J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

INVESTIGATION ~管理職の経験学習調査結果より~ 管理職の能力を伸ばす 経験・サポート・学びの姿勢とは

どのような経験のデザインや経験学習環境が望ましいかは、企業や業種、個人によってさまざまで、その“見立て”はとても難しい。
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)では、それらを少しでも明らかにすべく、従業員規模1000 名以上の企業に勤務する管理職及び管理職相当職を対象にアンケート調査を行った。
本稿はその抜粋報告である。

加藤宏未(かとう ひろみ)氏
日本能率協会マネジメントセンター・研修ラーニング事業本部シニアHRMコンサルタント。慶應義塾大学文学部卒業。法政大学経営学研究科博士前期課程修了(修士)。人事制度の構築・従業員意識調査等に関わる調査・コンサルティングに従事。著書に『人材開発部』(共著)など。

堀尾志保(ほりお しほ)氏
日本能率協会マネジメントセンター 研修ラーニング事業本部 商品開発部 主査。高校時代に(財)日本国際交流財団派遣生として米国に留学。南山大学経営学部中退(飛び級にて大学院進学のため)、南山大学経営学研究科博士前期課程修了(修士)。企業の管理職、リーダー育成のための教育企画に従事。著書に『コンピテンシーラーニング』(共著)など。

調査のねらい

管理職の「能力」獲得につながる「経験」と「サポート」を明らかに

タレントマネジメントを試みている企業、すなわち企業に必要な人材の能力や経験を特定し、社員一人ひとりの関連データを収集することで、人材(=タレント)の適材適所を試みている企業は多数ある。その対象として、特に着目されるのは、組織を牽引していくリーダーや管理職であろう。

そこでの方向性を決める議論に欠かせないのは、「どのような経験が、企業で必要としている能力の獲得に有効か」ということに関わる、会社なりの「見立て」を設定することである。言い換えれば、「どのような学習環境を整えるべきか」ということになるだろう。しかし、その見立ては非常に困難で、明確な形になりにくい。なぜなら、個社ごと・個別の管理職のケースだけでは、それが判断の根拠として正しいのか、確信が持てないからである。

そうした問題意識の高まりと呼応してか、組織のリーダーや管理職が経てきた経験に関わる研究も近年数多くなされており、上記の議論に有効な示唆を与えている。職場での成長を促す要因として、他者からのサポートに着目した研究もなされている。

一方で、今までの経験学習に関する調査では、経験の種別と学習内容の関係に焦点が当てられることが多く、個々の経験のレベルや連続性について言及しているものは稀であった。また、経験と他者からのサポートの効果を包括的に扱った研究も十分とはいえない。

そこで本調査においては、管理職の能力に影響を与える「外的」要因として「経験」と「サポート」という2つの側面に着目し、より多面的に「管理職として成長すること」の現象を明らかにすることにより、管理職の育成・配置に関する取り組みに貢献しようとするものである。

「管理職の能力」と「学びの姿勢」に着目

また、本調査では、「管理職の能力獲得」に影響を与える「学びの姿勢」と「アンラーン」についても検討を行った。

同様な仕事経験を経て同様なサポートを受けていても、より多くを学ぶ人とそうでない人がいる。その差が何によるものかを突きとめるために、個人の学ぶ姿勢や固定化した考え方から脱却できること、つまり「内的」な要因も同様に見ていかなくては、管理職の育成・配置に関する施策をより効果的なものとすることはできないだろう。

上記調査のねらいから、

①管理職個人の「外的」要因

②管理職個人の「内的」要因の2つが、管理職としての能力※1開発にどのように影響するか、という調査モデルを設定し、調査を実施することとした。

※1「管理職の能力」の指標には、コンピテンシーの自己評価を用いた。コンピテンシーとは、高業績者に共通する行動特性である。ここでは、管理職を対象としたJMAMの多面評価RoundReview®をもとに追加を行い9つの能力項目を設定した(項目名は図2参照)。それぞれの能力項目についての質問には、「5:非常によくしている」「4:かなりよくしている」「3:どちらともいえない」「2:ほとんどしていない」「1:まったくしていない」のいずれかで回答してもらった。

1-1 どのような「仕事経験」が、管理職の能力を伸ばすのか

1-1-1 「仕事経験」とは

まず管理職個人の「外的」要因のうち、「仕事経験」について解説する。

リーダーや管理職の成長を促進させる経験は、過去の調査からも多くの知見が得られている。米国の非営利教育機関センターフォークリエイティブリーダーシップ(以下CCL)はこの分野の研究のパイオニアであり、管理職やリーダーの成長を飛躍的にもたらす経験について多くの情報を提供してきた。日本においては、神戸大学の金井壽宏教授によって「一皮向ける経験」と訳され、2000年代に同様の調査が進められてきた。

しかし、これまでの調査で明らかになった成長に役立つ経験は、組織で成功を収めた上級管理職を対象にヒアリングされたものが多かった。そのため、語られた経験は、これから管理職をめざす者や、管理職として今後成長していく者にとっては手が届きにくいものが多いという課題もあった。

そこで、今回の調査では、CCLが提示した成長に役立つ経験※2の枠組みをベースに調査メンバーで協議を行い、10種類の経験(図1)について、一般職にも身近なレベルの経験から上級管理職に求められるレベルの経験まで4段階を設定※3し、その経験の有無と管理職の能力との関係を確認した。

※2 McCauleyetal,1994

※3 10種×4段階の経験は、統計的な検討結果によっても、当初設定した10種類にほぼまとまった。

1-1-2 管理職の能力を伸ばす「仕事経験」とは

どのような仕事経験が管理職の能力を伸ばすのだろうか。今回設定した10種類の経験の有無が、各能力に与える影響を分析した(図2)。

その結果、最終意思決定者としての役割を担う経験である「重大な意思決定経験」が全ての能力にプラスの影響を与え、かつ影響度も最も大きいことが分かった。一方で、「業績責任経験」は、いずれの能力にも影響を及ぼしていなかった。単に管理職として業績責任を負うだけでは能力は伸びず、自分が意思決定の最後の砦となることで、物事への向き合い方が変わると考えられる。

経営トップから管理職への期待が高い「変革挑戦力」については、先の「重大な意思決定経験」に加え、「権限によらないリード経験」「頻繁な変化への対応経験」がプラスの影響を与えていた。変革推進時は、規定路線で業務が進んでいる時よりも周囲からの抵抗が生じやすい。そのため、ポジションパワーだけで関係者を納得させ、巻き込むのは難しいケースが多い。その点、「権限によらないリード経験」をしていると、人はどのような時に抵抗し、逆にどのような条件が揃うと納得して動いてくれるのか勘所が働くようになると考えられる。また、変革推進時には、進め方自体を開拓する動きが必要なため、前提としていたことが次々にくつがえるということが起こり得る。

免疫がないとそうした状況で心が折れてしまいがちだが、「頻繁な変化への対応経験」を経ていると、こうしたことは起こるものだと捉え、前向きな対処ができると考えられる。

仮説と反していたのは、「業績立て直し経験」「多様性対応経験」「異文化適応経験」がいくつかの能力にマイナスの影響を与えていたことである。今回の調査では、管理職の能力を本人に評価してもらう形式をとったため、実際に能力が下がったというよりは、これらの経験をしている人は、能力の自己評価を低めに回答するという影響があったと考えられる。「業績立て直し」「多様性対応」「異文化適応」は、いずれもそれまでの順当なやり方では対応できないことが多い。そのため、自己の能力を謙虚に受け止めるようになるのではないかと推察される。

ただし、今回の調査でのマイナスの影響値はいずれも小さなものだったため、この点については今後の調査での検証を待ちたい。

1-2 どのような「サポート」が管理職の能力を伸ばすのか

1-2-1 サポートとは

本調査では「仕事経験」以外に、個人の外的要因として、「サポートネットワーク」についても調査した。以下ではそこから分かった実態と、管理職の能力開発との関連について述べる。

一般的には、管理職に対する職務に関連するサポートといえば、直属上司が中心と考えがちであるが、より広い視野を持った管理職の育成をめざすという観点に立てば、直属上司に限定せずに、さまざまな「支援されうる可能性のある」人を想定していくことが重要と考えた。さらにそこから受けるであろうサポートの種類を想定することで、上記の調査テーマに対応することとした。以下に具体的な内容を示す。

サポートを行う「支援者」としては、家族、社外といった職場外の関係者も含め、6種類を設定した※4(図3-1)。また、他者から得られるサポートの種類を分類した結果、7種類のサポート内容を導くに至った(図3-2)。

上記サポートの内容と、支援者のマトリクスを作成し、それぞれについてサポートが「ある」か「ない」かを回答してもらった。

※4 中原(2010)は、他者からの支援を「業務支援」「内省支援」「精神支援」に分類し、上司の「精神支援」「内省支援」、上位者・先輩の「内省支援」、同期・同僚の「内省支援」「業務支援」が「能力向上」に資することを明らかにした。そしてそのうえで、職場以外の「越境学習」の可能性について論じている。

一方、その能力向上がいかなる能力の向上を指しているのかや、職場の外の支援者によってどのような学習がもたらされるかは明らかにされていない。また、職場外の支援者による学習支援の詳細も示されていない。そこで、本調査では、先述のように分類した「管理職に必要な能力」に従い、それらのどの能力に、職場外の支援者も含む、誰のどのような支援が影響しているのかについて分析を試みた。

1-2-2 能力を伸ばす「サポート」とは

誰のどのようなサポートが、管理職の能力獲得に影響するのかを見ていこう。サポート内容と支援者別に、管理職の能力に与える影響を調べるために、重回帰分析を実施した(図4)。

結果を見ると、特定の支援者、サポート内容がいくつかの能力の向上にプラス(+)やマイナス(-)の影響を及ぼしていることが分かる。

以下に特徴的な傾向を数点抽出していく。

<能力別>

○「方向づけ」系の能力向上には、上司からの「意味づけサポート」、同僚・先輩からの「批判指摘サポート」、社外の相談相手からの「専門的助言サポート」がプラスに影響

○「巻き込み」「実行」系の能力向上には、同僚・先輩からの「経験談共有サポート」がプラスに影響

多様な観点から、「客観的に」仕事を意味づけてもらったり、現実の仕事をベースとした指摘や意見をもらうことが、自らが行おうとしている仕事の再考や方向性の決定といったことに結びついていくのだろう。

一方、実践面の能力の向上を促進するものとしては、批判や専門的な助言といった客観的指摘よりも、同じような経験をした際の実感や、経験の意味合いの共有といった種類の、共感的なサポートが有効なのかもしれない。

<支援者別>

○上司からは「意味づけ」サポートが多くの能力にプラス

○同僚・先輩からは「批判指摘」「経験談共有」サポートが多くの能力にプラス

○社外からの「専門的助言」サポートは変革挑戦力にプラス

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