J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

CASE 2 良品計画 効率化のウラに経験学習あり チームで振り返りを習慣化する マニュアルと改訂の仕組み

「無印良品」ブランドを展開する良品計画では、全部門で
業務効率化のためのマニュアルと、それを常に改善する仕組みがある。
業務を明文化し、常に見直すために、社員やチームで自分たちの仕事を振り返り、学んだことを次のアクションに生かすという組織的な経験学習サイクルが回っている。
いかにしてそれが可能になったのか、経緯や秘密を探った。


光武秀一氏 業務改革部 店舗サポート課 課長代行
城内達朗氏 業務改革部 店舗サポート課
石崎雅巳氏 業務標準化委員会 事務局長
小川恭平氏 業務標準化委員会(兼) 人材育成委員会 課長

良品計画
1980 年、西友のプライベートブランドとして「無印良品」誕生。1989年に西友から独立し(株)良品計画が設立。「無印良品」の企画開発・製造から流通・販売までを行い、衣料品から家庭用品、食品など日常生活全般にわたる商品群を展開。現在では26カ国・地域に700店舗を構える。
資本金:67億6625万円、年商:2602億円(良品計画グループ営業収益)、国内店舗数:直営店284店舗、商品供給店117店舗、従業員数:6160名(パートタイム社員4620名を含む)(いずれも2015年2月期現在)


[取材・文]=木村美幸 [ 写真]=良品計画提供、編集部

●概要 マニュアルと経験学習

『無印良品は、仕組みが9割』などの、同社前会長・松井忠三氏の著書を読んだことがある人も多いだろう。書名通り、同社では徹底した仕組み化が行われてきた。

「仕組み化」には、業務のマニュアル化が含まれる。販売店舗のマニュアルは「MUJIGRAM」(ムジグラム)、本社業務のそれは「業務基準書」と呼ばれるものだ。

2つはそれら自体が、常に社員やチームが仕事を振り返り、改善する仕組みでもある。

ここに、同社の組織的な「経験学習」があるといえる。

●「MUJIGRAM」とは 本当に使える店舗マニュアル

店舗マニュアル「MUJIGRAM」から、その仕組みを見ていこう。

MUJIGRAMは無印良品の全ての店舗のバックルームに必ず並んでいるA4サイズのバインダーだ(デジタル版もある)。2000年に作成が開始された。「売り場に立つ前に」「店内業務」「売り場づくり」などテーマ別に分けられ、全部で13冊ある。商品のディスプレイ、接客、発注など店舗での業務が網羅されており、総ページ数は約2001ページにおよぶ。

MUJIGRAM以前にも、「店舗運営基準書」が作られていたが、本部主導で作られたため活用されず、埃をかぶっていたという。

しかし松井社長(当時)の危機感から後押しされた強烈なトップダウンで、効率化の1つの策として、店舗運営に関する“血の通った”マニュアル作りが行われたのだ。

現場で使われるものにするにはやはり、現場の人間が作らなければと、ベテランの店長が委員に任命され、作成が始まった。

「全店舗のスタッフから意見を募り、半年がかりで現在の形にまとめ上げました。その後も改訂を重ねており、現状は年間1万件の意見を基に、更新を行っています」と語るのは、MUJIGRAMの改訂やメンテナンスを担当する業務改革部・店舗サポート課の課長代行、光武秀一氏である。

●店舗での使われ方

店舗では、アルバイトも社員も店長も、日々の業務の中で何か困ったり迷ったりすることがあれば、すぐにMUJIGRAMを開く。そして、必要なことが書かれていない時や、書かれている内容が実情と違っていたら本部に連絡・提案をするという。

OJTも、MUJIGRAMをベースにするため、誰が教えてもブレが最低限になる。同じく業務改革部・店舗サポート課の城内達朗氏は言う。

「新人教育にもMUJIGRAMを活用しています。まずは1冊目の『売り場に立つ前に』で、社内の基本ルールから、出勤時にすること、笑顔のつくり方、挨拶の仕方などを覚えていくんです」

新人はまずは1冊目をマスターし、そこから2冊目、3冊目と順番に進みながらスキルアップしていけるような構成になっている。

「どの店のスタッフも及第点レベルには、すぐに育ちます」(光武氏)

●記述のポイント①

MUJIGRAMの記述には、ポイントが2つある。1つは、仕事の流れに沿って誰にでも分かりやすい書き方になっていることだ。

「例えば自転車販売の場合、以前は組み立て方やパーツの解説は商品部、盗難保険の手続きは法務部、配送の段取りは物流、レジ打刻については販売部と、各担当部門がそれぞれ別のマニュアルを作っており、スタッフはそれらを一つひとつ見なければなりませんでした。これでは使われなくなるのは当然です。そこでMUJIGRAMで“自転車承り”というタイトルにまとめ、仕事の流れに沿った書き方に改めました」(城内氏)

内容によっては写真も使いながら美しくデザインされており読みやすい。章立ても工夫され、知りたいことがすぐに見つかる。

●記述のポイント②

2つめのポイントは、どの業務のページにも、具体的な手順の前に、その目的や意味合いが簡潔に書かれた「なぜ」という項目があることだ。

「仕事の意義を理解していると自発的に取り組めますし、理解度や習熟度も上がるように感じます」(城内氏)。意義や理由が分かれば、記憶に残りやすく、記載された方法で仕事を進める必要性も感じるだろう。

●振り返りの仕組み 「顧客視点シート」で改善提案

同社のMUJIGRAMが一般的なマニュアルと決定的に違うのは、「ずっと未完であること」(城内氏)。常に現場の声を吸い上げ、それを基に記述内容を更新し続けていることだ。店舗スタッフの声は、イントラネットを介して集められる。

「店舗のPCから、『顧客視点シート』(図1)というシステムを開いて書き込みます。これはお客様から寄せられた声や、店で困っていることなどを本部に伝えるためのもので、その中に業務手順や商品に関する改善提案を投稿できる欄があります」(光武氏)

具体的には、どういった改善案が上がってくるのか。

「例えば、お客様の求める商品が店頭になく、取り寄せる場合。以前は、商品が店に届くと必ずお客様に電話でご連絡をしていたのですが、電話連絡は不要、もしくは何度も連絡をもらうのが嫌、と思われるお客様も結構いらっしゃいます。そこである店舗では“希望する方だけにご連絡する”という方法に変えてみたところお客様から好評だったので改善案として提案。MUJIGRAMに採用され、現在では全ての店舗でこの方法を採用しています」(城内氏)

現場社員の日々の振り返りによる気づきを共有する仕組みなのだ。

ちなみに上記の例のように、MUJIGRAMに記載された内容と違うことを、独自に実践することは問題視されないのだろうか。

「お客様にとってより良い形に改善するのならかまいませんし、良い方法を考案したら、自分たちの店舗でだけ行うのではなく共有して、全店で同じようにやりましょう、というのが我々の考え方です」(光武氏)

マニュアルは絶対ではなく、改善すべきことは改善していく―単にその通りやればいいという“マニュアル人間づくり”ではないのである。

●改善提案のフロー

MUJIGRAMの改訂は滞ることなく、最新の状態が保たれている。それは、現場の声を吸い上げるところから、全店舗のMUJIGRAMの該当ページが差し替えられるまでのフローもしっかりと仕組み化されているからだ。

まず、改善点や方法を思いついた店舗スタッフ(パート・アルバイト)は店長に相談する。店長はその内容が本部への提案にふさわしいと判断したら、先述の「顧客視点シート」(図1)に記入する。この時、写真やイラスト、参考資料なども添付できるようになっている。

提案の内容は管轄のエリアマネジャーがチェックし、本部で検討すべき提案だと認めたらOKボタンを押す。すると担当部門へ送られる。

集まった意見や提案は、担当部門長が検討し、採用を決めた場合はMUJIGRAMの改訂案が業務改革部に送られ、光武氏と城内氏が、表現などを整えながら実際に改訂する。

新しい業務が増えた場合も、担当部門が作成した文章を基に、業務改革部が新しいページを作成する。

「店舗からの提案を、まずエリアマネジャーがチェックするのは、全店舗の改善につながる内容かどうかを見るためと、提案してきた店固有の問題ではないか、選別するためです」(光武氏)

●MUJIGRAMのメンテナンス

改訂されたページは印刷され、全ての店舗へ。その際、差し替えた古いページは業務改革部に送付してもらい回収する。こうすれば、差し替えられたかどうかが分かり、全店舗のMUJIGRAMを最新の状態に保つことができる。

「紙のページの差し替えは3カ月に一度。店内のPCで読めるデジタル版MUJIGRAMの更新は1カ月に一度行っています」(城内氏)

日々の経験を振り返る機会を設けて、そこでの気づきを的確な表現にして整理。さらにそれを基に実践し、その経験を再び振り返る―このサイクルを確実に繰り返す仕組みは、個人と組織での経験学習のひとつの形だろう。

●「業務基準書」とは 本部業務もマニュアル化

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