J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2015年08月号

OPINION2 選択肢は短時間勤務だけではない 働き方の自由度を高めればキャリアと育児・介護の両立は可能

短時間勤務制度を利用すれば、仕事と育児・介護の両立は可能になるが、責任ある仕事を任せてもらえなくなり、キャリアの面で不利になりがちだ。
女性活躍の問題に90年代後半から取り組んできた英国、ドイツでは、働く時間を減らすのではなく、働き方の自由度を高めて両立を図る試みが進んでいる。
数年にわたり、両国の実態を調査してきた法政大学の武石 恵美子教授が、欧州の実情と日本がめざすべき方向性について語る。

武石 恵美子(たけいし えみこ)氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
法政大学キャリアデザイン学部教授。筑波大学卒業後、労働省(現厚生労働省)を経てニッセイ基礎研究所に勤務。2001年、お茶の水女子大学人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。東京大学社会科学研究所助教授等を経て2006年4月より法政大学。専門は人的資源管理論、女性労働論。兼職として、厚生労働省「中央最低賃金審議会」「労働政策審議会雇用均等分科会」委員など。著書多数。
[取材・文]=平沢真一 [写真]=編集部

働き方の自由度に差

2010 年6月に「改正育児・介護休業法」が施行され、日本でも育児休業や短時間勤務の制度が定着しつつある。しかし、ほとんどの日本企業では、育児休業で生じるブランクや短時間勤務をハンディキャップと捉える傾向がある。したがって、制度を利用する人には第一線の仕事を任せないことが多い。

せっかく制度を充実させても、キャリア面でマイナスになるようでは、利用を躊ちゅう躇ちょする人が出てくる。また、利用したとしても、責任の軽い仕事しか任せてもらえないことで働く意欲が下がったのでは、結局は会社を去ることにもなりかねない。

私はこの問題を解決するヒントを求め、英国とドイツにおいてワークライフバランス(以下WLB)に関する調査を行ってきた。2010年にはそれぞれの国の約1000人のビジネスパーソンにアンケート調査を行い、2013年には英国企業5 社、ドイツ企業3 社を訪問して詳しいヒアリング調査を実施した。両国が進めているWLBの実態を明らかにすると共に、日本がめざすべき方向性について検討することが目的である。

調査によってまず明らかになったのは、日本と英国・ドイツでは、図1の通り、人々の働き方に大きな違いがあることだった。なお、この図における日本のデータは、2009 ~ 2010 年にかけて約1万人のホワイトカラー、それも正社員を対象に行った調査をもとにしている。

昨今は柔軟な働き方が広がっている印象を持つ人も多いだろうが、このデータを見る限り、日本では9 割以上の人がフルタイムで働いている。

一方、英国とドイツでは、フルタイム勤務の人は全体の7割程度に過ぎない。ドイツでは全体の約3 割がフレックスタイムで働いているし、英国もフレックスタイム利用者や短時間勤務者の割合は高い。また、在宅勤務の状況を見ると、英国では男女平均で8%、ドイツでも6.5%いるのに対し、日本はほぼゼロという状態である。

「英国とドイツの労働者は、日本に比べて働き方の自由度が高い」。調査結果から見えてきたこの事実は、実は両国がWLBの実現のために行っている取り組みと深い関係がある。

ワークスタイルを多様化

問題意識や社会的背景は、日本も英国・ドイツも同じだ。女性の社会進出、少子高齢化、価値観の多様化が進み、キャリア形成とライフイベントを両立させることが急務となっている。

問題は、いかに両立させるかだ。日本と欧州の最大の違いはここにある。日本では、もっぱら短時間勤務制度など特別な制度の充実によって、仕事と生活の両立を支援しようとする。それに対して欧州では、ワークスタイルの多様化によって、問題を乗り越えようとしている。英国やドイツにも短時間勤務制度はあるが、あくまで選択肢のひとつに過ぎない。

例えば欧州の中でも比較的労働時間が長いとされる英国には、90年代後半からWLB政策に取り組み、経験を重ねてきた歴史から得られたひとつの知見がある。短時間勤務だけが解決策ではない、ということだ。フレックスタイムや在宅勤務など、多様な働き方をうまく組み合わせると、WLBを保てる人が意外に多い。

短時間勤務という選択肢は、ビジネスパーソンにとって不利益な点も多い。勤務時間が減れば収入が下がるし、フルタイム勤務に比べて仕事の経験値が減るため、スキルやノウハウの獲得が遅れる。そのために、昇進が難しくなったり、希望するポストに就けなくなったりする。

自由度の高い働き方を組み合わせることで、短時間勤務をせずに仕事と生活を両立できるなら、キャリアの面から見ても理想的だ。そのような観点から、英国・ドイツでは先進企業を中心に、働き方の自由度を高める施策が打たれてきた。以下、英国での取り組みについて詳しく見てみよう。

フレキシブルワーキング

2002年、英国では「フレキシブルワーキング法」が成立、翌年施行された。

同法律によると、組織の従業員には自分が希望する働き方を事業主に請求する権利があり、事業主にはそれを真摯に検討することが求められる。従業員の希望を実現することが難しい場合には、事業主と従業員が話し合い、合意点を見出す。これにより、英国では働き方の自由度が格段に上がった。

例えば、早朝6時から働いて午後早く帰宅したり、逆に勤務時間を後ろ倒ししたり、あるいは昼休みを長めに取るなど、ライフスタイルに合わせて勤務時間をシフトしている人が大勢いる。週の何日間か在宅勤務する人も多い。さらには、月曜日から木曜日までの4日間で5日分働き、金土日の3日間を休日にするなどの「コンプレスドワーク(Compressed Work)」という働き方もある(図2)。

法律が施行された当初、対象者は未就学児を持つ従業員に限られていたが、その後、数度の改正が行われ、現在では、全ての労働者がさまざまな理由で利用できる制度になった。

私が調査した英国の大手メーカーでは、数万人いる従業員のうち9 割以上がこの制度を利用し、約8 割が週1日以上、在宅勤務していた。全社員が同時に出社することがなくなったため、オフィススペースを全社員の7割分にカットし、ほとんどの机をアドレスフリーにした。また、短時間勤務を選ぶ人がほとんどいなくなったため、一部を除いて制度自体を廃止した。

同様に、フレキシブルワーキングの導入によって短時間勤務制度の利用が減ったとする企業は、訪問した会社だけでも、他に2 社あった。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,233文字

/

全文:4,465文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!