終了を検討する際、現場の視点では『お客様が使っている製品がなくなってしまうなんてとんでもない』と思いますが、社会に貢献し続けるという観点から、時には厳しい判断も必要です。そうした視点を持つ難しさは想像以上でした」

また、他部門との関わりも増えたことで、それぞれが大切にしているものも見えてきた。

「中でも、生産や開発部門の社員の品質に対するこだわりの強さには驚かされました。『安全と安心を提供する』という意識が常に根底に流れているのです。業績を伸ばし、『医療を通じて社会に貢献する』という企業理念の実現に向けて頑張るという目標は同じでも、それまで自分が持っていなかったさまざまな価値観やアプローチを知りました」

「同じ会社の中でこんなにも価値観が違う」という発見と、「会社とは、そうしたさまざまな価値観を持った人たちでできている」という気づきを通じて、企業における人の大切さを実感したのだ。

「だからこそ、社員が成長すれば、会社の成長につながる。人材育成の重要性を初めて感じたのもこの時でした」

医療従事者としてのプライド

前田氏は、前述の人事部から2013年に現在の人材開発室長に就く間に、一般消費者向け製品を扱うヘルスケア事業の責任者(2006 年~)と、病院を顧客とする販売拠点の1つである横浜支店の支店長(2010 年~)を経験している。「営業をやりたい」という念願が叶ったと同時に、ここでの経験が前田氏の意識を大きく変え、今の人材育成の考え方に大きな影響を与えたという。

「現場にいると、お客様に製品の良さが理解され、テルモの良さを認めてもらえることへの喜びややりがいはもちろん、お客様の存在をより身近に感じることができました」

横浜支店時代にも、忘れられない出来事があった。

ある病院から注射器を発注されたが、納期が遅れてしまった。その時、病院の担当者から、「テルモも医療に従事する自分たちの一員だと思っている。だから皆さんも医療従事者だというプライドを持って仕事をしてほしい」と言われたのだ。

「単なるメーカーとして製品を納めるのではなく、患者さんの命を守る仕事をしている―。『医療を通じて社会に貢献する』という企業理念を身をもって感じました。

現場ではそうした、ハッと思わせられるような経験をたくさんしましたが、そこから学んだのは、当然ですが“お客様がいて我々がいる”ということ。それをしっかりと感じ取ったうえで人材開発の仕事に携われたのは、本当にありがたいと思っています」

手を挙げる場をつくりたい

前田氏には研修の最後に必ず見せるイラストがある。下りのエスカレーターの真ん中に逆行するように人が立っているイラストだ。立ち止まっていれば下がってしまうエスカレーターを世の中に例え、「世の中が変化しているにも関わらず立ち止まる=現状維持であれば、下がっていってしまう。常に前を向いて進んでいくことが重要だ」と伝えている。

人材開発室では、各事業で独自に行う研修の企画・運営の支援と共に、全社統一の研修を主導しているが、中でも手上げ型研修のプログラムの充実に力を入れている。前に進もうとする積極性を尊重し、自らやってみたいという人が手を挙げられる場を多く提供するためだ。

「『人に言われて』よりも、『自分から』を大事にしたい。意欲を持つ人が一人でも増えてほしいという想いが基本にあります」

そう語る前田氏自身も、昔から自主的に研修に参加するタイプで、人事部時代には、将来の幹部候補を育てる選抜研修で第1回目の受講者として自ら手を挙げたこともある。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:1,926文字

/

全文:3,852文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!